表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/90

第64話 直談判

 ルイーズさんとの面会の場を整えてもらった。本当に忙しいようでセシリアさんは渋っていたけれど、書類仕事をしながらでもいいと伝えるとなんとか予定を組んでもらえた。以前来たことのある客室のような部屋へ案内される。ルイーズさんはソファーセットに座って書類を読んでいた。


「やあ久しぶりだね。最近魔物が増えたこともあって忙しくてね。中々お相手が出来ずに申し訳ない」

「いいえ、私達も実際魔物を見て増えている印象を受けましたので」

「そうか理解が早くて助かるな。それで今日はどういったご用件かな?」


 私は冒険者組合で情報を集めた結果、海辺の人達の話が出てきたので行ってみて直接話を聞いてみたい事を伝えた。ケンの希望でもちろん泊りがけで。


「街の人々から話を聞くよう勧めたのは私だが、日帰りで行ける距離を泊りでというのはどうなんだ。以前セシリアが随分と怒っていたようだったが」

「着いたその日にいきなり重要人物に遭遇して、運よく話が聞けるなんてことないと思うので。それなりに遠そうだし、毎日馬車を出してもらって往復すると疲れちゃうしたくさんの人にご迷惑をおかけするかなって思ったんです」


「言われてみればそうだがね、君たちが死んだら私が怒られるのだよ。死なずに帰ってこれるかい?」

「え、たぶん。銀太の結界もあるので死なないと思うんですが……護衛とか雇った方がいいですか?」

「そうだな、そうしよう。うちの者から何名か付けるか、それとも冒険者組合から良さそうなのを雇うかだな」


 ルイーズさんのその言葉に、冒険者組合から雇うならお願いしたい人がいると申し出てみた。カーラさん達の事を言ってみたが彼女たちは下級冒険者だということで却下された。それならレオさんにお願いしたい。レオさんなら中級冒険者だし、強いし、私達の秘密も少し知ってるし漏れる心配がない。するとルイーズさんは一人では不安だからもう一人くらい付けようと言ってくれた。


「中級を二人も付ければ安全だろう。なあセシリア、良いと思わないか?」

「恐れながら、私は同意しかねます。彼らが何をしでかすのか不安でしかありません」


 セシリアさんが鋭い目で見つめてくる。これはセシリアさんをすっ飛ばしてルイーズさんに直談判をした事を怒っているのか、ルイーズさんの忙しい時間を使ってしまった事を怒っているのか、はたまたその両方か。



「大丈夫ですよ! 私達異世界人ですし、能力があるんですよ。ケンは悪意を感知できるし、銀太は結界を張れるし、何かあっても私が治せるんです。そうだ! 許可出して貰えるならサービスでルイーズさんの体の悪いところを治してあげましょうか? さらに! 今ならダブルチャンス!! なんとセシリアさんの体の悪いところも治しちゃいます!」

「通販CMかよ」


 呆れた目をしたケンが突っ込みを入れてくる。でもセシリアさん怒ってるし許可出ないと困るじゃないか。私の言葉にルイーズさんとセシリアさんはきょとんとしていた。


「異世界人というのは聞いていたが、どのような能力があるのかは聞いてなかったな。ギンタ殿が剣聖という事しか聞かなかった。病を治したりといった事が出来るのか? それは聖女様の役割ではないのか?」

「それが何故か出来ちゃうんです。もちろん体に悪いところがなければ何の反応もないんですけどね。聖女様の治癒能力は私達の推測なんですけれど、体力の回復とか気力の回復とかじゃないかなって思ってます」


 ルイーズさんとセシリアさんが疑うような目で私を見てくる。本当かどうか見極めようとしているみたいだった。少しの間二人で相談していたが本当に治せるなら不安が一つ減るということになり、まずはセシリアさんが進み出てきた。彼女の肩に手をあてて聞いてみる。


「痛いところとか調子の悪いところはございませんかぁ?」

「美容院みたいな聞き方すんな」

「特に調子が悪いといったことはありません。強いて言えば書類をめくっていた時に指先を紙で切った箇所が痛いです」


 セシリアさんの肩に置いた手にそのまま力を込めると、彼女の指先が淡く光った。光はすぐ消える。元の状態を見る前に念じてしまったからどう変化があったか分からなかった。


「え? 治ってます……。二か所切れてたはずなんですが」

「おぉ! 擦り傷治したの初めてじゃない? 実験できたねぇ」


 セシリアさんが皆の前に手を差し出してくれたので覗き込んだけれど、誰も元の状態を知らなかったので曖昧な反応だった。真っ白ですらっとした指が綺麗で羨ましい。ちゃんとビフォーアフターすればよかったかな。そのままルイーズさんの近くまで歩き、肩に手を乗せて聞く。


