第31話 薬草の価値
「なんで教えてくれなかったの?」
「ワシも信じておらん話をおいそれとできんからの。しかし昔に聞いた噂話は本当じゃったかもしれん」
「噂話くらいはしてやっても良かったんじゃないか?シモンじいさん意地悪だなー」
シモンさんを問い詰める時間は続いている。しゅんとしたシモンさんにソルさんが三杯目の紅茶を淹れてくれた。
「しかしそれを聞いてどうするんじゃ?眉唾物であるし、行くとしても城から許可が出んかもしれん。辺境に行きたいなんぞ知られたら今までの外出すら出来んくなるかもしれんぞ」
「そうだよねえ。私はともかくとして、ケンと銀太は聖女様が離さないよね」
「タケも毒消し草の代わりとしてここにいるんだから許可出ないだろ」
そうだった。王族に盛られるかもしれない毒を治す為にここに住まわせて貰ってるんだった。でも今まで一度も出番ないのにこれからあるのかな。
「それでしたら庭の薬草を差し出せば宜しいかと」
ソルさんが庭を指差しながら言うので目線を庭に向ける。一面に青々と薬草が生えていて食べごろに見えた。草を食べごろというのもおかしな話だけど、収穫時期に見えた。
「こちらの薬草は珍しい種類のものが多いです。タケ様の代替になるかと」
「珍しい種類の薬草を置いていくから城から出してくれって?ソルもタケの価値を草と同じと思ってるんか」
ケンが笑いながら言う。失礼なやつだな。それを言えば提案したソルさんもか。銀太はお茶菓子を丁寧にせっせと食べている。
「それだとタケは許可が出るやもしれんな。聖女様は城内に女性がいることを嫌うからのう。しかし行けるのはタケだけじゃろう。護衛が付くとしても一人きりで辺境まで行くのか?」
「とりあえずダメ元で申請してみるか。いざとなったら強行突破だ。銀太もいるし」
ケンと銀太が組むのか。嫌な予感しかしない。でもシモンさんに言われて気付いたけど一人で追い出されてもやっていけないだろう。ケンは一緒に行動してくれるみたいだから任せよう。
数日後、第一王子との謁見の場が予約できたとシモンさんから聞いた。ケンはいつもの申請ではなく、王か第一王子との面会希望の申請を出したそうだ。第一王子って初めて会うよね。それを言ったら王様や王妃様や第二王子にも会った事ないし、第三王子とか王女とかいるのかな。その辺り興味がなかったからシモンさんにも聞かなかったけど、普通なら国を挙げて異世界から勇者召喚したりするなら最初の方で挨拶くらいはしていてもいいんじゃないかと思う。普通って言うのも変だけど、今考えるとおかしな話。
「ケンと銀太だけ謁見なの?私は留守番なの?なんで?私も王子様見たい」
「まあまあ、ちょっと聞いてくれよ。そもそも俺らが外出とか遠出するのに許可出してるのは誰だって話だよ。聖女が決定権持ってるぽいけど、聖女にそこまでの権限があると思うか?」
「んー、権限を渡されてるとか。勇者召還に関わった者についてを任せられてるとか」
「それがおかしいんだよ。いくら治癒が使えたとしても平民上がりのぽっと出の女にそんな大切なことを任せるのか?」
「……言われてみればそうだよね。じゃあ誰か権限のある人が後ろにいて、その人の威を借りてる?」
今までの申請書も聖女様が目を通してるってシモンさんが言ってたから、聖女様とお城の文官みたいな人が見て決めてるのかと思ってた。私一人の時の外出許可が出なかったのも、聖女様が女性嫌いで許可を出してくれないものと勝手に思い込んでた。
「俺の予想だが、第二王子が取り込まれてる」
「第二王子って、マーガレットさんが参加した舞踏会で聖女様の横に座ってたっていう人?」
「そいつだ。カルロスの話では破棄騒動の時に嫌な顔はしていたが、口を出さなかったらしいし」
「普通は怒るよね。自分が開催したパーティでトラブル起こされたら」
カルロスさんの話では、破棄騒動が同時開催されたせいでみんなダンスどころではなくて修羅場劇場のようだったらしい。そんな中、第二王子は苦々しい顔をしながらも静観し聖女様は楽しむような目で騒動を見つめていたという。人の修羅場を楽しむなんて、ヤバイ性格決定じゃないか。
「それで何で私は謁見に行けないの?第二王子が取り込まれてる事と関係ある?」
「今までの方法なら申請しても聖女が拒否するし、謁見が叶っても第二王子と聖女がくっついてくるだろ」
「第一王子と謁見しても私達関連の事ならその二人は来るんじゃないの?」
「そこで銀太を使った」
銀太を見ると、きょとんとしてこちらを見つめてくる。最初に会った時より肌が陶器のように艶やかになって私よりも綺麗。ソルさんも艶々なんだった。そういえばケンも肌がきれい。私はなぜカサカサするんだろう。
「銀太は女嫌いで、女がいると喋ることが出来ないことにした」
「ええっ?手も繋げるしベッドで並んで寝れるしお風呂にもついて来ようとするよ?」
「風呂に?!まさか一緒に入ってないよな?!」
ケンが急に焦り出した。さすがに一緒に入ってないけど、いつも自然についてくるんだよね。
「女は嫌いだ」
「ほら刷り込み完了した。それで勇者銀太が王か第一王子に話したいことがあるから男だけって条件付けたら通った」
「ほんとに銀太は女の人嫌い?私の事も嫌い?」
「嫌いだ」
「えっ……やだ銀太……」
「…………」
「タケ嫌われてやんの!だっせー!」
「ほんとに?嘘だよね銀太?」
「…………タケは特別に、好きだ」
「ほぅるぁ!私の勝ち!思い知ったかケンめ!」
「くっ……」
思わず巻き舌になりながらケンを指さして高笑いをする私と項垂れるケン。
そこへソルさんが水瓶にタプタプの水を汲んで持ってきた。
「ケン様、こちらで宜しいでしょうか」
「ありがとな。タケ、この水瓶の中の水に力を注いでくれ」
「いいけど植物の病気治したのだってまだ実験も出来てないよ?」
「保険だからいいんだ。そうだな……状態異常治れーって思いながら力を注いでみてくれ」
「うーん。なーおれー、なーおれー、状態異常なーおれーっ」
水面に手を付けて咄嗟にメロディを口ずさみながら力を注いでみる。これ子守歌だった。植物が眠ってしまったらどうしよう。庭の薬草に水をあげる時は気づかなかったけれど、水の表面が微かに光ったような気がした。これが効いて植物が育つなら肥料とかいらなくならない?水は腐るから期限が短いとかあるか。
「これを第一王子に飲ませる」
「こんなの飲むかな?!毒見とか大丈夫?王子様って状態異常なの?」
「さっきも言ったけど保険だから。毒見用に量も多めにしといた。銀太試しに飲んでみるか?」
銀太は自らコップで水をすくって一口飲んだ。銀太って食に対して貪欲だよね。
「無味無臭」
「よし、これで第一王子もイチコロだぜ」
「そんな毒盛ったみたいな言い方……」
「まあ、あとは俺と銀太に任せとけ。どっちにしてもダメ元だ」