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第6話 彼の鑑定

「あっはっはっは!!おまえ面白いな!!本気で心配するからどうしようかと思ったし!」

「おまえじゃないし。あーもう、心配して損した!」


 ソルさんは無表情ながらもオロオロとして会話についてこれていない。ドッと力が抜けてしまったから、全く危険がないことだけ言ってあとで説明してあげよう。外に出てシモンさんを呼び寄せる。


「シモンさーん。大丈夫でしたよー。怖くないから水晶持ってきてくださーい」

「あの木の所にいるじいさんがシモンか?おーいじいさん!歳取ったらうつらんからおいでー!」


 木の陰からこちらを伺っていたシモンさんは慌ててお城の方角へと水晶を取りに走って戻った。ぽっくり逝ってなくて良かった。



「その水晶とやらでスキルが分かるのか?」

「水晶に手をかざしたらシモンさんには見えるみたい。私には見えなかった。能力がある人は稀で、その中でも攻撃型の能力を持つ人は重宝されるらしい」


「そんでタケは状態異常?を回復できると」

「そう言われたんだけど、状態異常な人がいないから一回も試した事ないんだよねぇ。毒は薬草で治るらしいし、麻痺も薬草で治るみたい」

「なんで召喚されたんだ?」

「うるさいなぁ」


 ソルさんが四人分のお茶の用意をしてくれているので、シモンさんが戻るまでの間に椅子に座って疑問に思ってることを聞いてみる。


「なんで重病って嘘ついたの?」

「うーん、何というか。あの白いワンピ着た女見た?」

「聖女様のこと?金髪のすごい美人なら聖女様で、召喚された時にちらっと見たよ」

「ヤバいと思わんかった?」

「何がヤバいかは分からないけど、宝石とかアクセつけすぎって思った」

「それもあるけどさあ、目の奥が笑ってなくて見た瞬間に異様な気配に背筋が凍ってさ。近寄ると何かヤバい気がしたから咄嗟に中二病の発作起こした」


「聖女様すごい美人だと思うけど、イケメンからしたらそんな評価されるんだねぇ」

「イケメン関係ないだろ。それよりも俺の21年分の経験と第六感が、全力で逃げろって言ってた」

「ケン21歳なの?!私とひとつしか変わらないのにその態度?!」

「おい今ディスったか?」


 ケンが額に青筋立てながら見下ろしてくる。そういう態度の事を言っているのだよ。


「ソルさんは?ソルさん何歳なの?私と同じくらいだよねぇ?!」

「……27歳」

「えっ」


 なんてことだ。ソルさんのこんがり褐色肌が艶々ぷるぷるしてるから、何となく同い年くらいかと思ってた。男の人って年齢が上がって肌ケアしてないと肌が荒れてくるイメ―ジだったがこの艶々はなんだ。私はこの世界に来てから規則正しい生活を送っているというのに何故か肌がガサガサしてきている。化粧品のせいか?申請して届けられる、そこそこの化粧品が肌にあってないのだろうか。



「しかしその聖女とやらがあれだけ派手な格好してるってことはこの国は裕福なのか?」

「聖女様は私の召喚される数カ月前に突如として治癒能力を授かったとかで元は平民なんだって。能力の発現とあの見た目で急に聖女として崇められるようになって、平民から出世した反動でアクセいっぱいつけてるのかなって勝手に思ってる。それと街の人達が裕福かどうかは知らない」


「一ヶ月もいて、何で知らんの?」

「外出許可が出ないんだよね。この家と書物室の往復な代り映えしない毎日だよ」

「異世界来たってのにパッとしないな」

「うるさいなぁ」


 シモンさんが水晶を持って恐る恐る戻ってきたので、心配いらないと伝えて居間へ入ってもらった。中二病に関しては、若い男女が罹りやすく伝染しやすい。私は召喚前の世界で一度罹患してから治ったので体内に抗体がありケンからはうつらないと説明しておいた。本当はかかった事ないのに、少し屈辱感。クラスの中心でみんなの人気者だったであろうケンが中二病に罹ったというのも冗談だろう。右腕を疼かせなくても、炎くらいは撃てそうな雰囲気をしてるし。



「水晶に手をかざすと、その人に能力があれば視える」


 ケンは言われるまま、水晶に左手をかざす。無機質な丸い石の塊が、ふわっと光を放ってこんな感じだったなと思い出す。シモンさんが光っている水晶をじっと見つめる。やはり私には何も見えない。



