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第57話 たんぽぽ

「うおぉぉぉお、音がやべえ! しかし! 俺には耳栓がある!! 装着っ!」

「どっちの方向なの?! 装着する前に方向教えてよ!」

「あっちだ! たぶん! 銀太かかれ!」

「いってくる」

「……自分も付いて行こう」


 ケンが指さす方向に銀太とレオナルドさんが走り出した。新人と補佐役の関係ってこんな感じだっけと疑問ばかり浮かぶ。イメージとしては新人が戦っているのを補佐が遠目で見ている感じなんだけど。でも前回もブロンさんは奇声を発しながら突撃して行ったから決まりはないのかな。



 私とケンが現場らしき場所へ辿り着くと既に戦闘は終わっていた。金と青の不思議な色の石と草が落ちている。身長と同じくらいの大剣を構えた銀太と素手のレオナルドさんが二人で佇んでいた。


「終わったのか? 耳栓外していいか?」

「おわった。からあげはまだか」

「もうお腹すいたの? でもここは雑草がたくさんあるからできれば川沿いとか草がない場所がいいんだけど」

「…………川なら案内する」


 レオナルドさんの案内でしばらく歩くと、大きめの川へとたどり着いた。雑草が少ない川辺に陣取り、昼食の用意をする。パンと鳥の唐揚げと野菜の素揚げの準備をして持参していたけれど、用意をしている間に銀太が川からエビのようなザリガニのようなものを手づかみで採って持ってきた。


 レオナルドさんは昼食の用意を手伝ってくれていたのに、銀太の持ってきたその生き物についてはギロリと睨みながらも手を出そうとしなかった。やっぱりこっちの世界の人達はこういう足がいっぱいあるのを食べないのかもしれない。


「唐揚げとアヒージョにしよう。残った唐揚げはパンに挟んで明日の昼用に持って帰ってもいいしな。レオナルドも好きなだけ食べていいからな」

「……レオでいい」

「じゃあレオ、この料理は俺が考え出した最高に美味い料理だ。しかし調理が非常に危険なため、街中ではできない。金が要って気が急くかもしれないが、ひとまずはこれで腹ごしらえしてから討伐しようじゃないか!」


 そう言いながらケンはエビもどきの頭や殻をもいでいった。エビもどきには大きなハサミのようなものがあるように見えたからザリガニかもしれない。次々と頭をもぐケンの手元をレオさんはギロリと睨んでいて、銀太は興味深そうに見つめていた。



「…………その油を熱して中に肉や野菜を入れるのか?」

「そのつもりなんだけどね。私達の故郷ではよくやってたのにこの街ではやらないみたいで、この前家の中でやったら凄い火が出ちゃって怒られたの。だから今日は低温からお肉を投入してみて、様子を見ながら温度を上げていこうかなって思って。でももし火が上がっても水はかけちゃだめだよ」

「…………そのままでは爆発する。付いて来い」


 歩き出したレオさんに一人で付いて行くと、雑草が生い茂っているあたりに着いた途端に急にレオさんがその場にしゃがみこんだ。しゃがんでいるのに壁の様で向こう側が全く見えない。何をしているのか見たくて背中側から回り込んで手元を覗き込むと、たんぽぽの綿毛みたいなのを丁寧に摘んでいた。花の部分に白くふわふわした物がついていて、それは綿毛のような羊毛のような不思議な植物だった。


「そのふわふわを使って何かをするの? たくさんいるのなら私も取るの手伝うよ」

「……待て!!」


 お手伝いをしようとして不思議な植物の茎を折ろうとすると、レオさんに手首を掴まれて止められた。茎じゃなくて私の手首が折れるかもしれない。ビクつきながらレオさんを見上げるとギロリと睨まれた。その視線だけで魔物を倒せそう。


「…………折ると可哀そうだろう」

「そうだよね、私の手首を折ると痛いし私が可哀そうだから折らないで欲しいな。何がダメだった? 私骨折したことないから痛みは分からないけど別に今それを体験しなくてもいいっていうか、今度でいいっていうか」

「…………違う、花が可哀そうだ。上の白い部分だけ取ればいい」


 レオさんの手元を見ると、私の手を掴んでいない方の手のひらには綿毛部分のみがこんもりと乗っていた。手が大きいから白いふわふわが私の顔と同じくらいの大きさで乗っていても違和感を感じない。私の首が折られたらあんな風に手のひらに乗せられ……いややめておこう。


