第39話 盗賊
翌朝目覚めるとみんなもう起きていて私達の部屋へ集まっていた。昨日は日課のお昼寝をしなかったせいなのか、いつもより多く寝てしまった。今日からはちゃんとお昼寝しないとね。
「昨晩は襲撃はありませんでした。下見をしていた可能性が高いです。おそらく本日中に事が起きるでしょう」
「馬車を襲うつもりか? 銀太の聖界があること知らんのかな」
「相手がどういった人物かは分かりかねますが、この宿は危険ですので早めに出発しましょう」
急かされて朝食も取らずに馬車に乗り出発した。町から出るときはノーチェックで通れるようですんなりと町を脱出する。お城の料理人さんからもらったタルトとパイがまだあったので馬車の中でそれを食べて朝食代わりにした。日持ちしないから今日中くらいには食べ終わらないとお腹痛くなっちゃうかもしれない。
緊張しながらしばらく街道を走っていると、御者さんが危険を教えてくれた。林のように生える木々の間を縫うように街道が走っている箇所で、盗賊のような身なりをした者達が待ち伏せているという。騎士さんが相手を捕まえて目的や首謀者を吐かせたいというので、敵陣のど真ん中で馬車を止めることになった。
林に差し掛かったあたりで盗賊たちが飛び出してきて馬車に襲い掛かってくる。
「女だ! 女を引きずり出せ!」「男には手を出すな! 女を狙え!」「女は殺してもかまわん!」「黒髪の娘だ!」
御者さんは騎士さんに言われたとおりに馬車の中へ避難してくる。馬は我関せずといった感じで立ち止まって休んでいる。盗賊たちは馬車のドアを開けようとしたり切りかかったりして来るけれど、銀太の結界に阻まれてキンキンなるだけで荷台と馬には傷がつかない。しばらく見守っていたけれど盗賊たちは諦めずに何度も切りかかっていた。何かおかしいとか思わないのかな。
騎士さんたちと銀太が目くばせをしてから馬車から飛び出た。騎士さんは剣とか槍とかの柄で盗賊を叩き、銀太は林の中に走って行って落ちていた大き目の木の枝を持って戻ってきたと思ったら、それで盗賊に殴り掛かった。
「『ひのきのぼう』だ! RPGみたいで興奮するな! タケ分かるか? 『ひのきのぼう』だ!」
「いやわからんし。枝よりも素手で殴った方が早くない? それにあれ檜なの?」
「男のロマンなんだよ、分かれよ!」
すぐに決着はついて盗賊たちが八人、地面に寝かされた。相手の攻撃を一切受けないガチムチが三人もいるし、剣聖もいるから仕方がない。騎士さん達が目的などを吐かせて、ケンが嘘をついているか見抜く。
結果、ただの物取りの盗賊だった。
偶然酒場で知り合った旅人の格好をした男から、数日以内にこの道を通る黒髪の女が高価な宝飾品を隠し持っていて、奪えば遊んで暮らせるようになると聞いたらしい。黒髪の女と一緒にいる男は危険だから手を出すなとも言われたと。その旅人は整った顔をしていて腕利きぽい男だという情報しかなく、盗賊たちは噂話を聞いただけだったので真相は分からなかった。
来た道を引き返す事になってしまったが、このまま盗賊を世に放つ事は出来ないので先程の町へと戻る。せっかく速く走れるのに、盗賊たちを歩かせながら戻ったのでかなり時間をくった。町の自警団のような場所へ引き渡す時に、騎士さんが第一王子の関係者だと名乗ったら盗賊たちが泡を吹いて白目をむいた。
馬に手をあてて力を注いでから出発すると、ちょうどいい時間帯にお昼の休憩所につき夕方には次の町についた。聖界っていうのは素晴らしいね、時短だね。
今日はちゃんとお昼寝をした。銀太は昨日と同じで私の太ももを枕にしてたから私は何を枕にしようかと物色していると、ケンが太ももを貸してくれた。ちょっと硬いけど騎士さんの太ももよりは柔らかそう。