「視えたぞ。絶対音感?……またもや初めて見る能力だが、なんじゃこれは?」

「音楽家とかが欲しがるやつ!やったねケン!私より弱そうだよ!」

「マジか!絶対音感とか異世界で何の役に立つんだ?俺がバンドやってることに関係してるのか?」


「えっ、バンドやってるの?バンドしなくてもモテるでしょ?」

「モテたくてやってるんじゃねぇ。それよりタケのスキルって状態異常回復だったよな。母親が入院してるって言ってたけど関係あるのか?」


 二十歳前後のバンドマンはモテたくてやってると考えていた私は偏見の塊なのだろうか。でもケンは少しイラっとしてるし、本当にモテたくてやってるのではないのだろう。


「なっ…!ケン殿!それは新しい視点ですぞ!これまでは天から与えられしものと考えられていた能力が実生活と関係するとなると全ての考え方が根底から覆される可能性がある!そうすると聖女様のように平民でも突如能力を持つ者も数多く出るじゃろうし子供だけではなく大人になっても定期的に調べなければならんくなる。実生活を送る上で後発的に能力が備わることもありえる……」


「平民調べまくって治癒能力者がたくさん出たりしたら、聖女様の立場が弱くなってシモンさん消されちゃうんじゃない?」

「なっ…!それは困るぞ!ならば、この考え方は伏せて水面下で研究することにしよう。タケもケン殿も周りに言わんでくれ。」

「はーい。でも二回連続失敗してるからそれがなくてもシモンさん消されちゃうかもね」


 私の言葉にシモンさんはハッとした顔をしていたが、やがて震える声で反論してきた。


「魔術研究所は国の直轄じゃから、少しくらいの失敗でも多目に見てもらえる」

「やってることは誘拐だがな」


 シモンさんはとぼとぼとお城へ帰って行った。いつまでも元気でいてね、おじいちゃん。





「それでケンはどこで生活するの?」

「この家に行くように言われたからここで生活するんじゃないのか?」

「ベッド一個しかないし、それ無理じゃない?」

「キングサイズだろ?間に壁作って寝たらいいじゃん」


「うーん。ソルさん、ケンが変な動きしたら家から追い出してもらえる?」

「承知しました」

「こんな放り出されたら死にかねない異世界で、変な事はしないっての!」



 ケンに家の中を案内していると、玄関のドアがノックされた。ソルさんが開けると、いつも食事を持って来てくれる騎士さんが食事を持ったまま遠くに立っていた。ノックしてからダッシュで離れたのか。


「タケ様、早めの昼食を持って来ました。三人分ありますが新しく召喚された男は伝染性の病があると聞きます。できれば護衛に取りに来て貰いたい」

「ああ、大丈夫だよ。騎士さんくらいの年齢ならうつらないから」

「そ、そうでしたか。タケ様とお話できなくなるかと心配しておりましたが杞憂でしたか」


「あのモブ騎士、タケに惚れてんのか?よかったじゃん」


 ケンが背後からこっそりと話しかけてくるけど今出てこないでほしい。男女の友情のための微妙な線引きが難しいんだよ。



 受け取った昼食をテーブルに並べると、ケンがそれを見て驚いたように叫んだ。


「パンとスープと果物しかない?!こんな質素な食事してんの?!もしかして昼ごはん毎日これ?!」

「毎日こんなもんだし、朝昼晩全部こんな感じだよ」

「えええっ!俺ここで生きていけるかな」

「結構おいしいよ?栄養も考えられてて、具も量もたくさんあるし」


 ソルさんと並んで座りスープを食べ始めると、ケンは怪訝な顔をして私達を見つめてくる。


「なぁ、これで満足してんの?タケは日本でどんな食事してたんだ?」

「カップ麺とかおにぎりとかパンとか。栄養の面ではこっちの食事のほうが充実してるんだよね」

「ここでは自分で作ったりできないのか?異世界に来たら珍しい料理とか広めて大成功とかあるだろ?」


「外出許可出ないから材料の買い物に行けないし、そもそもこの世界のお金持ってないし。欲しい物を申請したらたまに通るけど、バラバラに送られてきたりするし結局この食事が安定してるんだよね」

「申請が出来るのか!俺も一緒に申請とやらをするから、改善しよう!食は大切だ!」

「う、うん……」


 異世界に来たばかりだというのにケンは何かの使命に燃え出した。作ってくれるなら嬉しいけど、散々申請して却下されまくった経緯を考えると難しいかな。


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