第27話 光
先に教会でアルス神父にご挨拶をと、いつものように教会の扉を開けたが何だか今日は雰囲気が違った。訪問している人が明らかに多いのだ。豪華な服を着た人が何人も教会内でお祈りをしている。アルス神父やシスター達もその対応に追われているようで、私たちが入って来た事にも気づかないようだった。
不思議に思いながらとりあえずはと女神アウローラ様の像の前まで歩いて行き像の前に並び立つ。そして女神アウローラ様を見上げた瞬間、窓から差し込んでいた光が明るくなり女神像がキラキラと輝きだした。幻想的な光景に教会内の人々の視線が女神像に集まる。アルス神父はそこではじめて私たちに気づいたようで、足早に近くまで来た。
「タケ様、ケン様。ようこそおいでくださいました。この光は一体どういう事か……。やはりお二人は聖女様と勇者様であられるのでしょうか?」
「こんにちは。これは偶然だと思いますよ。だって私たち何度もここに来てるのにこんなの初めてだし、私たちのはずが……」
そう返答しながらケンの背中に背負われたリュックに目がいく。そういえば銀太は剣聖の能力があった。光の原因は銀太か?
「聖女様とか勇者様だったら女神像が光るんですか?」
「言い伝えではそのように聞いたことがあります。女神様から聖なる祝福の光が与えられると」
「へ、へぇ。でも私たちじゃないですね。いつもは光らないし」
「俺らがそうなら前々から光ってるはずだよな!」
私の言葉にケンがわざとらしく同意し、神父様は首を捻りながらも納得してくれた。聖なる光とか、聖のつく能力二つも持ってる銀太で間違いない。馬車に置いてくれば良かった。銀太がここに来るとこんな現象が起きてしまう事が聖女様に知られれば、何としても銀太を手に入れたいと思うだろう。教会中の人が私達に注目してくるが、気にしないようにして話題を変える。
「今日は人が多いみたいですが何かあったんですか?」
「はい、タケ様とケン様と騎士様方のおかげで陛下直々に指導が入りまして。これまでは貴族の方々は数カ月に一度教会を訪れるだけで名目を保てていたのですが、これからは女神様にお祈りをし、孤児たちの様子を見るようにとお達しが出ましたのでその為です」
「私たちが何かしたわけではないんですけどね。でもだから皆さん慌てて訪問してるんですね」
「はい、ですので今まで以上に人手が足りなくなりまして……」
忙しそうな神父様に断ってから、私たちだけで孤児院のある建物に向かうことにした。孤児院の中へ入ると、驚いたことにこちらにも貴族の姿がチラホラあった。見張りのような騎士さんもいたので、前に聞いた逆恨みとかの防止と貴族たちがちゃんと子供と接しているかを見ているのかなと思う。
私たちが来た事が分かると、近くにいた子供たちがワラワラと寄ってきて二階へと案内してくれた。もはや顔パスだ。手を引っ張ってくれるのは、目の視えなかった……エミー?名前忘れたごめん。
「しんぷさまからいわれたの。マヒのこなが出るお花をさわっちゃったこがねてるの」
「麻痺?花粉を吸い込んだりすると麻痺する花があるの?」
「わかんない。からだがうごかなくなるの」
二階の部屋へ入りベッドを見ると三人の子供が横たわっていて、意識はあるけれど体を動かせないようだった。ヨハネスさんとアレックスさんが部屋まで付いてきてるし、部位欠損とかでなくて良かった。いつもは治療するときにケンが真横で見ているのだが今日は来ないなと思って部屋を見渡すと、騎士さんの背後でリュックを下ろして口を緩めていた。銀太に見せる気なのかな。見つかると面倒くさいから大人しくしていてほしい。
注目される中、横たわる男の子の額に手をあてる。男の子の目がこちらへ向いて目が合う。見たことのある子だ。この前見た時より心なしかふっくらしたような気がする。支援が増えて食事量が前より多くなったのだろうか。手のひらに集中すると、手が温かくなり額が淡く光り出す。光が全身に広がり出し、全体に届いたところで急に消えた。男の子は体を起こして両手をにぎにぎしている。
「ありがとうお姉ちゃん!力が入らなかったのがなおった!」
「他に変な感じとかない?花粉を吸いこんだの?」