「ごめんなさい。そうだよね、花だって痛いよね。もうしないから怒らないで。それでその白いふわふわをどうするの?」

「…………これを油に入れると油が綺麗になる」

「ええ? そんな裏技みたいな。それってこの辺りでは常識なのかな? 油が綺麗になったら火が出なくなるのかな。どうしてレオさんはそれ知ってるの?」

「…………おばあちゃんに教えてもらった」


 レオさんの口からおばあちゃんと聞こえたので思わずレオさんの怖い顔を見つめてしまった。ばあさんとかばばあとか言いそうな顔なのに……何でも顔と見た目で決めつけるのは良くないんだった。



 レオさんと一緒に元の場所に戻り、熱する前の油に白い綿毛を投入する。ケンと銀太が観察するように鍋を覗き込んできた。トングで鍋をぐるぐるとかき回してから白い綿毛を掴んで引き上げると、綿毛は白から灰色へと変色していた。


「なんだこれ? 表面は油を弾いてるみたいなのに色が変わってる?不純物だけを吸い取ったのか? どういう原理なんだ」

「おばあちゃんが言うには、これで油が綺麗になるらしいよ」

「誰だよそのおばあちゃん」


 綺麗になったらしい油を熱して、まずは低温からお肉を投入してみるとしゅわしゅわと音を立てながらうまく揚がりだした。この前のように火が出そうな雰囲気もないから温度を上げる。ちなみにたき火ではなくて小型のコンロのようなものをルイーズさんの本宅からケンがこっそり拝借したらしい。ばれたらまた怒られるやつ。


 お肉と野菜を揚げ終わってから、残った油にエビもどきと鶏肉の切れ端とニンニク粉末、塩、辛そうな香辛料を投入した。きのこや野菜のない贅沢アヒージョの完成である。パンも唐揚げも大皿にドンと持って自分で取り分けるスタイルになってしまったが、誰も文句も言わずパンとフォークを握りしめて目をキラキラとさせていた。


「唐揚げはレモンもマヨネーズもないけど下味付けてあるからな。この油はパンに浸して食うと美味いんだ。エビもたぶん食えるから食わず嫌いせずに食え。さあ熱いうちに食え! 早い者勝ちだぞ!」


 ケンの声で四人一斉に料理に飛びつく。銀太は唐揚げとエビを高速で食べていた。パンと野菜も食べないと胸やけしちゃうよ。レオさんは恐る恐るといった感じでエビを食べている。殻を剥いてあるから頭も足もないし、何とか食べる事が出来ているみたいだった。



「久しぶりの唐揚げおいしいね! 私レシピ覚えてなかったからこの味はケンがいないと食べられなかったよ! エビも好きなのにこの世界で初めて食べたし。焼いただけの魚も美味しいけど甲殻類ってやっぱり別物だよね!」

「もっと褒めていいんだぞ。褒めると次はもっとうまいもんが出てくるぞ」

「うまい。なんだこれは。うまいぞ」

「…………あちっ、…………あちっ」


「ケンは何やらせても上手だよね。次はお寿司握ってもらいたいな。お魚がなければ肉寿司とかでもいいし、あっパスタも食べたい。小麦があるんだからケンならパスタもできそうじゃない?長い麺じゃなくてもあの短くてクルクルしたやつとか」

「ペンネとかフジッリのことか。それなら出来るかもな。今日みたいに油が使えるならペペロンチーノができそうだ」


「それはうまいのか。食べてやってもいいぞ」

「…………あちっ」

「っああもう早く食べろよ! 俺がふぅふぅしてやるから!!」


 急にケンがレオさんの大きな手からフォークを奪い取って、その先に刺さった唐揚げにふぅふぅしだした。レオさんは猫舌なのか、唐揚げをかじっては離れかじっては離れとなかなか食べることが出来ずにいた。私はそれを横目で見ながらも笑いをこらえることしか出来ずにいた。


 冷ましてもらった唐揚げとフォークを返されたレオさんは心なしか嬉しそうに唐揚げにかぶりついた。手が大きすぎてフォークと唐揚げがおもちゃみたいに見える。レオさんは中のほうがまだ熱かったのか、少し涙目になっていた。



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