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第26話 馬車

 ようやくやってきた外出日。朝から馬車に荷物を積み込んだりなかなか忙しい。今日も料理人さんが張り切って苺のパイを焼いてくれたので、朝食で少し頂いてから残りを馬車に積み込んだ。タルトとかイメージ言ったら作ってくれるかな。


 銀太は苺パイを丁寧に食べていたまでは良かったのに、食べ終わるとベッドへ戻って不貞寝してしまった。ついて行く事をようやく諦めてくれたらしい。


 さあ馬車へ乗って出発だというところで、ケンが大きなリュックのようなものを背負って乗り込んできた。


「楽器がかさ張ってさ。壊れたら困るから布で包んだりしたら荷物大きくなった」

「かなり重そうだけど楽器だけ?そのリュックどうしたの?」

「騎士に言ったら用意してくれた。俺らの演奏楽しみにしてるらしいからな」


 ケンは私との間の座席にリュックをそっと置いた。私とケンが大きなリュックを挟む形になる。向かいにはヨハネスさんとアレックスさんが座る。二人が用意したリュックらしく、どんな音色が聞けるのかと嬉しそうに話していた。



 しばらく馬車が進み異変に気が付く。なんとお尻が痛くないのだ。馬車揺れ対策として畳んだ毛布を持ち込んではいるが、それがあってもいつもは多少痛かった。なのに今日は全然痛くない。前を見ると騎士さん二人は空気椅子をしているのできっといつも通り痛いのだろう。ケンを見ると普通に座席に座っており、何かをこらえる様な顔をしている。痛いのか?痛いなら空気椅子すればいいのに。それにしてもなぜ私のお尻は痛くないのだろう。皮が厚くなったのかな。



 首を傾げながらも馬車は進み街に到着した。騎士さん達が先に降り、ケンが降りようとしたところでこちらを振り返って言い放つ。


「タケは馬車で待っててくれるか?香辛料買うだけだしすぐ戻る」

「えーっ?私も商品見たいんだけど」

「まあそう言うなって。外は暑いから心配してやってんだよ。静かにしてろよ」

「暑いかな……?あっケン!」


 バタリと馬車のドアが閉められた。ケンがそうと決めたら口では適わないので諦めるしかない。急に留守番することになり、一人ぽつんと馬車の中に座る。御者席に人はいるけど呼び寄せて話し相手になって貰うのもどうかと思い、手持ち無沙汰にケンの荷物を触る。リュックの口が硬く絞ってあるので緩めてみた。


「ああ暇だなぁ。でもケンってこんなに楽器作ってもらってたっけ?全部ベースなのかな。私も練習して弾けるようになったら歌わなくてすむのかなぁ……」

「…………」

「……えっ」


 開いたリュックの口の部分から銀色の髪と鋭い目がのぞく。目が合って固まる。入っていたのは楽器ではなかった。楽器も入ってるかもしれないけどそういう問題じゃない。


「…………銀太なにしてんの?」

「ついてきた」

「…………」

「…………」


 私はそっとリュックの口を閉めた。ケンが共犯なのか?いや主犯か。ベッドの上のあの塊は何だったのだ。もしやケンがお尻の下に敷くつもりの毛布か?ということはソルさんも共犯か。そこまでしてついて来たい理由は何だ。



「あっもしかして!お尻痛くなかったのって銀太が何かしたの?」

「(聖界というのを使ってみた)」

「あれって他の人にも使えるんだ?」

「(試しに使ってみたら使えた)」

「その聖界っていう結界みたいなのを張ればお尻痛くないんだね。バリアみたいなのかな?あっケンってばもしかして痛みじゃなくて笑いをこらえてたの?」

「(ケンにも使った)」


 荷物と会話する女である。傍から見たら怪しすぎる。騎士さんにばれたらどうしよう。ケンはどうするつもりで連れてきたのか。孤児院では二階で騎士さんを追い出したら出てこれるだろうけど、それ以外はこのままの状態でいてもらうしかない。改めてリュックを眺めてみると、どうやら銀太は体育座りをしているようだった。


 学校の修学旅行の準備の時に親戚から借りた大きなバッグに入ったりして遊んだ記憶がある。いつだったかスーツケースに入って国外脱出した有名人がいたし、荷物に入るのは意外と流行ってるのかな。んなわけない。


「ついてきても出られないよ?」

「(構わない)」

「孤児院のみんなで昼食と苺パイ食べるけどその時も出られないよ?」

「(……我慢する)」


 もう街まで来てしまったし、リュックの中に居るというのならそのまま居てもらおう。銀太と小声で話しているとケンと騎士さんが帰ってきた。乗り込むときにケンが私の目を見て悪そうな顔でニヤリと笑った。こういう事は先に言ってほしい。抗議の意味を込めて睨んでしまった。



「カレーの作り方をあの店のお姉さんに教えといたぞ。喜んでた」

「あのおばさんだね。作り方が広まって美味しい食べ物が街にあふれたらいいよね」


「タケ殿はあの料理が広まっても宜しいのですか?タケ殿の家でしか味わえない料理として特別感を持たせたりして優位に立たれるなどされないので?」

「あんまりそういう事は考えてなかったかな。レシピ考えたのは私じゃないし、作ってくれるのも料理人さんだし。世間ではこういうのは独り占めするもんなの?」


「貴族たちは自分の家を盛り立てるために、そういった事は秘匿にして交渉の場で利用したりしますね」

「そうなんだ。でもいらないかな。ケンもいいよね?」

「俺も街で美味いもんが食えるならそれでいい」


 私たちの考え方は現代日本寄りなのだろう。騎士さんたちは不思議そうな顔をしていた。孤児院は運営費が見直された事により食事事情が改善されているらしいので、今回は食材は買わずに教会へと向かう。



 先程から気になることがある。私の左側に置いてあるリュックである。時折リュックの形が歪み、私のわき腹をツンツンするのだ。くすぐったいのでやめて欲しい。



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