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通学路
キッチンタイマーが落ちていた。
なんということもないいつも通りの朝。薄曇りな空が昨日と違うくらいだ。テレビ番組の「今日の占い」の途中で家を出る時間も同じだった。高校への道程も変えてはいない。住宅街に人通りも車通りもないわけではない。それなのに、通学路のこんな途中で姫崎見が目ざとく見つけるまで、真新しいキッチンタイマーを誰も気にも留めなかったのだ。一般の男子高校生にとっては完全に無視するキッチングッズも、炊事を担う彼にとってはスルーできる遺失物ではなかった。ちょうど新しい品を購入しようと思っていたのだが、そんな我欲を押し殺して、念のため警察に届けようと、拾った拍子である。いくつかあるボタンの中、ちょうどぼんやりと点灯した“秒”のボタンを押してしまった。