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第24話 無言

「タケ助けて」


 シモンさんの呼びかけに、フードを脱ぎながら魔法陣の近くまで歩み寄る。黒いローブの人達は私とケンが混じっている事は知っているのでもう隠れる必要はないし。小柄に見えた銀髪の彼を近くで見ると意外に背が高くて、155cmの私と同じくらいある。ちょっと負けてるかも。私が動いたことで、彼の鋭い目がギロリと私を見た。やだこわい。


「シモンさん、私の能力って直接触れないと使えないって言いましたよね。弾かれるのにどうやって使えばいいんですか?それと聖女様ってそういうの治せないんですか?呪いとかってまさに聖女様の仕事じゃないんですか?なんか神々しい光とかでパーッとやっちゃえばいいのに」

「ぐうの音も出んわ。それでも何とか出来んかの?ワシまだ働きたい」

「シモンじいさんもう長くないんだからそろそろ隠居したらどうだ?」


 ケンの厳しい言葉にシモンさんが涙目になる。おじいちゃんをいじめないで。部屋を見渡すと黒いローブの人達は帰り支度を始めている。まさかの放置だ。



「ここじゃ何だし、あの家に戻ってから治してみるとかどうですか?お腹すいちゃった」

「そういえば腹が減ったの。ワシも食べに行ってもええかの?カレーはタケの家でしか食べられんからのう」

「こいつどうすんだよ」

「……あ、そういえば動かないんだった。どうしよう」


 こっちですよって言ってついてきてくれればいいけど、もしかして言葉が通じないとかかな。でも転生者って自動翻訳機能がついてるみたいだし、耳が聞こえてないとか?



「あのぉ、銀髪のあなた。私はタケって名前で、こっちはケンっていって一緒の家に住んでるんですけど、今から私達の家で夕食なんで一緒に行きませんか?あっ、このおじいさんはシモンさんです。この先に長ーい登り階段があって、その先なんですけどついて来てくれたら嬉しいなって。いや嬉しいのか?よく分からないけどお菓子もあるから行きましょう」

「誘拐犯の手口だな」


 うるさいなぁ。ケンの横やりは気にせず、銀髪の彼ににじり寄る。さっきから私の事をずっと睨みつけてる。こわいってば。動く気配がなかったので、弾かれることを覚悟に彼の手を握ってみた。


「……あれ?弾かれない」

「お菓子に釣られたのか?そんなんじゃ誘拐されるぞ?」

「彼はまさに今誘拐されてここにいるからね」

「そう言わんでくれ。ワシもちょっとは悪いと思っとるよ」


 ケンとシモンさんと話しながら銀髪の彼の手を引っ張るとすんなり歩いてくれた。手を引いたまま部屋を出て階段を皆で上がる。大人しくついて来てくれている。


「なんであの騎士さんは弾かれたのかな?聖女様が言っても反応なかったのに動いてるし」

「いやタケさ、聖女見た?今日もやばかっただろ。あの恐ろしい笑い顔を見たときは吐くかと思った」

「目の奥は怖かったけど容姿は綺麗だよね。騎士さん達もデレデレしてたじゃない」

「聖女様の周りの騎士どもは皆あんな感じじゃ。目が眩んどる。……それよりもこの階段つらいのぅ」


 本当に階段つらい。聖女様はおぶってもらったりするのだろうか。お姫様抱っこかな。そんなつらい階段でも銀髪の彼は平然としている。豪華な服着てるし、普段から鍛えてるとかかな。


「タケそいつに触れてるんだったらさ、呪い解いてみたらどうだ?ってか呪いなのか?」

「えっ今?!こんな階段上りながら集中できないよ。ごはん食べてからでもいい?」

「メシはまだかの」



 ワイワイと話しながら家に到着した。ソルさんが夕食の用意をしてくれていたので、そのまま銀髪の彼を座らせて皆も席に着く。


「ちゃんと人数分ある!ソルさんありがとう!そしてスープカレーだ!」

「人数が増えると予想しておりましたので」

「シモンさんが失敗しないって信じてるんじゃ……?」

「…………」


 私たちがスープとパンを食べ始めると、それを眺めていた銀髪の彼も器にスプーンを入れた。一口食べてピクリと止まったかと思うと、猛然とスープを食べだした。スプーンが動くスピードが驚くほど速いのに、動作が綺麗で品がある。食べている姿を見られるのはマナー違反だから目に見えない速度で食べて争うといった漫画を読んだ事がある。その漫画のように、気づけば銀髪の彼のお皿は空になっていた。


「……おいしかったのかな?オレンジパイ食べる?」

「パイがあるならワシにもくれ。しかしこのスープはうまいのう」


 用意してあったパイをパンが乗っていたお皿に取り分けてあげると、ソルさんが期待のこもった目で見つめてきたのでソルさんのお皿にも乗せてあげる。シモンさんはパン食べてからね。


