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第35話 抗体

アルス神父は忙しそうにしていたので教会に残し、孤児院の建物へ移動する。中に入るとやはり貴族の人がチラホラいたが、顔見知りになった子供たちが二階へと案内してくれた。騎士のヨハネスさんとアレックスさんは既にシスターに付きまとっている。私とケンだけで勝手にやってもいいらしい。信頼されてるのか何なのか。あんまりしつこくすると嫌われちゃうよ。


二階の部屋に入ると子供たちがたくさんいた。ベッドに寝ているのは五人だけど、それ以外に見たことのある子たちがイスに座ったりして待っていた。


「おねえちゃんきた」「なおしてもらったところ見せたい」「さいごってほんとう?」「おれの足を見てくれ!」


「こいつらタケが治した子供たちじゃないか?」

「ほんとだ!みんな見せに来てくれたの?」


「そのごのちょうし」「足はえたまま」「ぜっこうちょう!」「しんぷさまが見せなさいって」


重症だった子達が経過観察のために集まってくれていた。一人一人部位を見せてもらうと、特に異常がないようで本人達も調子が良いと言っている。一時的に治ったように見えただけとかじゃなくて良かった。実験に付き合わせてしまって申し訳ないけど喜んでいるから黙っておこう。


「みんな元気になって良かったよ。そっちのベッドの子は体調悪いの?」

「あごが」「熱がある」「ぱんぱん」「あごでかい」


元気な子供たちと一緒にベッドを覗き込んでみると、顎というか耳の下あたりが腫れた子が眠っていた。虫歯がひどくなったとか?親知らず抜いたりしたら腫れるよね。眠っている五人を確認すると五人とも耳の下が腫れていた。


「虫歯かと思ったけどこれおたふく風邪じゃない?!やばい!みんなうつるから部屋から出て!」

「おたふくかよ!俺おたふくやってないんだよ。うつったらどうしよう!」


私が急かして子供たちを部屋から追い出すと、ケンは逃げるように扉の内側に張り付いた。子供たちが出て行ったのが聞こえたのか、リュックから銀太が出てくる。


「おたふくとはなんだ」

「銀太、大人しくしてるって言ったじゃない。何で出てくるかなぁ」

「うつるのか」

「私たちの世界のおたふく風邪と同じなら、一度罹っていればうつらないよ。たいていは子供の頃に罹るんだけどケンみたいに罹らずに大人になって、それから罹ると色々やばい」

「タケが治せば良い」


そうだよケン。銀太の言う通り、罹っても治せるかもしれないからそんなにビビらなくて良いよ。扉に張り付いたままのケンはそのままにしておいて、子供たちの治療をする。腫れている箇所に手を置いたら痛いかもしれないから、額に手をあてて治れと念じる。おたふくってウイルス?細菌?そういうのも治るのかな。


手が温かくなってきて子供の全身が光り出す。顎のあたりの光が強い。良かった、治せそう。しばらく光った後、急激に光が消えた。熱も腫れもおさまっている。他のベッドに寝ている子たちも同じように光らせておいた。気配がしたので振り向くと銀太が至近距離に立っている。


「僕にもそれやってほしい」

「銀太の一人称、僕なの?かわいいじゃない」

「タケー!俺にもやってくれー!」


銀太の額に手をあてて力を注いでみると、光る事もなく手が温かくなる事もなかった。


「うつってないし、体に悪い所もなかったのかな。全く反応ないよ」

「そうか」

「タケ!俺にも!」


騒ぐケンの近くまで行って額に手をあてて力を注いでみる。ケンの全身が淡く光り出した。手も温かい。でもおたふくの子とは違うような感じがする。


「俺光ってるし!やっぱうつってたかもしれん。タケサンキューな!」

「光り方おかしいよね?おたふくじゃなくて違う事を治したのかなぁ?」

「性格ではないか」

「ああ、性格が悪かったんだね」

「よしおまえら表へ出ろ」




銀太に再びリュックへ入ってもらい階下へと降りる。まだ食事の時間には早かったので先に裏庭を見に行く。裏庭には前回復活した薬草が元気に生い茂っていた。食べごろのものは抜かれているようだった。でも新しく生えてきた草はあまり元気がない。


「水を撒いても一時的みたいだね。土を変えて元気になってくれたらいいな」

「その土はタケが毎日水を吸い込ませた土だろ?だったらいけるんじゃないか」

「つちかえる」「くさをていねいにぬく」「いれかえ」「手で土をほる」


家の庭から持ってきた土を子供たちに渡すと、せっせと入れ替え作業をしてくれた。その子供たちの中から、おたふくの子の部屋にいた子供に手をあてて治そうとしてみたけれど光る子と光らない子がいた。他の子にも試してみる。子供の頃に罹るおたふくは重症化しないって聞いたことがあるし、もしかしたら既に流行ったことがあって抗体ができてるのかも。罹ったとしても食事内容も改善されてて体力がついてるだろうし、きっと大丈夫だと信じよう。


「つちかえた」「おねえちゃん見て」「ねんのためお水を」「くさはえた」

「タケさっきから結構な数の子供を治療してるけどMP足りてるんか?」

「そういえばそうだね。上限人数増えたのかな?欠損とかじゃないからそんなに力いらないのかも」


渡された水桶から水をすくって草にかける。あ、水に手をあてて念じるの忘れてた。まいいか。植え替えで少しへなっとなっていた薬草がピンとたった。


「このまま元気に育てばいいね。あと、この前もらったお花だけど詳しい人にも分からないらしくてまだ調べてもらってるから、体に悪そうなお花は触らないようにしてね。何回も言うけどこの事はほんとにナイショだよ?」

「まってる」「わかった」「ナイショ」「くちはかたいぞ」


「そしたら昼飯だな!しばらく来られなくなるから今日は色んな種類のパイ持って来てやったぞ」

「やった!」「びみである」「はやくいこう」「ぜんぶたべてやる」


ケンの背負ったリュックが動いた気がした。


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