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第67話 宿り木

 夜になり予定通りノアの店の向かいのお店の行列へ並ぶ。昼間よりも長い列に銀太とフレデリックさんは辟易していた。行列に並んでいる時に周りの人達の会話で分かった事は、このお店の名前が『ヤドリギ』だという事と、()貴族令嬢が働いている事だった。



「はらがへった。何でもいいから食べ物をくれ」

()貴族とはどういう事だ? 今は平民だというのか? 高飛車な貴族令嬢に平民の生活が送れるとは思わん。このような店で働くなどもってのほかだ。元貴族というのは嘘で貴族のように飾り立てたというのが正しいのではないか? 俺様は貴族の女なら顔を見ただけで判断できるぞ。その傲慢さがにじみ出ているからすぐに分かるのだ!」


「銀太もうちょっと待ってね。あと少しだから。でも注文はケンにお願いしてね。私はお金なくなっちゃったし……」

「…………女は苦手だ」

「その設定、銀太のだから。レオさんは隅っこのほうに座っててくれたらいいよ。隅っこに座っても体が大きいから一番目立っちゃったりしてね。ご令嬢が怖がって泣いて逃げ出しちゃったりして! アハハ……」

「だからやめろ」



 やっとの事で順番になり席へと案内される。店内はソファーが所狭しと並べてあり、どの席にも数人のお客さんに対して綺麗なドレスのようなワンピースを着た女性が一人付くように座っていた。照明はわざと薄暗くしてあるようで、所々にロウソクが灯してあり雰囲気作りはばっちりだった。私の異世界キャバクラのイメージそのままである。シャンデリアとかシャンパンタワーみたいな煌びやかな物はなかったけれど。



 狭いボックス席に座ってしばらく待つと、店主らしき小太りの気弱そうな男性と白のドレスワンピースを着た華奢な女性が席へとやって来た。


「ようこそおいでくださいました。こちらのお席にはこのティナが付きますので給仕は彼女にお任せください」

「不慣れですが宜しくお願いいたします」

「大変ありがたいことに満員でございまして、一定時間が経ちましたらお声がけを致しますのでご退店をお願いします。追加料金につきましてはティナからお聞き下さい。なお、ティナへのおさわりは厳禁となります」


 軽いカーテシーのような礼をとった彼女は、綺麗な顔立ちをしていて肌の色も白く艶やかな長い金髪で、どこからどうみても貴族のご令嬢だった。ずっと独り言を言っていたフレデリックさんも口を閉じて彼女を凝視している。貴族か平民かを顔を見ただけで判断できるとか言っていたけれど、これなら私にだって判断できる。というか時間制だしデフォルトで女性がつくとか、まさにキャバクラではないか。もしくはガールズバーとか。どちらも行った事ないけど。


 私達の顔ぶれをサッと見た彼女は、奥の席に座っていた私の隣に座りたいと言い出した。給仕するのに奥に座るとか。それに逆隣りはレオさんだよ。怖くはないのか。


「初めまして。自己紹介とかしたほうがいいのかな。でもお腹がすいて待ちきれない人が一人いるから食事を注文してからでもいい?」

「勿論でございます。私が料理人へ伝えて参ります。お酒につきましては私がお注ぎすることも可能ですが、その場合は追加料金が発生します」

「お酒は頼まないけど……ちなみにどれくらいかかるの?」

「酒代と同額かかります」


 給仕としてデフォルトで付いた人がお酒を注いで、料金が二倍になるとはこれいかに。お酒自体の金額を見ても料理よりもかなり高い気がした。一緒にいるメンバーが女性に飢えてなくてよかった。フレデリックさんは知らないけど。


 他の席の人はどうしてるのだろうと周りの席を見渡してみると、ほとんどの男の人がお酒を注いでもらっている。料金が高くてもお酌して欲しいのか、それともお酌目当てで来店しているのか。


 料理のメニューはお昼に食べたものと同じものがあったのでそれを注文した。ノアの店の店主が、お互いに切磋琢磨していたとか言ってたからどれくらい違うのかを確かめようと思ったのだ。みんなも異論はないようだった。フレデリックさんは昼間に私達が食べていたメニューを注文していた。分け合うのは平民のする事だとかなんとか言っていたけれど実は食べたかったみたい。


「どうして私の隣に座ったの? あの三人の男は顔だけは綺麗だから間に座りたかったんじゃない?」

「悪意を感じるぞ」

「……あの、私は男性が苦手でして。特に整った顔立ちをされた男性を苦手としておりますので……女性がおられたことに安心しておりますの。あ、あの、これは他のお客様には内緒にしておりますのでどうか…」


