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第51話 初討伐

「アタシが周りを見てきますのでここで待っていてください。あんまり大きいのだったら私たちには倒せないので街に戻ることになります」

「銀太はたぶん強いから大きくても大丈夫かも?」

「(そういうやつほど早死にするんだ)」

「俺らを残していくのか? この人選、非常に気まずいんだが……」


 カーラさんは腰まで伸びた草をかき分けて素早く駆けて行った。私達は草原に取り残される。銀太が手をつないできたので結界を張ってくれたみたい。でも右手に武器もってるからケンとブロンさんには手をつないでないけど結界どうなってるんだろう。


 数分した頃ケンが両耳を塞いで呻きだす。すぐにカーラさんが戻ってくる音がして草をかき分けながら走ってくる姿が見えた。


「あっちの方角に人の頭くらいの大きさのが一匹。初めてにはちょうどいい大きさです。中央付近の核を狙うように長剣を振るってください。力を込めて正確に振るえば、当たった時に手ごたえがあるので分かるかと思います。倒せそうにないならブロンが出ますので」


 案内されるまま魔物の方角へと移動する。昨日よりも雑草が生い茂っていて視界は悪い。森の中に入ればもっと悪いのだろうか。やがて草むらの中に黒い(もや)が見えた。腰まで伸びた草の合間に埋もれるようにふわふわと浮かんでいる。銀太が長剣を両手で構えて靄の近くまで寄った。私たちの結界大丈夫だよね?


 黒い靄は近くで見ても中の様子が全く見えない。銀太も見えないのか、目を凝らすようにじっと靄を見つめていた。


 やがてゆっくりと長剣を振り上げ、素早く振り下ろした。カンと音がする。当たったのだろうか。銀太は三度同じ動作を繰り返し、その三度ともカンと音がしたのを確かめると一歩下がった。銀太の動きに集中していたから気づかなかったけれど、黒い靄は少しずつ銀太に近づいていた。靄との距離が取れると、銀太は集中するように狙いを定めて長剣を振り下ろした。


 長剣の動きが見えない。カンカンカンカン音がするからたぶん凄い速さで振られてるんだと思うけれど、動きが見えない。これはあれだ。スープ飲むやつ。銀太が初めて食べて美味しいと思ったスープを超高速で口に運ぶ動きだ。


「えっ…? 何? 叩いてるの? アタシ目はいいはずなんだけど……」

「(なんということだ)」

「見えねぇ! 俺らにも見えるようにゆっくり斬るとか配慮してくれよ!」

「銀太! 視聴者を大切にしてぇ!」


 私たちの叫びも虚しく、黒い靄は破裂したように散開する。最初の様子見も合わせて数分だった。カーラさん達はこれより二回り位大きな魔物だったけど、二人がかりで十数分だった気がする。これは早いのだろうか。


「またつまらぬものを……」

「銀太まて」

「なんでそれ知ってんの?」


 魔物がいたあたりに散らばったものを拾い上げる。石と草だった。石は金色と青色が混じったような不思議な色をしていて、草は青っぽい色でお城の庭に生えていたのと似ている。同じものかどうかは判別できなかった。


「その石を銀板と一緒に窓口に出したら報酬が貰えます。草もアタシらには何の草かわからないけど、たまに高値が付くので窓口に出したほうがいいです」

「石を出せば報酬が貰えるのか?そしたらその辺に落ちてる石を出しても報酬が貰えるって事か?」

「この石は色を見てもらうと分かると思うんですが、不思議な色をしていて魔物からしか出ないんです。その辺に落ちてたというのは聞いた事がないです」


「魔物からしか出ない? その石を引き取った冒険者組合はその後どうしてるんだ?」

「それはアタシには分かりません。というか考えた事もないです。ただ石を窓口に出せば報酬が貰えるとしか……」


 ケンは石を手に取って見つめて真剣に考えだした。銀太も普段は無機物に興味を示さないのに一緒に見つめている。そんな二人を見ながら、カーラさんとブロンさんはそわそわとし出した。


「どうしたの? あっ、先約とかがあったんだっけ?」

「いえ……あの、さっきの戦い方を見てたらもう少しだけ森に近づいてもいいかなって思って。このまま戻ると夕食代くらいにしかならないかもしれないから……」

「(ライモンドとグイドの為にもこいつらをこき使ってやろう)」

「なるほどね。銀太行けそう?」

「問題ない」


 二人が戦闘不能なパーティにとって、今日の収入は死活問題なのかもしれない。もしかしたらたくさん倒せる新人と知り合いで私達が横取りしてしまったのかもしれない。銀太は息も上がってないし、補佐役二人の様子を見ると銀太が危険だった様子もないので、もう少し魔物を探してみることにする。



「ねえ、魔物があんな黒いもやもやだったら魔王も黒いもやもやなの?」

「魔王は人型って聞きますよ。あれ? それを知らないってことは隣の国の出身とかですか?」

「隣の国じゃなくて、もっと遠い国なんだけどね」

「そんな遠い国があるんですね。アタシ達全員孤児なんで知らないことが多くて。魔王は人型なんですけど、角とか生えてて口が裂けてて肌の色とかも真っ黒で、それで魔王の元にいる魔族もみんな同じで凄い強いって聞いてます」


 カーラさんは両耳に両手を持って行って人差し指を立てて角を表現し、ほっぺたを両手で引き延ばして大きな口を表現した。ふとケンが孤児院で赤い服の女の子の話をしていたのを思い出す。狼を表現する時にこんなふうに口を引き延ばしていた。


「じゃあその人型の魔王と黒いもやもやの魔物とはどういう関係があるの?」

「魔王が力をつけてくると黒い靄が活発化して人間を襲うと聞いてます。最近は黒い靄がいっぱい出るようになったから魔王復活が近いと言われてますね」


「黒い靄が活発化したら魔王とか魔族が人を攻めてくるってこと?」

「……その辺りはよく分りません。アタシたちは黒い靄を倒して生きる事が精一杯なので、正直魔王とかに来られても困ります。それに百年も前の事だから魔王が来たらどうなるかも分からないし、勇者とか聖女が本当に現れるのかも分からない」



 カーラさんから魔王について聞き出しながら石を見つめるケンの手を引っ張って全員で移動をしていると、森に入るかどうかのあたりでケンが急に呻きだす。


「うおおおぉぉ、痛てぇ。耳が痛てぇ。キンキン言ってやがる!」

「漫画で見たことあるよそういうの」

「(オレ様の出番か? 目にもの見せてやろう)」

「アタシが見てきます! ここから動かないでください!」


 ケンが石を銀太に渡して両耳を塞ぐ。なんというか、ケンってこの場で一番弱いよね。カーラさんが草をかき分けて走り出したけどすぐに引き返してきた。


「こっちへまっすぐ進んだところに一匹います! 何かを飲み込んだみたいで大きくなっててアタシ達で対処できるか分かりません! 少し殴ってダメそうなら退いてください!」



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