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第81話 対面

明るい部屋へ入って目が慣れてきた私達の前には、真っ白な空間が広がっていた。高く作られた天井につるりとした素材でできた白い壁と大理石のような素材の白い床、白い革張りのソファーに銀色のローテーブルが置かれていて他の家具は見当たらない。外観はマンションだったのに、中は全く生活感がなくそれこそSFや近未来的な映画に出てくるような部屋だった。


そして部屋の脇には、先ほど中へと招いてくれた褐色肌の二十代半ばに見える男性が立っている。彼の額には小さな角が一つ生えており、なぜかスーツを着ていた。


「お掛けになってお待ちください。こちら煎茶です、どうぞ」

「あ、どうも……」


「王様、自分で呼びつけといて待たせるなんて恥ずかしいですから!」

「まだセーブ出来ていない! あと少しだけだ!」

「もう勇者待ってますよ、早くしてください!」

「セーブポイントが見つからない! ちょっと待てって言っておるだろ! あっあった! 早く書き写さんと……」


奥の部屋から何やら聞こえてくる。セーブって言った? 魔王は何をしているのだ。


だいたい、魔王との面会だというのにマンションの一部屋とは肩透かしもいいところだ。赤絨毯が敷かれた石造りの大広間のその先に、金でできた玉座があってそこに魔王が座ってるとかじゃないのか。


悶々と考えながらもしばらく待つと、もう一人のスーツ姿の褐色肌の男性とタキシードを着た褐色肌の男性が奥の部屋から出て来た。室内の扉が開く時、自動ドアのようにシュンという音と共に素早く横にスライドした事でケンが興奮気味だ。部屋に入場した時に魔王の登場メロディーが鳴るのかと期待していたが鳴らなかったし、高笑いも讃美歌も響かなかった。


タキシードの男性は頭の両側からバッファローのような立派で黒く大きな角を生やしており、見た目は二十代半ばだが貫禄があった。おそらくこの人が魔王だろう。角が他の人より段違いに大きいこともあるけれど、他の二人の男性よりも存在感がありすぎる。


髪は黒髪で長く、首の後ろで一つにまとめてある。その眼は灰色をしており少々タレ目で表情はおっとりとしている……どうみてもソルさんだった。ソルさんそっくりの人が目の前にいた。


「ソルさん! こんなところで何してるの?! その角なに?!」

「タケ落ち着け、兄弟か双子だろう。しかし瓜二つだな」

「でも兄弟で髪型まで一緒にする? 絶対ソルさん本人だよ!」


「我はソルという名ではないぞ。我はマニだ。この国の王をしている。お主らが勇者か」


ソルさんにそっくりな魔王はマニと名乗り、ソルさんそっくりの動きでソファーに座り、ソルさんそっくりの動きでお茶を飲んだ。仮に兄弟か双子だとしてもここまで似るだろうか。私はお辞儀とか礼をするのも忘れて食い入るように魔王マニを見つめてしまった。いや魔王相手にお辞儀は必要だろうか。ケンと銀太もそんな私に呆れつつソファーに座ったままでいる。魔王の登場にそれでいいのか。


「この銀髪の銀太が勇者候補で、俺とこいつは間違えて召喚された一般人だ。俺がケンでこれがタケ」

「そうか、やはり召喚の儀は行われてしまったか。あれほど隠せと命じたのに……」


「ねえ魔王さん、ソルさんの事知らないですか? あなたとそっくりで、あっそうだ! スマホで写真撮ったんだった! ちょっと待って……ほらこれ見て!」


スマホにソルさんの画像を表示し、魔王マニの目の前に差し出す。王都を出るときに写真撮っておいて良かった。こんなことで役に立つとは。私の差し出したスマホを覗き込む魔王マニと側近らしきスーツの男性二人。なぜか銀太も覗き込んでいる。


「角がないではないか。小さくて見えていないのか? ならばじいさんに捨てられたんだろうな」

「じいさん? 先々代の魔王ってこと?」


「そうだ、じいさんは魔王と名乗って好き放題やっていた。自分の子や孫が生まれても角が小さければ気にくわないなどと(のたま)い、人族の山に捨てたりしていたのだ。王になるからには角は立派でなくてはならないと口癖のように言っていた。だからそいつは我の兄弟かもしれんが、捨て子だろう」


「反応薄っ! 自分の兄弟なのにそんなもんなの? 魔王さん冷たくない?」

「さっきも言ったがじいさんは好き放題やっていた。目に映る女全てに手を出し、子が産まれにくい種族だというのに我が一族だけ子孫繁栄しすぎたくらいだ。しかし産まれた殆どの赤子が捨てられた。父さんと母さんは一夫一妻であったがそれはもう頑張って沢山の子を産んだと聞いている。しかし大体じいさんに捨てられた。あと我はマニだ」


魔王マニはこともなげにそう言うと、私の手から軽々とスマホを奪った。スマホを両手で持ち、ぐるぐると回しながら観察している。


「血の繋がった兄弟かもしれないって言うのに……人間と感覚が違うの?」

「共に育ったなら情も沸くだろうが、今の我からしたらそいつは他人だな。……それよりこの機械はお主らの世界の道具か? これで何が出来る?」


ソルさんの話が、それよりで片付けられてしまった。私だけがテンション上がっていた様だった。もしもソルさんが現在不憫な暮らしをしていたとしたら何としてでもこの魔王マニに引き取ってもらおうかと思ったけれど、今のソルさんはお城で不自由ない暮らしをしていたし、すぐには必要ないかもしれない。あれ?でもシモンさん亡くなったなら不憫な生活を送ることになっているのだろうか。


「その機械はさっきみたいな写真を撮ったり音楽を聴いたり、俺らの世界では離れた場所でも会話が出来るんだ。ゲームも出来る」

「何っ!? ゲームだと! お主らはどの世界から来た?!」

「俺らは地球の日本という国だ。銀太は知らんが」

「よしっ! 地球キタ! しかも日本!」


魔王マニは小さくガッツポーズをして喜んでいるようだった。ガッツポーズって和製英語だっけ。名づけは確かボーリングかボクサーの……それについて考えるのは今度にしておこう。でもそのガチャでアタリが出た時のような喜び方は何だ。


魔王マニは私のスマホを握りしめたままソファーに座りなおし、真剣な顔をして話し出した。


「我は異世界召喚を推奨していない。百年前は勇者と聖女を使い、召喚方法を記した書物を国から消し去ってもらった程だ。しかしその後ある事が起こり、我には地球から召喚された者が必要になった。勇者が我を訪れたと聞き、もしや召喚勇者かもしれんと思い急いでお主らを呼び寄せたのだ。地球から、しかも日本から来てくれて助かったぞ!」



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