 レオさんを見ると驚いたような顔をしている。泣く子も黙る強面だから女性が自分の横に座ったことに驚いているのだろうか。


「…………タケは女だったのか?!」

「ええっ!? このタイミングで?! ややこしくなるからそれは後にしてくれるかな?!」

「俺はそんな気がしてたよ」


 戸惑うレオさんを後回しにして、ティナさんという給仕の彼女に話を聞く。男性客ばかりだし男性と接するのが好きでこういった仕事をしているのかと思ったけれど、この仕事はティナさんの意思に反した仕事内容だという。


「噂をお聞きになっているかもしれませんが、こちらで給仕を行っている女性は皆元貴族の令嬢ですの。数カ月前までは確かに皆貴族令嬢でした。事情はそれぞれ違いますが、私はある出来事によって家から追い出されてしまいまして仕方なくこちらで働いている、と言っては失礼にあたりますが……」

「追い出された? 何かしたの? 男性が苦手だから追い出されたとか? そんなわけないか」


「追い出された理由は私が至らなかったからでございます。家族はそのような娘は必要ないと聞く耳を持ってくれず…。そもそものきっかけとなりましたのが整った顔立ちをされた男性でしたもので、それ以来男性に恐怖を感じるようになりましたの。着の身着のまま追い出された私をこちらのヤドリギの店主が雇ってくださったのでそれを隠して働いております。ですが仕事内容は私の望むものではございません」


「なら男性相手の店じゃなくて他で働けばいいじゃない?」

「ですが私は働いたこともなく、自分に何が出来るかも分からないのです。こちらでは拾って頂いた恩もございますし、男性のお話を伺いお酒をお注ぎするだけで生活費が頂けるので、この生活に甘んじているのですわ」


 私が平民で同じ女性だという事で安心したのだろうか、ティナさんは初対面だというのに心情を教えてくれた。同僚の元貴族女性たちは今は同じ立場だとしても、出身の家の事などでわだかまりがあったりして気を許すことはまだ出来ないという。



「あら、私とした事が女性がおられるというだけではしゃいでしまいこんなにも心の内を話してしまいました。はしたなくて申し訳ありません」


 いいタイミングで料理が出来上がったと声が掛かり、ティナさんが料理を取りに行く。


 テーブルに並べられた料理は、昼間にノアの店で食べたものと同じはずなのになんだかパッとしなかった。お皿に乗る量も心なしか少ない気がする。あの店は大きな窓から光が差し込んでいて明るかったから、このお店の薄暗さの中では同じ料理でも見え方が違うのだろうか。


 昼間と同じように少しずつ取り分けて頂くことにした。銀太は既に食べ始めているし、フレデリックさんは自分の注文分だけを無言で食べているけれど。ちなみにティナさんに食べさせてもらうと特級料金がかかるらしい。本当にキャバクラか、それともメイド喫茶とかなのか。


「あれ銀太どうしたの? いつものシュババババってやつやらないの?」

「まずい」

「おいタケこれ食ってみろよ。昼間の店と全然違うぞ。魚の生臭さが前面に出てて何かぬめってるしマジヤバイ。下処理してんのか?」

「飲食店でそんなはず……」


 見ると銀太はもうフォークを置いてしまっている。フレデリックさんも引きつった顔で料理を見ている。今にもこれだから平民の店はと言い出しそうな雰囲気だ。銀太は何でもいいって言ったじゃないか。レオさんは味を気にしないのかパクパクと食べている。レオさんがすぐに食べられるという事は……。みんなが見つめてくる中、目の前にあった魚の煮つけにフォークを刺して一口食べてみた。


「うわ……味が全然染みてないし生臭い。なにこれ? 私が作ってももうちょっと美味しいよ? 作ったことないけど」

「だろ。昼間の店はハーブの使い方が絶妙だったし臭みもちゃんと抜いてた。味付けだって全然違う。数カ月前までは向かいの店と張り合ってた腕前なはずだろ?今のこの店はアルコールと女だけで勝負しようとしてるのか?」

「あの皆様、お声を落としてくださいまし。店主がこちらを見ておりますわ」


 店主らしき小太りの男性が店内を見張っている。おさわりは厳禁とか言っていたから、それを見ているのかもしれない。もし触ったら特級追加料金取られたりするのかな。でもいくら味が好みでなくても、注文したからには残さず食べたい。レオさんがお残しは許してくれなそうだし。


 他のテーブルはどうだろうともう一度見渡してみると、ほろ酔いやそれ以上に酔いが回っている男性が多く、アルコールを勧めることで料理の味を誤魔化しているような気がしないでもなかった。




「時にティナ嬢。貴方はパーシー伯爵家のマルティーナ嬢ではないか?」


 突然フレデリックさんが発言した。空気を読まないとはこういった事をいうのかというタイミングだった。そしてフレデリックさんが発した言葉の真偽は、ティナさんの青ざめた顔と体の震えを見れば明らかだった。


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