 銀髪の彼はフォークで一口分だけ切り分けて口に入れた。そして目を軽く見開く。表情が動くのを初めて見た。それから彼は先ほどとは違い、フォークで一口分ずつ丁寧に切り分けて味わうようにパイを食べだした。食べ終わる頃には、彼のお皿は舐めたように綺麗になっていた。パイって崩れやすくてポロポロ欠片が落ちるのに、ひとかけらも残っていない。お口にあったようで何よりだ。



「名前分からないから呼びかけるのにも困るよねぇ。ニックネーム決めちゃう?」

「治るかわからんし、喋れるようになるまでの仮の名前はいるかもな」


「うーん、髪の色から銀太!」

「じゃあ俺は……銀次郎!」

「なんで次郎なの?兄はどこにいるの?古臭くない?平成のノリなの?」

「くっ……」


 ケンは悔しそうに拳を握りしめて項垂れている。叩きのめしてやった。銀髪の彼は冷めた目でこちらを見ている。ウンとかスンとか言わないと銀太になっちゃうよ。


「第二候補はシルバ!」

「じゃあ俺は……†銀翼の堕天使†」

「まだアレ治ってないの?どこに翼が?堕天使はどこから来たの?」

「俺の中の中二病ソウルが疼くんだ……」



 シモンさんとソルさんも交えて、どうしようかと考えていたら急に中性的な声が聞こえた。


「ギンタでいい」

「……えっ!?誰の声?」

「…………」


 一人ずつ顔を見てみるが、当てはまる人がいない。シモンさんはしゃがれているし、ケンはイケボだし、ソルさんはケンより低めでこちらもイケボだ。聞こえたのは女の私の声より少し低いくらいの声。


「ギンタでいい」

「やっぱり!この子から聞こえる!」

「喋った?!何がきっかけだ?ってか銀太ってダサいけどいいのか?」

「呪いではなかったという事か?なら聖女様の元へ連れて行かねばならん」


 そうだった。喋ったからって喜んでいたが、喋れて意思疎通も出来ているようなので聖女様の元へ返さなくてはならない。でもなぜ今まで喋らなかったのだろうか。


「ここにいる」

「聖女様の元は嫌だと言うのか?こんな小さな家よりもあちらのほうが扱いが格段に良いぞ?」

「じいさん俺らの家の事ディスってないか?」

「…………」


 私とケンはシモンさんをじとっと見つめる。そんな事言うならもうお菓子分けてあげないよ?その視線に気づいたシモンさんは焦ったように目を泳がせた。


「銀太本人の意思は尊重されないの?」

「それだけ聖女様の言葉は重いということじゃ。実はケンも病が治れば聖女様の元へ連れて行くようにと言われておるが、まだ治っておらず伝染する可能性があると報告しておるのでここにおられるんじゃ」

「俺あの聖女の近くに行くの嫌だ」

「わかっとる。だが彼は剣聖であるからのぅ……」


 シモンさんが困った顔をして悩みだしてしまった。


「ねえ銀太、この世界はもうすぐ魔王が現れるらしいんだけど、それを倒すためにさっきの聖女様が勇者召還をしてるの。私とケンは間違えて召喚されたんだけど、銀太は剣聖能力を持ってるから『勇者』なの。あれ?剣聖って能力なの?称号とかじゃないの?称号が勇者になるの?」

「銀太が待ってんぞ」

「いけないいけない。だから銀太は聖女様と一緒に魔王を倒すことになるの。勝手に召喚しといて自分勝手だと私も思うんだけど帰る方法も分からないし、私たちは間違いってことで放置されてるから帰る方法探してるし、だからって言ったらアレだけど銀太は聖女様と魔王討伐してくれない?」

「ここにいる」


 意思は固いようだった。それにしても可愛い声をしている。聖女様もこの声を聞いたらもう銀太の事離さないんじゃないかな。



「ふむ、とりあえず今夜はこの家で過ごしてもろうて、明日もう一度見に来るとしようかの。聖女様にはまだ治せてないと言うておく。その間にタケは説得するなりしてくれんか?聖女様の命には歯向かえんからのう」


 シモンさんはとぼとぼと帰って行き、その後は各々自由に過ごした。面倒くさいことは後回しにする私たちだ。ケンはベースのような楽器を弾いて、私は今まで学んだ魔法陣の事と今日の召喚の儀を照らし合わせたりし、ソルさんは私の手元を眺めている。そうして過ごす私たちを銀太はじっと見つめていた。


 そして就寝の時間になった。


「寝る場所どうしよう?キングサイズだから三人寝ても大丈夫そうだけど……」

「壁作ったら結構狭くならないか?銀太にソファで寝てもらえば?」

「ケンがソファで寝なよ。私と銀太がベッドで寝るから」

「俺枕が変わると眠れないんだって」


 ケンと言い合いながら相談していると、どこから見つけたのやら部屋着に着替えた銀太が素早くベッドに横になってしまった。それも毛布で作られた壁を取り払ってベッドの真ん中に。


「…………」

「……寝るか」

「……そうだね」


 三人で並んで寝た。ベッドは三人寝ても広く使えた。



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