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魔力回復はおにぎりで  作者: 金子ふみよ
第三章

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フィフェティがやって来た④

 フィフェティが気を失っている間に、兄から妹へ異世界転移の顛末がたどたどしくも語られた。「なんでお兄なの」、「帰って来れなかったらどうするのよ」、「怪我したらどうするの」などなど合いの手も相槌もかなわない問いが節々で差し込まれたのである。妹の懸念はまったくもって正しい。訊かれながら、ラワタ国との往来を思い出していた。ほとんど間一髪の行き来だった。よくもまあ、無事だったものだ。我ながら肩をすくませて、感心するくらいである。今になって事情を知った妹には存外不安をかけてしまった。妹の声は怒っているようで、戸惑っているようで、どこか安堵しているようだった。

 ところで。話しながらと言うわけではないのだが、実は根本的に晴れないことがあり、案の定妹が疑念を挟んだ点がある。

「俺がラワタへ行ったり、お前がこっちに来たり、そんな魔術があるのか?」

 姫崎見がフィフェティに確認しておかなければならないことだった。偶発的な転移と思っていたところが結果的には二度渡ることになり、さらには転移して来るとなれば少々必然的とさえ考えなければならない。ましてや魔術とやらが行使できるとすれば、ラワタへ飛んだ人々が姫崎見以外にもいるということになる。ところがラワタで日本人に会わなかったどころか、どっかから転移して来たことさえも驚かれたくらいである。ということはラワタにとっては姫崎見が地球からの初めての来訪者であり、また仮に召喚とかの類だとしても姫崎見が出来たことと言えば、おにぎりを食わせたことくらいである。まったく勇者または戦士に属する健闘とは大違いである。

「召喚……あったような気もするが、私が行使した魔術ではない」

「だろうな」

「あの時。すでに私は魔術を行使していた。そうでなければあの魔獣にはかなわなかった」

 しゃべりだせばどうにかいつも通りのフィフェティだから、魔術やらを使っていてもかなわなかったのではないかと再確認しようとしたがその隙も与えずに、

「もう致し方なく秘術を使うしかなかったのだ。師匠からも極力行使を制限されていた。私とて人生で秘術を行使するなど夢にも思わなかった」

「その秘術とやらのせいでまさしく夢みたいな事態になっているのだがな」

「切迫した戦況だったのだ。私には他の選択肢がなかった」

「で、その秘術がどうしてお兄に関連するのよ」

「分からない」

「は?」

 とりあえずラワタ国で行使した魔術とかいうののせいで姫崎見は地球から転移した、まさに召喚魔術と理解できるはずなのに、女騎士がやらかしたのはそれを目的とした術ではないと言う。姫崎兄妹の思考停止は、フィフェティの無理解をはるかに凌駕した。

「分からないんだ」

「だって使ったんでしょ。魔法だか魔術だか」

「ああ。秘術を行使した。しかし、なぜケンが来たのかは分からないんだ」

 秘術とはいえ魔術と言うならば、その内容をそれこそ師匠からの免許皆伝時に取得しているのではなかろうか。異世界だから理解できない、と匙を投げてしまえば、異文化コミュニケーションについてを英語の授業でALTから授けられた高校生としては苦虫を噛むことになってしまう。とはいえ、フィフェティでなければ、もう少し理解できるように話してくれるのではと姫崎見は頭を抱えるものの、ここにいるのはまさにフィフェティその人しかいないので頭痛ものが解消されることはないのである。

「分からないって、そんなことが秘術だって言うの? 無責任じゃない」

「いやはや面目ない。しかし、そういう秘術なのだ」

 姫崎妙のクレームに、女騎士はまったく説明になっていないけれども、とても重要でそれをとっとと言えよクラスの発言をした。

「「……は?」」

 フィフェティへの反論を言いたいように姫崎妙にさせておいたのだが、姫崎見は結局口を挟んでしまった。

「何が起こるか分からない、そういう秘術なのだ」

 そんなことをあっさりと颯爽と言いのけられるものだ。魔獣との対戦中だったのに。確かに追い詰められていたと言えば、究極の選択肢として「あり」なのかもしれないが、巻き込まれた一介の男子としては甲冑よりも重いため息にもなるし、

「……なにそれ」

「『ドラクエ』で言うところのパルプンテか」

 異世界の意味不明の秘術で異世界に兄が拉致されたとあって、妹は絶句と憤然がごちゃまぜになる。

「ぱる。ぷんん・て、それはどういう食べ物だ?」

「……」

「単語をすべて食に絡めるな」

 姫崎妙は今度こそ絶句をし、女騎士の浅はかさに何度目かの嘆息である。その兄はすでに慣れてしまったのか、冷徹な一言を投げつけた。

「とりあえず、秘術とやらが機能してしまったことはもう済まそう」

 男子高校生の呪文はやはり魔力がなかったのだろう、女騎士はどこ吹く風である。しかし、フィフェティの言う通りでもある。この期に及んでは、そうしないと話が全く進まない。このタイミングでお茶を淹れなおした。姫崎妙もリビングを一旦出た。

「本題に戻ろう」

 閑話休題というか本当に小休止になってしまったので、議事進行を改める。異世界の女騎士がご足労なさった経緯を聞かねばならない。男子高校生と女子高生が女騎士の言葉を待った。

「おにぎりが世界を滅ぼすってなんだよ」

「ああ、オニギリが、オニギリが」

 やはり表情が悲痛になる。なるのだが、どうあっても似非外国人の発音が抜けきらないので、深刻さ半減である。


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