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第13話 毒

 街の西のはずれの教会に到着し馬車を降りる。今回は事前にお城から連絡が入っているそうだ。前回より早い時間に着いたからか、教会前の道に子供たちが数名しゃがみこんで草むしりやゴミ拾いをしていた。もしかして私たちが来ると知らされて掃除させられてるのだろうか。だとしたら申し訳ない。


 あとでゴハン作ってあげるからねと心で話しかけながら通り過ぎ、四人で教会に入ろうとすると教会横の大きな木のふもとで子供達数人が騒いでいた。孤児院の子供四人と、貴族っぽい豪華な服を着た男の子一人に見える。


 足を止めて様子を伺うと孤児が一人膝をついて喉元を押さえており、残りの孤児三人が怒っているようだった。貴族っぽい男の子はそれを見て大声で笑ってからこちらへ走ってくる。私たちをちらりと見てから自分で教会の扉を開けて中へと駆け込んでいった。ケンを顔を見合わせる。


 喉元を押さえていた男の子は地面に倒れこんでしまい、立ち上がれないようだった。私が惹きつけられるようにフラフラと男の子の元へ歩いていくと、男の子は青い顔をして荒い息をしていた。口元からは泡のような涎がダラダラと出ていて、目を見開いている。


 周りに立っていた子供が私たちを見て、あ、と口を開けるのが見えたが、私はそのまま屈んで男の子の額に手をあてた。お願い助かってと呟きながら念じる。男の子の額はびっしりと汗をかいていたが私の手も焦りから汗をかいていた。手が震えてしまう。


 男の子の額が淡い黄色に光り出して全身が光りに包まれると、やがて光がおさまり男の子の顔色が戻ってきた。ふと顔を上げると、ケンと騎士さんが私たちを周囲から隠すように囲んで立っていた。そうだ、こんな野外で能力を使ってしまった。誰か外部の人に見られていないかな。



「このまえ来てくれたおねえちゃんだよね?聖女様だったの?」

「あの光ってなに?ディルはたすかったの?」

「アリアをなおしてくれたのもおねえちゃんなの?」


 子供たちは驚いたように口々に問いかけてくるが、それどころじゃない。状況を聞き出さないと。倒れていた男の子は起き上がって座り、きょとんとしている。痩せているけど元気そうでよかった。


「こいつは何でこうなった?毒を食ったのか?さっきの貴族みたいなやつは誰だ?」

「さっきの子がこのおかしくれたの。いまここでたべろって」

「しんぷさまからダメって言われてるけどおなかすいてたからディルが食べちゃったの。わたしたちはまだあるよ、ほらこれ」


「あいつはいつも来るのか?いつも食いモン渡されるのか?」

「あの子ははじめてみたよ。ほかのきぞくさまはおかしくれることがあるよ」


 子供たちが貰ったというお菓子をまだ手に持っていたので回収して、ケンと騎士さんとで顔を見合わせる。皆が怒った顔をしていた。あの貴族の子が悪意を持って毒入りのお菓子を孤児に与えたのだろう。


「あいつ親が来てるはずだよな?とっちめてやろうか」

「なんて酷いことするの?貴族ってどういう教育してるの?」


「落ち着いてください。今ここであの子供と親を問い詰めることもできます。しかしそれでは一時的な対処にしかなりません」

「この証拠の菓子と中にいる貴族がこの時刻に教会を訪れたという記録、子供の症状などを合わせて城に報告します」


「そんな事して効果あるの?あの子にもうしませんって言わせたほうがいいんじゃないの?」

「いいえ、非人道的な行為ですので国から当主へ指導があるでしょう。この王国は孤児であっても意味もなく安易に命を奪ってはならないという考え方です。そして国から指導があったという事実はすぐに広まる。貴族の悪い噂というのは恐ろしいものですよ。家格にもよりますが時には家が滅びます」

「ただの報告でそんなことになるの?」

「貴方がたは聖女様の客人であり、私達は国に所属する騎士です。証拠もありますので無視できないでしょう」

「まあ、仕方ないか。長期的に見たらそのほうがダメージ受けそうだもんな。俺はそれでいいよ」


 私もケンも内心は納得していなかったが、騎士さんの言葉にケンが従ったので今はそれが正しいのだろう。騎士さんも怒っているし任せてみよう。今度こそ信じてるよ。




 座っていた男の子を立たせて、子供たちも連れてぞろぞろと教会に入る。神父様にダメと言われているという貰い食いをしたのだから叱られてもらおう。毒を食べた男の子はもう懲りただろうけど一応。


 女神様の像の前でアルス神父とでっぷり太った貴族ぽい男性が話していた。横にはさっきの貴族ぽい男の子もいる。男の子は私たちを見て、その後ろにいる子供たちを見て、怪訝な顔をしていた。子供たちの中にさっき倒れていた男の子が平然と混じっているのを見つけたのか、驚いた表情をする。


「アルス神父、お話し中失礼致します」

「何だね君達は?今は私が神父様と話しているんだ。平民は黙っていろ。平民が貴族に話しかけていいとでも思っているのか!」

「先触れをお出ししましたが王城から参りました視察の者です。聖女様の大切な客人であるお二人をお連れ致しました。お時間が限られている為、割り込みをさせて頂きました。誠に申し訳ございません」


 太った貴族は私たちを追い払おうとしていたが、王城、聖女様、と言ったあたりで静かになった。簡素な服装をしているので平民に見えたのだろう。平民だけど。貴族の男の子も驚いている。アルス神父はオロオロとしていた。白髪を増やしてごめんなさい。


「か、構わん、もう帰るところだ。ライアス行くぞ!」

「ああ、貴方様が教会へ慰問に来られていたという事を城に伝えておきます。家名をお伺いしても?」

「そ、そうかね。ブランドン家だ。くれぐれも宜しく頼むぞ」


 そういうとブランドン家の男性と男の子は足早に教会を出て行った。すれ違う時にアレックスさんがライアスという男の子に見えるように毒入り菓子をチラチラさせていて、男の子はアレックスさんの手元を見てぎょっとしていた。ケンと二人でくすりと笑ってしまった。私たちの後ろにいた孤児の子たちはきょとんとしていたけれど。


「神父様、驚かせてごめんなさい。私たちは体調の悪い子を治しにきただけなんです。この後ろの子たちが神父様に謝らないといけない事があるみたいなので、たっぷりと叱ってあげてください」


 私が神父様にそういうと、子供たちからえーっという非難するような声があがった。痛い目にあったのに反省してなかったのかな。思いきり叱られておいで。



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