「前より元気だよ!裏庭に花を植えようと思って、森に咲いてた花を持って帰ってきたらいきなり力がはいらなくなったんだ」
「変わったお花だね。あとでそのお花見せてくれる?」
あとの二人も同じ症状だったので額に手を置いて治療した。部位欠損とかだとそれに近い場所のほうが効率がいいけど、全身麻痺の時などはどこに手を置くのがいいのだろう。症例が少なくて実験もできない。少ないことは良いことだけれども。
治療が終わった頃、部屋の扉がノックされた。騎士さんに開けてもらうと子供たちとマーガレットさんが立っている。
「お久しぶりでございます、タケ様、ケン様、騎士様。階下は大変混雑しておりましたので子供たちがこちらへ案内してくれたのです」
「マーガレットさんおひさ!元気そうで良かったよ。舞踏会終わったの?」
「ええ、舞踏会は無事終わりました。そのご報告をと思っているのですが、こちらのお部屋をお借りしても宜しいでしょうか」
治った子供たちを追い出し、私たち四人とマーガレットさんと、その背後にいた謎の男性が椅子に座る。この男性の出で立ちが変わっていて、オペラ座の怪人が付ける様な片側だけのつるりとした白い仮面をつけていた。右半分だけ隠れるように白い仮面が顔に張り付いていて、金色の髪と顔の左半分が綺麗に整っているため少し不気味だ。
「まずはわたくしの新しい婚約者様をご紹介致しますわね。こちらのカルロス様とこの度正式に婚約致しました」
「お初にお目にかかります。カルロス・ド・ボルボーン・カッセルと申します。カッセル辺境伯家の長男です」
「辺境伯!マーガレットやったなぁ!ってかダニエルはやっぱダメだったか」
「おめでとう!すぐ相手が見つかるなんて、やっぱ私のセンスのおかげかなぁ?辺境伯ってすごいの?」
ケンに問いかけると、呆れたようにこちらを見下ろしながら教えてくれた。
「タケは貴族の階級とか知らんの?ファンタジー小説読まん?辺境伯といえば侯爵と同じかそれ以上の実力があるとされてるんだ」
「へぇ、それはすごい。ダニエルさんと同じくらいの地位って事?だから早く婚約が決まったのかな」
「ええ、私の家族はとても喜んでいます。ダニエル様の事は諦めておりましたので、破棄をされてすぐにこのような素敵な方と出会えたのは女神様のご慈悲であると感謝しております。カルロス様はとてもお優しく、わたくしの知らない魔物の事にお詳しく、そして火の魔術がお得意でそれはもうお強いのですよ」
「魔物?!やっぱいるのか。辺境にいたりするのか?俺も見てみたいな」
「私も見てみたいなぁ。火の魔術で倒したりするんですか?」
私たちだけテンションが上がってしまっていた。カルロスさんが軽くひいている。でも初めて会う攻撃型の能力持ちだ。
「貴方がたは、私のこの仮面についてよりも魔物にご興味があるのでしょうか……?マーガレット嬢のご友人とお聞きし覚悟していたのですが、他の貴族とあまりにも違う」
「仮面の事聞いたほうが良かったですか?何となく聞かれたくない気がしたから触れなかったのに」
「なあそれより魔物の事教えてくれよ。俺でも倒せるのか?」
カルロスさんはなぜか笑い出してしまった。仮面の事を聞かれると構えていたのに聞かれなくて、警戒していた自分が馬鹿らしくなったらしい。そんなカルロスさんをマーガレットさんは嬉しそうに見つめている。
「私のこの仮面の下は、幼いころに負った火傷で爛れています。辺境には魔物が出るのですが、それを退治するのも辺境伯家が取り仕切っているため、幼い私は父の手伝いがしたく火の魔術を使用したところ暴発し焼けただれてしまいました。孤児院の子供たちが怖がるかと思い今日はこのような仮面をつけて参りました。マーガレット嬢からお二人は気になさらないと聞いておりましたが、こうも気にされないとは思いませんでした」
「他の貴族は会った瞬間にそのことを聞くのか?」
「ええ、まずはこの顔の事を聞かれますね。聞かれないとしても顔を顰めたり、ご令嬢なら叫んだりします」
「顔見て叫ぶとはひどいやつだな」
「ねえカルロス様、わたくしが申したとおりでしょう?」
「本当だな。マーガレット嬢の周りは心優しい人達ばかりだ」
なんだか二人でイチャイチャしだした。二人は出会って数日のはずなのに何なのだ。