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第14話 ハンカチ

 叱られる予定の子供たちを神父様に預けて私たちだけで孤児院に入ると、室内はやはり暗くどんよりとした雰囲気だった。前より人数が少なく見えるのはそれぞれ掃除や洗濯などをしに出ているのだろうか。こんなに空気が悪いと健康な人でも病気になりそうな気がする。中にいた子供たちは私たちの事を覚えていたようで、赤ちゃんをあやしながらも近づいて来てくれた。


「こんにちは」「待ってたよ」「きょうもおはなしして」「ほんとにきた」

「こんにちは。神父様から二階へ行くように言われたけど誰か案内してくれる?」

「いいよ」「ぼくが」「わたしが」「はやくいこう」


 痩せて暗い顔をしていた子供たちはケンの童話が待ち遠しかったのか、急に目をキラキラさせて案内してくれた。前と同じ手前の部屋に着くと、案内してくれた子供たちは階下へ降りて行ったので四人で部屋へ入る。邪魔にならないようにと神父様に言われてるのかな、えらい。


 部屋の中にはシスターひとりとベッドに六人の子供が寝かされていた。


「ようこそお越しくださいました。お待ちしておりました」

「こんにちは。今日も体調不良の子がこんなにいるんですか?」

「この子たちは前回のような重い毒の症状ではなく、原因不明の熱を出しているだけになります。お恥ずかしい話ですが、体調を崩しても治療院にかかることもできず、一人が病気にかかればその子を看病していた子も体調を崩すといった状況がよくあります」

「悪循環だね。原因不明っていうけど弱い毒が体内にあるのかもしれないよね?」


 騎士さんが聞いているので、解毒した事にしたほうが都合が良い。ただの風邪とかも治すことになってしまったら聖女様が怒るかもしれない。


「治るかどうかわからないし実験みたいになってごめんなさい。でもやってみるよ。ケン、紙とペン持ってきたから記録してくれる?」

「おう任せとけ。シスター、神父から聞いたと思うけどここでの事は秘密な」


 ケンが微笑みながら話しかけるとシスターは頬を染めて頷いた。次々とナンパするのやめてください。



 部屋の端のベッドから順番にみていく。素人目だけど今回は全員ただ熱があるだけに見えた。ケンも紙に症状:発熱と日本語で書いている。騎士さんには嘘をつくことにしよう。子供の額に手をあてて、大きめの声で呟く。


「やっぱり弱い毒かなー。解毒ー。毒解除ー。毒よ消え去れー」

「(棒読みやめろ)」


 手のひらが温かくなり子供の額と体が光り出す。冷静に考えると皮膚が光るってやばい。どういう原理で光ってるのか問い詰めたい。皮膚そのものが光るのか、体の周りにある空気が化学反応とかで光ってるのか……いややめよう、私は文系だから考えてもわからん。


「おおお!またもや奇跡をみているようだ!このような場に立ち会えるとは!」

「素晴らしい!この神々しい光、女神さまが降りて来られているのか!」


 騎士さんたちは口々に褒めてくれるけどさっき教会の横でも見たよね。演技なのか?


 その後も、「麻痺してるみたいー」とか「弱毒性のー」とか呟きながら六人全員を光らせた。治ったかどうかは分からないけど辛そうな表情は消えている。


「ありがとうございます!後ほど神父様に確認していただきますが、私の目には治っているように見えます。本当にありがとうございます……!」


 シスターは泣いている。そういえばシスターにこれを見せるのは初めてだったかも。でも騎士さんたちも涙ぐんでいるからこの能力は珍しいものなのだろう。


「隣の部屋にも体調の悪い女子が数名おります。まだ治して頂けるのでしたら是非お願いします。神父様からは、できれば男性はご遠慮願いたいと申し使っておりますが……」

「分かりました。私とケンで行くので、ヨハネスさんとアレックスさんは食料を運び込んで()()()昼食を作ってもらうようシスターに伝えてもらえますか?パイも渡してあげてください」

「ええ、ですが宜しいのですか?ご自身でお渡しになったほうが」

「実際私たちからじゃなくてお城からのお小遣いで買ったものだから、いいんです」


 そう言うと、騎士さんたちは納得はしていないようだったが階下へと降りて行った。この部屋をシスターに任せてケンと二人で隣室へ向かう。隣室を開けると、男女合わせて五人が座って待っていた。彼らが神父様にお願いしておいた部位欠損や内科的な病気の子たちだろう。女の子だけと思わせて騎士さんを引き離してくれたようだった。



「あの、タケ様とケン様でしょうか?私はアリアといいます。目が覚めたら手が元に戻っていて、神父様がタケ様に治してもらったと言っていました」

「おお!腕が生えた子だ!手は動く?」


 思わず女の子の腕を持って動かしてみたり握手してみたりする。よかった、ちゃんと動いているし握力もある。ケンも近づいてきて手首を持ったりして確かめていた。女の子は頬を染めている。だからナンパするんじゃない。



「ありがとうございました!手がなくなってこれからの生活をどうしようかと思っていたところでした。こんな奇跡みたいな……。お礼をしたいのですが何も差し出せるものがなくて……」

「お礼とかいらないよ。私のほうこそ、実は初めて使う能力だったからアリアさんを実験体みたいにしちゃったの。ごめんね?」

「とんでもない!感謝しかありません。それで、お礼になるかは分からないのですが置いて帰られたハンカチが無地だったので刺繍をしてみまして」


 おずおずと差し出された私のハンカチには隅のほうに刺繍がしてあった。置き忘れて帰ったことに後で気が付いたけど、日本で百円で買ったハンカチだったのでいいかなと思っていた。その百円で買った無地の水色のハンカチの片隅に、たくさんの花が詰めあわされたデザインの豪華な刺繍がしてあった。


「すごい綺麗!ありがとう!こんな素敵な刺繍初めて見たよ!」

「うわマジで綺麗だな。このデザインはアリアが考えたのか?」

「いいえ。最近よく来てくださるマーガレット様が刺繍入りハンカチをくださるので、同じように刺しました。本当は糸は服のほつれを縫うために使わないといけないんですが、神父様が一枚だけならいいと仰ったので……」


 アリアさんは刺繍を褒めるともじもじと恥ずかしそうに喜んでいた。かわいい。これだけ精巧な刺繍を見ただけで真似できるなら、それを刺して売ったりして食費に当てられないのかな。いや、お金を稼ぐと国から寄付が減額されるのかもしれない。



「それで神父様から私のように体が正常ではない子を集めるように言われて、この四人を連れてきました。端から順に右足首がないミュゼ、目が見えなくなったエミー、右手首がないエリオット、足が腫れたファルです」


 子供たちが暗い表情で私たちを見つめてくる。治せるのだろうか。不安しかない。暗いながらも期待のこもった眼差しに答えるように、ゆっくりと子供たちに話しかける。


「さっきもちょっと言ったんだけど、私の能力って自分でもよく分かってなくて、今は検証してるところなの。アリアさんは何故か治ったけど毎回うまくいくかはわからないし、どこまで治せるのかも分からない。悪くはならないと思うけどね。そんな実験みたいなことをあなたたちにしようと思ってるんだけど、それでも協力してくれる?」


 私の問いかけに、子供たちは顔を見合わせた後に覚悟を決めたように頷いた。私もケンと頷きあう。精一杯頑張ろう。



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