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第38話 町

 夕方になると聞いていた通り町に到着した。村をイメージしていたけれど意外に栄えていて人の数も多い。町の周囲を壁で囲ってあるようで、町に入るために検問のようなものがあった。騎士さんが何やら話すと通されたけど、もし騎士さんたちがいなくて私達だけで逃げて来たとかだったら入れないのかもしれない。


「この町は王都から一番近い町です。住民の暮らしは王都とさほど変わりません」

「王都から離れるにつれて町の規模が小さくなっていきます。辺境の街はそれなりに賑わっておりますので数日間はご不便をおかけするかと」


「でもそういうのってファンタジー感があっていいよな。俺ら異世界来たのに生活水準変わらず暮らせてたから、逆にちょっと困るくらいが面白いんじゃないか」

「私もそう思う。囲炉裏とか七輪とか囲んでさ、お餅焼いたりしたいよね」

「それ日本の昔話の影響受けてないか?」

「おもちとはなんだ。食べ物か」



 騎士さんがとってくれた宿の部屋は四人部屋が二つだった。護衛のしやすさから大部屋を希望したらしいけれど、大部屋は他の宿泊客もいて雑魚寝になってしまうとの事だった。もしも何かあったとしても騎士さんたちはムキムキだから負けないし、私達も銀太にお願いして結界を張ってもらう事にして、私達三人が一部屋、騎士さん三人と御者さんで一部屋に分かれることになった。


「夕食は宿泊についていますが、町を見て回られますか?」

「そうだね、王都にはないものがあるかもしれないし行こうか」

「では髪色が目立ちますのでこちらを上から羽織って目深に被ってもらえますか。護衛は一人が付きます」


 渡された茶色っぽいマントのような服を羽織って、フードを被る。ケンはファンタジーっぽさが出てるって喜んでいた。フードを被った三人とムキムキの人って、髪色以上に目立つのではなかろうか。




 宿から出ると、大通りのお店を覗きながら歩いていく。王都にあったような貴族向けのお店は少ない。ケンが足を止めたのでその視線を追うと、酒屋さんのようだった。


「お酒見るの?ケンお酒飲めるの?」

「どんなのがあるかなって。こっち来てから酒見てないだろ?」

「そういえばそうだね。お城では出ないし外で食事することもなかったし」

「ワインとかビールはありそうだけど……入ってみよう」


 扉を押して店内に入ると、所狭しと瓶が並んでいた。アルコールの匂いがふわっと漂ってきて護衛の騎士さんは嬉しそうな顔をしている。ケンの言う通り赤と白のワインらしきものがずらりと並んでいる。


「やっぱ日本酒はないな。当たり前か。ウイスキーとか焼酎もないし、ブランデーっぽいのはあるから蒸留はしてるみたいだな」

「私二十歳になったばっかりだし、強いの飲めないと思う」

「ああそうか。俺は大学の新歓コンパでしこたま飲まされたから慣れたんだよ」

「大学の新歓……? それって年齢……」

「異世界来てるからな!細かいことは抜きにしようぜ!」


 ケンはそう言って、並んでいるワインではなく隅のほうの売れてなさそうな一角を吟味し出した。香辛料の時もそうだったけど人気のなさそうなものに目が行くらしい。結局はその隅にあった数本を選んで購入していた。騎士さんは宿に残っている同僚たちへのお土産と言ってワインを購入していた。お城から貰ったお小遣いが酒代に消えていく。


 その後も大通りを見て回ったけれど、この世界は店じまいが早いらしく日が暮れてお店が閉まり出してしまったので宿へと戻った。夜中もお店が開いているのはきっと治安のいい日本だけなのだ。




 宿へ戻ると食堂のような場所で食事が用意されている。御者さんも入れて七人でテーブルを囲んだ。出てきたのはパンとスープと果物でお城の食事とほとんど同じ。むしろ具が少ない。私たちは良い暮らしをしていたのだとつくづく思った。


「やっぱ同じメニューだわな。味も同じだ。タケ、味噌入れるか?」

「勝手に入れて怒られないかなぁ」

「ミソとはなんだ」


 従業員さんに見つからないように、こっそりと味噌をスープに溶かす。スープが茶色く変色していく。騎士さんと御者さんは、味噌とスープの色を見て顔を引きつらせていた。


「あの、つかぬ事をお伺いしますが、そのお手元の茶色い物体は……」

「食べ物なのでしょうか? 色が何やら怪しいのですが……」


「これは調味料だ。こっちではどうか知らんが、俺らの世界では豆から作ってるんだ」

「私たちのいた国では料理によく使うんだけど、料理の基本のさしすせそって言って……あれ? ミが入ってない」

「『そ』が味噌だろ。それより銀太見てみろよ」


 銀太は恐る恐るスープにスプーンを入れて一口食べてピクリと止まったかと思うと、猛然とスープを食べだした。いつものようにスプーンが驚くほど速く動いていて残像しか見えない。だけどやっぱり動きが綺麗で品がある。ぽかんと見ているうちに銀太のお皿は空になっていた。


「おかわり」

「ほらな、美味いから騙されたと思って入れてみろって」


 ケンはニヤニヤしながらみんなのお皿に味噌を投入していた。銀太には追加のスープが運ばれてくる。私のお皿にも投入されたのでスープをすくって食べてみる。おお、味噌汁だ。いや塩味噌スープか。


 騎士さん達も恐る恐るスープを食べ始めたが、一口食べて味が分かってからは必死でスープを口へと運び出した。お口にあって何よりだ。でも従業員さんがスープの色を見てぎょっとしていたので証拠を残さず食べてね。




「妙な気配がします。今夜仕掛けてくるか、もしくは今夜は下見で明日の移動中に仕掛けてくるかと」


 食事を終え部屋へ戻ると、騎士さん達も私たちの部屋へと入ってきた。そして不穏な事を言う。


「それって盗賊とかそういう物取り系の人ですか?」

「今の段階では分かりません。しかし標的は我々でしょう。誰彼構わず獲物を物色するような気配ではなく、ずっと監視されているような纏わりつくような嫌な気配がしています」

「どうせ聖女関連だろ。俺らに護衛がいないと思って仕掛けてきそうだし」


「何とも言えませんが、我々は隣の部屋で交代で眠りますので御者をこちらの部屋へ入れて頂き、ギンタ様に一晩聖界をお願いしたいのですが」

「二部屋なら張れそうだから来るな」


 銀太が二部屋分結界を張ってくれたので御者さんは騎士さんたちの部屋で眠ることになった。銀太人見知りなのかな。最初に喋らなかったのも人見知りしてたのかな。騎士さん達はそれでも、結界に弾かれた人がいれば捕獲するとかで交代で寝ることにしたそうだ。


 私達は悠々とシャワーを浴びてから少し喋って寝た。物騒だからお酒は明日に回すことにした。お城にあった家ではバスタブがあったけど、普通の家はシャワーしかないらしい。シャワーの仕組みはわからないけどお湯が出る。ケンが言うには異世界転生とかすると濡らしたタオルで体を拭く程度らしく、どこの戦国時代かと思った。


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