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第53話 書庫

 昼食後は地下にある書庫でお勉強する事になった。セシリアさんに案内された書庫は大きさは八畳くらいの小部屋で、壁際に本棚が設置されている。中央に簡素なテーブルと椅子が置いてあって、この部屋の定員は四人のようだった。


「え? これだけ?! 少なくない?!」

「魔術に関する重要な書物は魔術研究所が王城の書物室へ移動させたと聞いています。私もこちらの全てを読んだわけではございませんが伝承や歴史についての書物が大半かと」


 本棚は壁に沿ってびっしりと設置されているのに、肝心の本がスカスカだった。本棚によっては本が隅に寄せられていて下のほうにしか本が入ってない棚もある。試しに一番手前の本を手に取ってみると、二百年前の王の行いを讃えたような内容の本だった。


 夜に迎えに来るので勝手に動き回らないようにと言われ、私たちだけが八畳の部屋に残される。セシリアさんの言う事には逆らわないほうが良さそう。



「この少なさは予想外だったね。シモンさんも本を移動させたこと教えてくれたらいいのに。ああでもこの本は二百年前の王の話だから移動させたのはシモンさんも知らない昔なのかな? ということは、私がお城で読んだ本はこの書庫出身の本もあったかもしれないって事だから総合的に見たらプラマイゼロになる?」


「タケはここまで何しに来たんだ?」

「うるさいなぁ」


 端のほうから三冊引き抜いて机に積み上げ読み始めた。ケンも銀太も同じように読んでくれている。お城の書物室にあった量の三分の一にも満たない程の書物の量で、三人がかりで読んだとしたら数日で読めてしまうのではないか。


 ルイーズさんが言ってたみたいに当時の事を知る人に聞きまわる事になりそうでぞっとする。ルイーズさんの口調からして彼や辺境伯も詳しくは知らないようだし、カルロスさんはホント何を考えて提案してきたのだろう。



 日本だって戦後七十年を超えても未だ初めて聞くような当時の話を聞いたりする。それも戦争を経験した人は亡くなってたりしてその子孫がたまたま聞いたような形で伝わってくる。この世界は記録媒体について地球よりも遅いようだし、最後の魔王討伐からもう百年経ってるならそれこそおとぎ話のような存在ではないのかな。


「魔法陣についてはなさそうだけど、聖女伝説みたいなもんはあるな。聖なる光が降り注ぎとか書いてあるけど何色だと思う?」

「聖なる光なら白っぽいとか虹色とか? あっそういえば銀太! 教会で女神様光らせたのって銀太なの?」

「しらん」


「どこの教会でも同じ様になるのかな? この町にも教会とか孤児院あるかな? 光るかもしれないけどセシリアさんに聞いて行ってみない?」

「教会は分からんが孤児院はあるだろ。両親が冒険者だとして二人とも死んだらその子供は孤児になるし。神父とかさ、RPGでは重要な事を知ってたりするからそこから探ってみるのもいいかもな。孤児たちの様子も気になるし、近いうちに行ってみるか」


 既に本に飽きたらしいケンは聞き込みに力を入れたいみたいだった。ケンみたいにコミュ力高ければ簡単かもしれないけど、私と銀太にどうしろというのだ。


 明日すぐに出かけたいけれど今日は目立ちすぎてしまったので、数日は書庫で大人しくしておいてほとぼりが冷めたら教会探しと銀太の訓練を開始することになった。




 そして今、私たちは正座でセシリアさんに説教されている。

 いつもの食事を材料のままで持って来て欲しいとお願いして、少しの油も分けてもらい、お城から持ってきた調味料と合わせて唐揚げを作ろうとした。何の肉か分からないけど鶏肉ぽい味の肉だったし、玉ねぎとかの野菜も素揚げしたら美味しいはず。キッチンについていたコンロの使い方が分からなかったけれど、ケンといじりまわして火が付いたのであとは下味をつけたお肉を油に投入するだけだった。ニンニクも生姜も醤油も小麦粉もあるし、卵はなかったけれどそれなりの物が出来ると思っていた。


 でもお肉を投入した途端、なぜか爆発するように炎が上がった。炎は天井を焦がし、大量の真っ黒な煙が吹き出し、油はそこら中に飛び散った。銀太の結界がなかったら大火傷を負っていたかもしれない。そういえば火傷は私が治せるんだっけ。いや火傷跡しか治したことないから分からない。


 黒い煙も大量に出たけれど、本宅の建物から人間も大量に出てきた。本宅は仕事で使っていると言っていたけれど、本当にたくさんの仕事中だったらしき人々が騒ぎを聞きつけて飛び出してきた。ペンや本を持っていたり書類を持ったままの人が大勢いた。



「貴方達に何かあればルイーズ様の首が飛ぶのですよ?! きちんと理解なさっておられますか?! この世界では比喩ではなく物理的に首が飛ぶのですよ?! 貴族の方々はそういった覚悟の上でおられるというのに! それを! 貴方達は! 踏みにじり続けているのです!!」


「すいません」「ごめんなさい」「…………」


「口先だけの謝罪は結構です! 殿下から品行方正な方々だとお聞きしていたのに! 初日から裏切られた私の気持ちをお分かりですか?! 魔物討伐だってそうです! そんなに訓練がしたいのなら素振りでもしておけばいいのです!! 私は! ルイーズ様に何かあるようなら! 命だって掛けられるというのに!! 貴方達は何も理解なさってない!私は正直貴方達がどうなろうが構いません! しかしそれによってルイーズ様が! 咎められるようなことがあれば!!」


「すいません」「ごめんなさい」「…………」


 ブチギレ状態のセシリアさんに怒鳴られまくった。鬼の形相とはこういう顔の事を言うのだ。同い年くらいの茶髪美人に怒鳴られるのはキツかった。叫びながら怒っていたセシリアさんは次第に涙を流し始め、泣きながら怒るという非常に心が痛む状況となってしまった。ちょっと燃やしただけなのにと思ってたら、その心を読まれたようにさらに泣きながら怒られてしまった。



 セシリアさんの説教で少し分かった事は、彼女はもともと王城勤めであった事。見習いから始めて長く勤めていたけれど、結婚を機に円満退職する予定だった。しかし急に不当解雇され、それと同時期になぜか結婚する予定だった人からも振られてしまい居たたまれなくて実家にも戻れなくなった。職場で仲良くしてくれていた人の勧めで北部辺境まで馬車を乗り継ぎ初対面のルイーズさんに縋りついたところ、即採用され雇って貰ったとのことだった。それは半年程前の出来事。


 なんとなく原因に想像がついてしまった。ケンもそんな顔をしている。その結婚する予定だった人、どんな仕事をしていたのかは知らないけれど今騎士になってたりしないよね?



 セシリアさんの怒りが治まった頃に教会に聞き込みに行きたいと申し出ると、それについてはすんなり許可が出た。ものすごい疑いの目を向けられたけども。そんな目で見なくても何もしないし、女神様の像があったとしたら少し光るだけだし。


 そして絶対に危険な事はしないと約束させられてから翌朝馬車に乗せられ教会へと送り出された。



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