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第50話 補佐役

 併設されている待合所というカフェのようなスペースに向かうと、手持ち無沙汰にしていた冒険者たちがわっと私たちに群がった。さながら親鳥の持ってきた餌に群がる雛のごとく、コンビニの蛍光灯に群がる虫のごとく。彼らは早朝の争奪戦に敗走した下級冒険者達なのだろう。今夜の寝床がかかっているのかもしれない。


「俺は下級になってから長いんだ、もうすぐ中級だぞ!」「オレは受付する前から見てた! 早い者勝ちだろう!」「いいやオレは扉をくぐった瞬間から目を付けてたんだ!」「オレ! オレは今日補佐役になれなければ飢え死にするかもしれない」「キミ可愛いなぁ! 交際してやるからオレを選んでくれよ!」「オレは扉をくぐる前から見てたぞ!」


 どこのオレオレ詐欺か。報酬が半分になる補佐役というものを引き受ける人がどれだけいるのかと疑問だったけれど、登録したばかりの初心者に対してこの群がり方は異常だと思う。需要と供給が合ってない気がする。


 パーティメンバーにそれほど怪我人が出たりするのだろうか。そんな怪我人が出ているのにこの人達は補佐が出来るほど元気なのだろうか。もうこの人たちでパーティを組んで討伐に出たらいいじゃないか。そんなことを考えていた時、冒険者組合の入り口の扉が開き入ってきた男女がいた。


「げっ」

「うわ」


 カエルの鳴き声のような声を発した男性は、そのまま回れ右して扉を出て行こうとする。一緒にいた女性がその男性の襟首を掴んでこそこそと待合所の隅のほうへと移動した。男性の首が締っているように見えるけどいいのかな。


「カーラ!カーラじゃないか! それと……ブロン?」

「そうそうそんな名前! カーラさん! 暇なの?!」


 昨日お世話になった四人組のうちの二人だった。ケンは一際大きな声で呼びかけると、ずずいとカーラさん達に歩み寄り、ブロンさんの腕を掴んだ。私はカーラさんの腕を掴む。銀太はブロンさんのもう片方の腕を掴んでいる。


「ひっ……」

「えっと、先約がありまして……」


「それって俺らより大切な約束? 本当に約束してんのか? ちょっと付き合ってほしいんだけど」

「補佐役してくれるんだよね? 知ってる人のほうがいいよね。初めての討伐だし」


 私たちに群がっていた冒険者たちが白けたように散らばって行った。舌打ちとか聞こえてくる。彼らも寝床がかかっているかもしれないから横取りされたらそれは舌打ちもしたくなると思う。そいつら下級になりたてなのにという呟きも聞こえたけれど、この前の彼らの戦いを見ていると連携も取れているし安定していると思った。


「今から初めての討伐に行くの。カーラさんとブロンさんに一緒に来て欲しいなぁ。こういうのって信頼関係が大切だよね。先約って明日でもいいやつじゃないかなぁ。新人の私たちをあの野獣たちの中に放り込むつもりなのかなぁ」


「え、えっと……知ってると言っても一度だけですし、アタシ達下級なのでお役に立てないかと……」

「(こいつらを混沌へと消し去りたい)」

「そんなことはないぞ。俺らにはお前たちが必要だ、なあミズノ」

「そうだ必要だ」


 カーラさんは目を泳がせながらオロオロと考えていた。私たちの後ろをちらちら見ていたから先輩冒険者様からの牽制もあったのかもしれない。ブロンさんは真っ青な表情で下を向いてぶつぶつ呟いていた。昨日は槌矛とかいう棒みたいなやつで元気に魔物を叩きまわしていたのに。


「あの……失礼があっても黙認してもらえるなら……」

「(滅べばいいのに)」

「じゃあ決まりだな! あと敬語とか気にしなくていいからな!」

「補佐役が見つかったら武器を貸してもらいに行くんだっけ。銀太武器は何使うの?ひのきのぼう?」

「ミズノは長剣を所望する」


 ケンと銀太はブロンさんを、私はカーラさんを引きずって武器貸し出し窓口まで移動する。銀太は鉄製の長剣を借りていた。防具も勧められたが頑なに断っていた。だってあの防具、洗ってあるけど血とかの染みあるし臭そうだもんね。


 その隣の出発報告をする窓口では、戦うのが銀太だけという事と、武器しか持ってない事、カーラさん達が駆け出しの下級冒険者だという事でなかなか許可が下りなかった。窓口の人と押し問答をしていたら新規受付をしてくれたギャルの可愛い人が駆け寄ってきてボソボソと告げ、それを聞いた後はすんなりと許可が出た。辺境伯息子は意外に影響力があるようだった。


 そしてカーラさん達の案内で昨日とは違う方向の草原へと向かい出発した。


「ねえ、昨日いた二人はどうしたの?」

「えっと、ライモンドは調子に乗って走り回ったら捻挫して、グイドも調子に乗って土魔術連打したからぐったりしてます」

「(こんな事になるならあの依頼受けなければよかった)」

「じゃあ大きな怪我したわけじゃないんだ? 良かったぁ」

「それでもアタシ達は下級になりたてなので少しでも日銭を稼がないと野宿することになるんです。というか良かったんでしょうか、アタシ達で」


 カーラさんは不安そうに言い、ブロンさんはずっとぶつぶつ呟いている。ブロンさん昨日は大人しかったはずなのになあ。でもケンはあの待合所にいる人達より彼女たちを選んだし、銀太の聖界も弾かなかった。人選に間違いはないはず。


「カーラとブロンが良かったんだよ。最初からそんなに強いヤツと戦う気はないし、今日はもしかしたら成果なしかもしれんが俺らを助けると思って、よろしく頼むよ」

「成果なしって……それじゃあアタシら困るんですけど。アハハ! 分かりました! じゃあ安全を重視して森に入らずに本当に一匹くらいしか出ないあたりで探しますね」

「(そうか、オレが混沌へと消え去ればいいのか)」



 カーラさんが明るく言い、ブロンさんは尚も呟いている。遠くに森が見えるあたりの草原でストップがかかり、全員で待機状態になった。



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