9話 踏み出さないと変わらない
総合pv300突破ありがとうございます!
例によって例のごとく、嬉しかったので2話投稿…
と言いたいのですが、まだ書いてないので、4時半から5時くらいに来てくれると上がってると思います。
「…絶対に、つぶしてやる。」
怒りに任せた師匠は、何やら画面を操作すると、唐突にその姿が青い燐光となって消える。
「クエストワープ!?」
唐突に起こったその事態に、私は着いて行けずに慌てるが、それを説明できる師匠はもう居ない。
…だが…。
「まぁ、人のクエストに押し入るのも野暮だよね。…うん。」
「…マスター?行かないのですか?」
「こういう時は、動かない方がいい事もあるんだよ。私はそれで失敗してるし。」
アサギリは、呆れた顔をした後、こちらに語りかける。
「彼女、感情に任せて向かっていました。あの状態なら人質が危ないかも知れませんよ。」
「でも私は…」
「でも、じゃありません!マスター!アスタさんと仲直りしたいのでしょう?ならば今動くべきです!踏み出さなければ何も変わりませんよ?」
アサギリ…そう、だよね。踏み出さないと何も変わらない、本当は、ずっと前から分かっていたんだ、そんなこと。
「…さっきの人たち、確か、プレイヤー『には』まだ話が回ってきていないって話だったよね。」
一転、柔らかな表情で、アサギリがこちらを見る。
「マスター、ようやく踏み出す気になりましたか?」
…。
「いやー、フレンド登録を忘れてたからね。折角だから今日のうちにやっとかないとね!」
「…今度は逃げるのは無しですよ、マスター?」
…分かってるよ、今度こそは。
さて、プレイヤーにはまだ降りてきていないと言う話だが、裏を返せばNPCの間では話が出回っているという事だ。ただ、街中で伝わる話では信憑性にかけるだろうことも事実。本来なら地道な裏取りが必要だろうが、
幸いにして今回は、確かな情報源に当てがある。
「それで、その当てというのは?」
「ふふん、アレもミスから生まれた光明だけど、忘れた?アサギリ。私たちはけっこう長く待たされたでしょ?」
「…ああ、門番の人たちですか!確かに、彼等は街の直属。情報にも期待できるかもしれませんね。」
「猶予は分からないけど、多分時間はない。急ぐよ。」
門へと付くと、そこには兵士たちが続々と集まってきており、まるで戦争でも始まるかのような様相を呈していた。
実際、彼等はプレイヤーとは違い、他人事ではない。故に攻勢を何時でも仕掛けられるようにしているのだろう。
「…嬢ちゃんか?今日は危ないからはやく戻った方がいい。人攫いが出たんだ。」
「こんばんは、門番さん。…行方不明事件の事ですか?」
「なんだ、知ってたのか。まぁ、そういうことだよ。ただ、未だに場所が分からねえ。怪しい所は幾つかあるが、この数を動かす以上、逃げられる前に仕掛けられる場所は1つだ。」
ともあれ、情報が足りない、と彼は嘆く。
どこか焦っているような印象だ。
だが、こちらもついさっき知ったばかりだが、おそらく彼らの知らない情報を持っている。
「『教団』。この言葉に関連しそうなことはある?」
「教団?宗教系か。そう言えば、川の上流の方の廃教会で、何か怪しい儀式をやってる連中がいたなんて話を聞いたが、それか?」
ビンゴ。おそらくそれだね。
「ありがとう!」
「あっ!おい待て嬢ちゃん!あぶねえぞ!」
後ろで、彼は引き留めようとしてくれているが、時間がない。
勢いで門を駆け出す。
「マスター!土地勘がないでしょう!せめて聞いてから動くべきでは!?」
「地図は止められた時に見たでしょ!川なんかの特徴的な場所はあの時覚えてる!急ごう!」
一瞬しか見れなかったが、それでも川は線として描かれるため特徴的だ。これが、○○山の麓とかなら怪しかった。
「流石と言うかなんというべきか、マスター、抜け目ないですね…。」
見えた。平野に一つだけぽつんと経つ教会。恐らくあれだろうね。
「見張りはいないか。まぁ、こんな視界の開けた、何も無いところで誰か立ってたらかえって目立つし、当然かもね。」
「どうしますか?マスター。」
「多分、師匠なら敵の殲滅は容易いと思う。安綱さんは生産トップクラスらしいし、頻繁に会っているんなら師匠もそれに相当するクラスだろうしね。」
「つまりは、私たちがすべきは戦闘のみで解決するようにする。露払いと言った所でしょうか?」
「その通り、要は…。」
人質の救出だ。
「作戦は単純。私が囮になって、アサギリがあの子を助ける。シンプルでしょ?」
窓から除きつつ、救出の算段を立てる。
「…それで大丈夫なのですか?何よりマスター本人が危険ですよ、逆の方が…」
「大丈夫、この程度なら私は負けないよ。…まぁ助けた後にでも援護に来てくれれば嬉しいかな。」
教会内の人数は、人質の少女を除けば、凡そ10人ほど。現実では同時に相手どれるのは3人程度が限界とは聞くが、幸いにしてここは英雄にだってなれるVRゲームの中だ。
数が問題ではないとなると、重要なのは注目を集める事だが、…おや?ちょうどいい所に、丹精込めて作りあげたであろう魔法陣があるね?
さぁ、始めようか。
――――――
彼等は、持ち寄った香木や、その他無数の品を魔法陣の中に置く。
ようやくこの時が来たのだ。
逸る手を抑えつつ、儀式の準備を整えながら、彼等は今までに思いを馳せる。
神はいるのだ。今現在において主流とされる教会は、なにか不都合があるのか、徹底的に神の存在について抹消している。
それが長く続きすぎたが故に、民衆は神を忘れ、思い出すこともない。
だからこそ、この儀式を行い、神を呼ぶのだ。数人程度の犠牲、その為なら軽いものだろう。
そうして、最後の、生贄の儀式の前に一息着くように、手間をかけて描いた魔法陣を見やる。
「…やぁ、オシャレな部屋だね。そうだね。飾り付けは君らの撃破エフェクトなんかどうだい?」
踏み消していた。
彼等が長くの時間をかけたそれを、あろう事か上に乗って踏み消していたものが居たのだ。
「ふざけるなよ!それは我らの努力の結晶だ!よくもやってくれたな!殺せ!」
侵入者の纏う黒のドレスが、まるで死神の服が如く翻る。
「へぇ。やれると思っているのなら、大層なお笑い草だね。いいよ、かかってきなよ。」