「痒いところはございませんかぁ?」

「ううむ、私にはこれと言って悪いところはないのだが。肩が凝っているとかそういった事でもいいのか?」

「肩こりは治ったって聞いた事があるので多分いけます」


 そう言ってルイーズさんの肩に乗せた手に力を注ぐ。肩こりが治るイメージで念じる。そういえば呪文みたいなの唱えるの忘れてた。今から唱えだしたら変だからどうしようと迷っていたら、ルイーズさんの肩が淡く光りだし、なぜか膝のあたりも強く光り出した。凄く力を使っている気がして様子がおかしかったので思わず手を放してしまった。


「なんで膝が光ったんだ? それにまだ治せてないだろ?」

「ルイーズさん膝が痛いとかないですか? 脚気ですか? 木づちで叩いてみましょうか」

「いや膝は痛くはないのだがね、言っても仕方がないと思って黙っていたのだが、その能力はこういった事にも反応するのか?」


 ルイーズさんが両足のズボンの裾をまくると、そこには金属があった。膝までは自身の足だけれど、膝から下は金属が取り付けられていて太ももに固定されているようだった。


「えっ? 足なかったんですか? だからいつも座ってたんですか? それって義足? 動くんですか?」

「私は風の魔術を使えるのだがね、調子に乗って自分自身で両足を切り落としてしまったのだよ。何年も前の事だからもう痛みはないし病ではないので先程は言わなかったのだ。この義足は立つ事は出来るのだが歩いたり走ったりといった事は人の手を借りなければならない。セシリアにはいつも迷惑をかけているよ」


 ルイーズさんがそう言ってセシリアさんを見ると、セシリアさんは照れたような顔をして俯いていた。もしかしてセシリアさん、肩を貸す事を喜んでやっていたとかまんざらでもなかったのでは。ルイーズさんを見る目もどことなく憧れとかそういったものを含んでいて、私達を見る目とは明らかに違ってたし。私達を見る目は虫けらを見る様な視線の時もありましたがね。セシリアさんには悪いけれど治してみよう。



「義足外してもいいですか? ちょっと熱くなるかもしれませんが能力を使ってみます」

「俺が外すよ…………ほら外れた」

「その能力はどういったものなのだ? この足がどうにかなるのか? 痛みはもうないのだよ」


 ルイーズさんの両足の太ももの辺りに手を乗せて力を注ぐ。治れと念じると、手がだんだんと温かくなりやがて熱くなってきた。両膝が黄色く強く光りだしたと思ううちに、膝から下の足がぐんぐん伸びてふくらはぎが再生し、足の甲が出来て足の指が一本ずつ生えていく。ルイーズさんとセシリアさんは息を飲みながらその光景を見ていた。指が生えそろうと急激に光が消え、私の手のひらの熱も消えた。


「思ったより熱かったかな。たぶん見た目だけじゃなくて中身も入ってると思うんですけど、筋力は戻せないので筋トレとかして鍛えてください。筋力戻したりするのが聖女様の役割なのかな? まあいいか。どうでしょう、お泊りの許可貰えます?」



 二人は無言で目を見開いて瞬きもせずに再生した足を見ていた。しばらく様子を眺めていると、ルイーズさんが立ち上がろうとしてセシリアさんが支え、ゆっくりと一歩を踏み出した。セシリアさんが寄り添いながら一歩一歩ゆっくりと歩く。かと思うと二人で抱き合って泣き始めてしまった。この微妙な雰囲気をどうしたらいいのだ。



 確か顔を火傷していたカルロスさんも自身の火の魔術で焼いてしまったとか言ってたような気がする。魔術持ちはうっかりさんが多いのかな。それとも危険がないように制御したりする方法が難しいのだろうか。辺境伯の息子という高い地位にいるから生活出来ているけどこれが平民とかだったら怪我をしたその時に命を落としているかもしれないし、その後の暮らしも同じ様にはいかないだろう。


 ルイーズさんとカルロスさんが独身同盟を築いていたのって、もしかして足がなかったのと火傷跡があったのが原因だろうか。だとしたら二人とも治ったのだから同盟は解散かな。カルロスさんはマーガレットさんと出会ったし、ルイーズさんも……。抱き合って泣きながら喜ぶ二人から外泊許可をもぎ取って、私達は勝手に自分たちの部屋へと戻った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