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第41話 令嬢

 宿の広い部屋を押さえてもらって盗賊も無事村へ押し付けることが出来たらしいので、荷物を部屋に移してから食堂へと向かった。食堂と言っても町の定食屋くらいの小ぢんまりとしたものだった。宿自体が小さめで部屋も数部屋しかないからこんなもんかと思う。


 メニューはパンとスープと果物だったけれど、希望すればパンをお米に変えることができたので変更してもらった。騎士さんと御者さんはお米を食べた事がなかったらしいけれど、私たちに影響されたようでお米に変更していた。お米を希望する宿泊人は少ないらしく、宿で調理をしている人からは驚かれてしまった。


「味噌にするかカレーにするか。俺は選択を迫られているんだ!」

「なんで魚がないんだろ? 焼き魚定食とかあると思ったのに。ねえ、明日の朝に魚釣ってから出発してお昼に焼かない?」

「どちらでも良いからはやくしろ」


 私とケンと銀太はスープカレーにお米を合わせる事になった。騎士さん達はそれぞれ別の味にして分け合うらしい。久しぶりに食べるお米は真っ白で艶々としていてふっくらと炊けていて、とても甘かった。そうだ、精米しても炊くための道具がないと炊けないんじゃないか。それも売ってたら買ってから出発しよう。騎士さん達は初めて食べる食感に戸惑いながらも美味しい美味しいと言って食べていた。




 ふと宿の入り口が騒がしくなる。お米を頬張りながらそちらを見ると、黒っぽい高そうな服を来た男性が入ってきていた。宿のご主人が何やら必死で言っているが押しのけられて、男性は宿泊部屋があるほうへと歩いていく。そしてご主人は半泣きになりながらこちらに来た。


「申し訳ございません。お使い頂いている客室を、その、変更を……」

「先程の者が、我々の部屋を使うと言っているのか?」

「はい、その、お断りをしたのですが、貴族のご令嬢をお連れしているなどで、聞き入れては頂けなく……」

「我々の荷物を置いているはずだが?」

「おそらく外へと出されるでしょう……」


 村の宿屋の平民なら貴族に何も言えないのだろう。騎士さん達は狭い部屋へ移る事を了承してから私たちの荷物を取りに行ってくれた。ケンと銀太は我関せずでお米を頬張っている。二人は部屋の大きさよりも食事優先のようだった。私も引き続きお米を頬張っていると、豪華な赤いドレスを着た若い女の人と護衛のような装備をした人達がぞろぞろと入ってきた。女の人はこれからパーティでもあるんですかと聞きたくなるくらい飾り立てていて、やっぱりフリルと大きな宝石をつけていた。この人たちがさっきの黒い服の男性の関係者で、人数が多いから大きな部屋を希望したのかな。


 女性は護衛を引き連れて宿泊部屋へと向かおうとしたが、ふとこちらを見て足を止める。お米を頬張るケンと銀太を凝視している。二人ともイケメンだから見つめてしまうのは仕方ない。けど目の奥が怖いです。獲物を見つけた獣の様に目の奥で炎を燃やしています。女性は綺麗な長い金髪で可愛らしい顔をしているのに、目だけが爛々と輝いている。



「まあまあまあ、貴方達は旅をされている方でしょうか? 貴方達のような素敵な男性がこのような寂れた村にいるなんて」

「…………」

「…………」

「お金がなくてそのような家畜の餌しか食べる事が出来ないのでしょうか? なんて可哀そうな方たち!」

「…………」

「…………」

「分かりました。私が貴方達を雇って差し上げますわ。そうすれば今後はそのような貧相な食事をする事はありませんもの。私と一緒に王都へ参りましょう。私の身の回りの世話をさせて差し上げますわ」


 この世界の女性は無言耐性とかあるのだろうか。たしか聖女様も、言葉を発さない銀太に何度も話しかけていた。ケンも銀太も完全無視でご飯を食べているのに、女性は気にした様子もなく一人で喋っている。


「この食事はわざわざ希望してパンから変更してもらったんです。彼らは望んでこの食事をとっています。それよりあなただれ?」


「そこの女、無礼であるぞ! 平民は膝を付け!」

「平民から貴族へ話しかけるなと教わらなかったのか!」

「いつまで座っている! さっさと跪かんか!」


 周りの護衛の人達が急に怒り出した。沸点が低いみたい。でも私たちって王様にだって跪いたりしなかったよね。光らせたし。よく考えたら不敬も不敬だな。


 護衛の人達に守られている女性は、顔をケンと銀太へ向けてこちらを見ようとはしない。でもこちらの様子を伺っている空気が伝わってくるので、私が膝をつくのを待っているみたい。ケンと銀太は跪かなくていいのか。でも現代日本人の私は、尊敬する人や仕事のお客様にしか頭を下げないのだ。


「なんで知らない人に膝をついたりしないといけないんですか? あなたが誰かも知らないのに。話しかけたほうから名乗るって学校で教わらなかったんですか?」


「この女! 死にたいのか!」

「黙れ!」

「黙ってさっさと跪け!」


 護衛の人が長剣みたいなのを私の喉元へ突き付けてくる。銀太がテーブルの下で私の手をそっと握った。結界を張ってくれたみたいで安心する。銀太はもう片方の手で長剣を掴み、ぽいと背後に投げ捨てた。長剣を持っていたはずの人は慌てて拾いに走っている。


「まあぁぁぁぁ、貴方達はその下賤な女に脅されて護衛しているのですね。弱みでも握られているのでしょうか。でもご安心くださいませ。私がお父様にお願いして救って差し上げますわ。お父様でしたら簡単に貴方達を解放できますのよ。すぐに連絡を入れさせますのであと少しの辛抱です。今夜だけその餌で我慢してくださいましね」


 真っ赤なドレスとその物言いも相まって、悪役令嬢っぽい雰囲気がひしひしと感じられる。ツンデレという感じでもない。食事中だったのを思い出して続きを食べ始めると、女性はその後もひとしきり喋った後、護衛の人を引き連れて部屋の方向へ歩いて行ってしまった。



「良く分からん状況でペラペラ喋るのは阿呆だって銀太が言ってたぞ」

「だってお米を馬鹿にされたんだもん」

「それは俺もイラっとしたけどさ、面倒ごとに自分から首突っ込まなくてもいいじゃん」

「タケはパイは焼けないのか」


 銀太は甘味をお望みらしい。辺境に行ったらキッチン付きの家とかあるかな。私はお菓子作りはできないからケンにやってもらおう。


 食べ終わってから、変更された小さな部屋へ行って騎士さんにさっきの出来事を話すとめっちゃ怒ってた。我々にお任せくださいと言い残して、宿屋のご主人に貴族の名前を聞きに行ってしまった。何をするのだ恐ろしい。



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