第30話 草花
孤児院の裏庭へ出ると、洗濯物が干してある片隅に花壇のような場所が設置されていて、色々な種類の花が植えてあった。雑草らしきものは抜かれて固めて置かれている。花には詳しくないけれど、日本の花屋では見たことのない花もたくさんあった。
「これ森から持って来て植えたの?」
「そうだよ」「森にたくさんある」「あかいのがしびれる」「きいろは食べれる」
「うわ、レインボーの花とか俺初めて見た。何なんだこの花?」
「きれい」「ひとつでななやく」「いいにおいする」
「痺れるお花とか少しずつもらって帰ってもいい?詳しい人に見せたいの」
詳しい人ソルさんの出番だ。花の事を知ってるかは分からないけど、薬草と雑草の違いが分かってるみたいだし見せてみたい。もしかしたらこの花から麻痺の薬が作れるかもしれないし。いやそれは薬草があるのかもしれないけど。
「薬草は植えたりしてないの?毎回森に行くの大変じゃない?」
「やくそうはあっち」「しなってなる」「げんきない」「そだたない」
指さされた方を見ると別の花壇のような場所に草が生えていた。全体的にしなびているというかくたっとなっている。見た感じ私たちの家の裏に生えているのと同じような草もあるのに育ち方が全然違う。花は育っているのに薬草が育たないのはなぜなのか。
「土が悪いのか?水か?家にあるのと同じ草もあるけどタケはどうやって育ててるんだ?」
「私は水撒いてるだけで、ソルさんが草引きとか色々してくれてるからなぁ。肥料とかもやってるようには見えなかったけど。土かな?家の土を持って来てここに撒いたらいけるかな」
「次来るときに土持って来てみるか。ここで育って採れるならそのほうがいいだろ」
小さな子供たちが森と呼ばれる場所に行くのは大変だと思う。ケンの言う通り、ここで育ってくれれば森に入って危険な花や植物に触らずにすむだろうし、原因は分からないけど土を変えてみよう。なんとなく近くに置いてあった木桶から水をすくって薬草にかけてみる。水は家のと同じぽいのにな。
「なあタケ。驚くこと言ってもいいか?」
「奇遇だねケン。私も言いたい事あるの」
二人で薬草を見つめる。マーガレットさんとカルロスさんと子供たちも見つめる。騎士さんたちは建物の中で手伝いと称してシスターを追い回している。ケンに背負われているリュックの中の人は知らない。
「げんきになった!」「なんと」「みどりになった!」「くさはえる」
目の前の薬草が急にピンと立って青々としだした。茶色くしなびていた薬草もなぜか緑色になってつやつやとしている。
「タケ様がお水を撒いたところから薬草が再生しているようですわ!何をなさったのですか?」
「なんでかなぁ。水に何か入ってたとか。あっ!草が状態異常だったとか!」
「状態異常の草ってなんだよ。植物が病気になるとか聞いたことあるからそれじゃないか?病気になってしなびた『異常』な状態の草を治したんだろ」
「やっぱり状態異常の草じゃない?」
この能力は何でもありなのかな。水をかけるだけで治るなんて、知らないうちに水に力を込めていたってことか。だとすると今は元気になっても、この水を吸い終わった薬草はまたしなびることにならないのかな。家の裏庭の草たちは私が知らず知らずのうちに力を込めた水を撒いていたから育った?わからん。
「ねえみんな。この事もナイショにできる?それと次来る時までに薬草がどうなったかちゃんと見ててくれる?」
「ないしょ」「がってん」「かんさつする」「ひみつね」
「ふふ、わたくしもナイショにしますわ。奇跡のような事を二度も目にしてしまうと、タケ様が聖女様ではないかと思ってしまいます」
「本当にタケ様のほうが聖女に相応しいのではと私は思います。ですがそれも私達だけの秘密ですね」
聖女様は治癒を使えるんだから私よりももっとすごい何かだと思うんだけどな。それこそ手も触れずにキラキラした何かを振りまいて人々を癒すとか。でももし本当に植物にもこの能力が使えるのなら、家で美味しい果物がなる植物とか育てて食卓を豪華にできるかもしれない。そしたらみんな喜んでくれるかな。甘いものだったらシモンさんが入り浸るな。
子供達と次に土を持ってくる約束をして孤児院を出た。みんなすごい元気。食事内容でこんなに変わるんだね。マーガレットさん達は出来るだけ早く西部辺境に向かいたいそうで、次の約束は保留となった。
「先程お話しした北部辺境ですが、もしご興味をお持ちで向かわれる事があるようでしたら私の名前をお使いください。西部のカッセル家と仰って頂ければ北部辺境伯には伝わります」
「ありがとうございます!お城を出られるか分かりませんが、出られたら北部に向かいますね!」
「タケ様、ケン様、お二人に出会えたのは女神様のご慈悲だと思っております。どうかお元気でお過ごし下さいませ」
マーガレットさんは最初に会った時の儚さが減って、意志を持った強い瞳をしている。カルロスさんと出会って変わったのだろう。あのままダニエルさんとくっつかなくて良かったなと他人事なのにホッとしてしまう。私は異世界に来て何か変わっただろうか。これから変われるのだろうか。