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第44話 筋肉

「うぅぅ、腕が痛い…筋肉痛なの? 動かすと痛い……」

「すぐに筋肉痛が出るとは、タケ若いじゃないか」


 次の町の宿屋に着く頃には私の肩と腕は限界を迎えていた。原因はお米を突いたこと。そりゃあ何時間も力を込めて突いてたら筋肉痛にもなる。むしろ他の皆が筋肉痛になってないことが信じられないくらい痛くて仕方なかった。


「それこそ状態異常回復スキルの出番だろ。そういえばタケは自分自身に使った事なかったんじゃないのか?」

「ほんとだ! 筋肉が異常な状態だから使えるかも!」


 左腕に右手をあてて念じてみる。筋肉痛よ、なくなってくれ……この痛みよ、ケンの疼く右腕に転移してくれ……。ふわっと黄色く光り、左腕が温かくなる。右手の手のひらが温かいのか左腕が温かいのかはよく分からなかった。


「治った! かもしれない! 両腕とも痛いのがなくなってる!」

「良かったな……ってかタケ、髪と肌が」

「ん? 髪と肌?」


 ケンに言われて両手でほっぺたを触ってみる。なんと、肌がぷにぷにとしている。この世界に来てからなぜかカサカサとしていた私の肌が、ぷりぷりになっている。そのまま髪を触ると、ゴワゴワしていたはずのボブカットが滑らかでふわふわとした触り心地になっている。少し伸びたから肩上くらいまでの長さになっているが、美容院でスーパートリートメントをしたみたいだ。


「なんで?! 私、若返ってない?!」

「今なら二十歳に見えるぞ。肌の状態も改善とはいい能力だな」

「どういうことなの? でも薬草は水に力を注いで撒くだけで元気になったよね? ってことは毎朝毎晩顔を洗ってる私の肌だってその水で元気になってもいいじゃない。わかった! ソルさんとか銀太がだんだん艶やかになっていったのって私のおかげってこと? 知らないうちに私から若さを吸い上げていたってこと?!」

「おちつけ」


 そう言ってケンは私の髪の触り心地を確かめるように撫で始めた。銀太も同じように髪に触ってくる。無言で髪を触るのはセクハラなんだよ。許可をとれ、許可を。


「そうか、ということはタケが力を注いだ水を美容液として売れば金を稼げるかもしれん!」

「ただの水を効果があるって言って売りつける詐欺があったよね」

「それは日本での話だ。この世界の奴らはそれを知らないから騙せるかもしれん」

「詐欺じゃん」



 私達は町の宿屋に泊っている。明日には辺境の街に着くらしい。辺境の街は人も多く賑わっているらしくこの町もその恩恵を受けてか、村よりも多く人がいてお店もたくさんあった。騎士さんが酒屋でお酒を買い占めたのは言うまでもない。王都から何しに来たんだ。



「それで、この旅で俺らを監視してどうだった。王子にはどう報告する?」

「報告? なんのこと?」


「貴方がたの事は王国に協力的であり貴重な人材であると報告する予定です」

「今回の視察はとても有意義でした。貴方がたの行いは、陛下からも高評価を受けることでしょう」

「移動する道中に村おこしまでされるとは、想定外でございました」


 騎士さん達が口々にそう言い、ケンと銀太はうなずいている。私だけ取り残されている感がある。


「どういうこと? 騎士さん達は護衛でついて来てくれてるんじゃないの?」

「普通に考えてありえんだろ。……そうだな、タケのバイト先に新人が三人入ってきたとする。そいつらが急に得意先への挨拶回りの為に長期出張したいと言ったとする。行かせるか?」

「行かせるわけないじゃない。人手が必要だからバイト雇ったんだし、バイトの新人に挨拶回りなんて」

「その三人が、社長の息子とかで文句が言えなかったらどうする」

「うーん、それなら……社員を同行させて見張ったりして粗相がないようにするとか?」


「そういう事だよ。俺らの辺境行きが許されたのは、この騎士たちが監視をするから認められたことだ。向こうでも辺境伯とやらに監視されるだろう」


 騎士さん達を見ると、苦笑いをしている。友好的に接してくれてるし、ケンも銀太も何も言わないから味方だと思ってたのに監視されてたのか。今までの旅が楽しかったせいで何だか腑に落ちない。騎士さん達お酒飲んで心から笑ってたじゃない。


「それも明日までというのは大変残念です。もうケン様の酒が飲めないと思うと……」

「このような快適な旅は初めてでした。馬も復路は機嫌が悪くなるでしょう」

「途中からは監視というより旅仲間のように楽しい時を過ごせました」


 そういう騎士さん達の顔は晴れやかだった。許してやろう。



 町の宿屋では無難にパンとスープを食べた。大きめの宿で周りにも宿泊客がいたので味を変えることもなく宿屋のキッチンを借りることも出来そうになく、騎士さんと銀太があからさまに落ち込んでいた。


 夜は部屋でお酒を飲むのかと思いきや、美味しいカクテルになるための調合割合をケンがひたすら書かされていた。お酒を混ぜて味を確かめながら紙に書くケンと、それを真剣に見守る騎士さんたち。私と銀太は先に寝ることにした。




 翌日は朝早く出発して休憩なしで馬車を飛ばして、昼過ぎには辺境の町に着こうと提案されたので眠い目をこすりつつ早朝に出発した。


「川がある! 魚泳いでるの見えるよね? あの町でも魚食べてないみたいだったけどなんでだろ」

「焼き魚はパンに合わないですしスープに入れても臭みが残りますので。村でもそうでしたが川魚の臭みを嫌う人が多いのです」

「パンに合わないならムニエルとかフライにしたら合いそうなのにね」

「むに……? それは新しい調理法ですか?焼き魚とは違うものですか? 酒に合いますか?」

「美味いのか?」


 騎士さんが前のめりになって聞いてくるので、簡単に作り方を説明した。ムニエルはすぐできそうだけどフライは多めの油がいるので、平民の食事にするのは難しいと言っていた。お城に帰ったら料理人さんにお願いするらしい。お城勤めの特権を利用するのか。



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