「ギンタ様は召喚された際に意思疎通が不可能であったとお聞きしておりましたが、我々の聞き間違いだったのでしょうか」
「そういえばそうだね。最初は喋らなかったし弾いてた。なんで?」
「タケは普通に手をつないでたけどな」
「……状況もわからない中、ぺらぺらと喋る阿呆がいるのか」
「いるよそこに、ねえケン?」
「タケだって喋ったんだろう? 俺は結界とかないし聖女と騎士がにじり寄ってくるから仕方なしだよ」
二日目の宿は昨日の宿より少しグレードダウンしている。民宿という感じで、十人寝られる部屋をお金の力で貸し切った。この世界にも二段ベッドがあって驚く。どこの世界でも人が考えることは同じなのかな。夕食は食堂でパンとスープを頂いた。
お城の料理人さんにあらかじめ調合してもらっておいた、カレーパウダーを投入してみんなに振舞うと、騎士さんと御者さんは「また茶色だ」という顔をしていた。そういえば茶色が続く。茶色い食べ物ってなんで美味しいんだろう。
「でもタケが手をつないだ時、弾かれなかったよな。騎士との違いはなんだ? 一目で恋にでも落ちたか?」
「結界を張っても悪意のない者には効かないようだ」
「ということは悪意がなければ結界が張ってあっても出入り自由だし、銀太にも触り放題なの? いやそれより聖女様がつれてきた騎士さんたちは悪意があったって事? お城の中に悪意を持った人がいるってヤバくない?」
「今更だな」
「だから銀太は私たちについて着たの?お城には悪い人がいるから? 無理してついて来たりしてない?」
「暇だから来た」
「そんな友達と遊びに行くみたいな軽い感じで……」
騎士さんと御者さんが苦笑いをするのが見えた。共同シャワールームみたいな所でシャワーを浴びた後は、ケンがお酒を用意してくれる。この町に着いたときにも酒屋に行って違う種類のお酒を購入していたし、お酒に合うおつまみも買っていた。お城からのお金が酒代に消えていく……。
「葡萄じゃない果物から作った酒とかあって、こっちではそのまま飲むみたいだけどカクテルみたいに混ぜたら美味いと思うんだ」
「ケン様、毒見ならお任せください!」
「いや私が先に頂こう」
「私が一番酒に強いので任せてください!」
「シェーカーとか氷がないからステアだけになるけど混ざれば問題ないだろ」
「バーテンなの?」
「趣味で真似事やってただけだ。それに異世界の酒だから想像通りの味になるかは分からん」
そう言って一つのグラスに数種類のお酒を注いで混ぜると、橙色の飲み物が出来上がった。その他にも黄色やピンク色のお酒が出来ると、騎士さん達は奪い合うように飲み始めた。御者さんは下戸らしくおつまみだけ食べている。
「う、美味い! ただ混ぜただけでこのような味に?」
「同じ酒でも随分違って初めての味わいだ。これは混ぜる酒の比率などが関係しているのですか?」
「美味い! 私達でも作れるでしょうか。先ほどの酒屋に朝にもう一度行きましょう!」
「雰囲気で注いだから同じ味は二度と作れんかもしれん。今日だけの特別仕様だな。違う味でも良けりゃまた作ってやるぞ。ポケットマネーで酒を用意してくれるんだろ?」
サラリとお酒を強請っている。でもポケットマネーを使わせたらこの騎士さん達なら有り金全部お酒につぎ込みそうで怖い。
「なんと特別とは、ありがたいことでございます」
「酒ならいくらでも用意しますので是非明日もお願いしたい!」
「他の町でも同じ酒があるかは分からないのでこの町で買い占めていきましょう!」
騎士さんが大盛り上がりになってしまった。私も試しに少し飲ませてもらうと、味は美味しいのだけど度数が強すぎて喉が焼けるみたいに熱くなったので二口だけにした。ケンと騎士さんは夜中まで飲むと言ってたので銀太と一緒に先に寝た。睡眠は大事だよ。