第33話 王の寝室
夜中に筋肉ムキムキの騎士さんたちがこっそり家に来た。中年くらいの男性もいるのに皆ムキムキだ。ソルさんは許可が出なかったので留守番をお願いして、ベッドに戻って寝ようとする銀太の手を引っ張ってお城の中を歩く。銀太の反対側の手をケンが引っ張ってる。この二人仲良いな。
「王の寝室へは許された者しかたどり着けない造りになっています。迷われませんよう、離れずについて来てください」
騎士のマルクスさんが小声で忠告してくれた。迷路みたいになってるのテレビ局みたいだね。はぐれて迷ったらどうしよう。一生さまよい続けるとかかな。夜中はお城で働く人もみんな寝静まっているようで、静かな廊下を音を立てないように歩く。騎士さんの鎧とかガシャガシャ鳴りそうなのに音が立たない。私の足音が一番大きいかもしれない。
「こちらが王の寝室です。ヴィルヘルム殿下からお話は通っておりますので起きてお待ちです。くれぐれも粗相のありませんよう」
「わっ、空気悪っ!換気してる?空気が汚れてると体が悪くなるよ」
「タケうるさいな」
「ねむい」
ベッドに近づくと、痩せた金髪の男の人が寝ていた。これが王様?痩せすぎて貫禄がないな。でも元々はがっしりした体形だったみたいで、大きな体から筋肉がなくなったみたいに見える。王様はベッドに横になったままこちらを見た。目は鋭い。
「ヴィルヘルムから聞いておる。そなたがベニテング・タケか。よくぞ参った」
「お初にお目にかかります。ベニテング・タケです。お体が良くないとお聞きして参りました。治せるかは分かりまちぇんが」
「かむなよ」
ケンが突っ込みを入れてくる。だって王様とか緊張するし。銀太は近くのソファに勝手に座ってウトウトし始めた。マルクスさん、粗相をするやつがここに居ます!
「体を起こすのも辛くてな。このままで良いか?」
「ええ、具体的にどのような症状かお聞かせ頂けますか」
「ああ、食欲がないのと動くとすぐ目の前が白くなり立っておれんくなる。それと女性に言うのはどうかと思うが……」
「大丈夫です、看護師さんから色々聞いた事があるからどんなことでも」
「そうか。……実は尻から黒いものが出るようになった」
「黒いもの?血便かな?色は真っ黒ですか、赤みがかってますか?」
「真っ黒だったな。それがしょっちゅう出る。それで今は息苦しいのもあって起き上がるのも辛い」
静かに扉が開き、金髪碧眼のがっしりした身なりの良い人が滑り込んできた。そのままケンの横に立つ。話に聞いた第一王子かな。王子にしては野性味溢れる感じがする。
「黒い便だと、大腸よりも胃潰瘍とか胃がんかな?貧血も起きてるし、食欲不振……」
「ガンとか治せるんか?地球でも不治の病だろ」
「治せるか分からないけど異世界クオリティだからね。取り除くイメージでやってみよう。あ、でも治ったとしても再発するかな」
そう言って王様の胸のあたりに服の上から手をあてる。マルクスさんがアワアワしてる。そうか、これ不敬になるのかな。先に言えば良かった。
「えっと今から力を注ぎます。体が光ったり温かくなったりするらしいのですが、たぶん痛みはないと思いましゅ」
「だからかむなよ」
ケンの事を無視して手のひらに力を込める。やっぱ呪文とか唱えたほうがそれっぽくなるから唱えてみよう。王様だから特別に王様バージョンだよ。
「なーおれー、なーおれー、状態異常なーおれーっ」
「治すときに歌うことにしたんか。けどそれ子守歌だからな」
手の平が、温かくなってくる。王様の胸が淡く光り出し、その光が胸から肩、首、頭のほうへと徐々に広がっていく。マルクスさんと第一王子らしき人と他の騎士さんが息を飲むのが聞こえた。下は足まで広がって全身が光ったところで王様の体がひときわ強く光り、そして急に光が消えた。今までよりちょっと熱かった。王様ごめんね。
「父上、体に異変はありませんか?ベニテング・タケ、父に何をした?治したのか?」
「なんと、息苦しさが消えた。腹のあたりの重苦しさもなくなった。何の病だったのだ?」
「私にも良く分からないんですけどね、私たちの居た世界ではガンって言って体の中に良くない出来物みたいなのが出来ちゃうことがあるんです。多分それじゃないかなと思ってその出来物を取るイメージでやってみました。本当に取れたどうかは分からないけど、症状がおさまったなら治った可能性があるかなって。それで筋肉とかが落ちてるのは治せないぽいので、これから王様はたくさんご飯食べて体力つけてもらいたいです。あ、食欲戻ってます?」
喋りすぎたかもしれない。マルクスさんが慌ててメモ取ってる。後でもう一回教えてあげよう。王様と王子様がガン見してくる。二人とも目つきが鋭いからちょっと怖い。
「あ、ああ。夕食は残してしまったが今なら喉を通りそうだ」
「良かった。じゃあ最初は具の少ないスープから慣らしていって、徐々に量を増やしてください。それとこの病気はもしもガンなら再発する可能性があるので、定期的にお医者さんに診せたりして健康管理して貰ってください。あと換気しないと気持ちまで暗くなっちゃうから安全重視も分かるけど窓開けてください」
「ベニテング・タケ、感謝するぞ。しかし能力は状態異常回復と聞いておるが、病まで治すとは。そなたが聖女ではないのか?」
第一王子が変な事を言う。城が認めた聖女様がもういるじゃない。面倒くさいことは背負いたくない。
「まさかまさか。私は聖女ではないです。治癒能力持ってないし。それより、治しちゃったから辺境行きキャンセルとか言わないですよね?」
「そうだ、それは困るな。俺たちは元の世界に帰る方法を見つけないと」
「そのような事は……しない。男に二言はないからな。しかしもしまた王族が病に侵される事があれば治療してもらえぬだろうか」
聖女様にやって貰ったらいいんじゃないかと思ったけど、そういえばケンの話によると聖女様は黒に近いんだった。王子様がケンを押しのけてぐいぐい近づいてくる。近くで見ると背が高すぎて圧迫感がある。王子様なんて遠くから見つめるくらいがちょうどいい。
「そういう事は望むところです。むしろ病気とか怪我の人は全員治したいと思ってます。あ、でも悪い人を治すのは微妙かなぁ。一日に治せる人数に限りがあるし」
「タケそれ秘密だろ?」
「あっ忘れてた!ごめんなさい、あんまり治せないのでお手柔らかに……」
私がそう言うと、王様と王子様とマルクスさんは声を出して笑った。みんなの笑顔が暖かくて、この後に待ち受けるマルクスさんからの叱咤については考えないようにした。




