8話 やさぐれてる、この人
終わり際が中途半端だったのでもう1話投稿しますね。
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「だからよ!なんでわかんねぇんだ!?浪漫武器って注文だったらやっぱドリルだろうが!」
「いいや、違うね!やっぱりパイルバンカーだろ!ドリルなんてヒット判定がちまちま続くだけで一撃ドーン!って浪漫はねぇだろうがよ!」
「ばっか!あの連撃が浪漫なんだろうがよ!多段の浪漫が分からねえのか!?」
お互い1歩も譲らず意見をぶつけ合う生産プレイヤー達の横を抜け、廊下に抜ける。
階段を降り、下へと向かって行くと、段々と喧騒が遠くなってくる。
と、着いたらしい。
「…おや、安綱さん。お客さんっすか?」
先程の一切こちらに気付くこと無く議論に白熱していた生産部屋とは違い、座っていた少年は直ぐにこちらに気づく。
「おや、すみませんお客さん。ボクは、ドルオタと申します。よろしくっすね。」
おそろしくわかりやすい名前だ。きっと彼が人形に関する生産プレイヤーなのだろう。
「いやあ、基本暇なもんでして、ゲームの中なのにする事がなくて暇だったところっすよ。…ところで、用件は?受付のやつが生産熱が付いちまったから、ボクが代わりにっていう何時ものパターンのほうっすか?」
…やさぐれてる、この人。
薄々気づいては居たが、どうやら人形はとても人気がない類らしい。
分かりやすく言うなら、この部屋には彼1人しかいないのだ。ものづくりの基本として、供給が少ないのなら需要も少ない、必然である。
そして彼は、流れで入ってきた面子を眺め、アサギリで目が止まる。
「へ…人形?まじっすか!?まさかあの人以外からの依頼が入るとは思わなかったっすよ!」
先程のダウナーな様子とは打って変わって、狂喜乱舞といった振る舞いを見せるドルオタさん。
暇というのは余程だったらしいね。
「依頼は耐久の修理と、装備の新調って事でおっけーっすね?久々の新規だ、腕がなるってもんすよ!」
「そうだね。依頼したいのはアサギリの修理と装備の新調。…なんだけどさ、実は始めたばかりで、お金、今初期金額なんだよね。いくらかかるかだけ聞いてもいいかな?」
「あぁ、お代は最初の1回はいいっすよ。装備も最初はタダっす。他の武器と違ってお得でしょう?」
「そりゃあ、タダならありがたいけどさ、でもなんで?」
「人形って武器種は続かないもんでしてね。せめてアレが改善されればいいんすけど、それも望めないっすからねぇ。」
そうして彼は、パン、と手を打ち、話を終わりにする。
「さて、早速やっちまいましょう。取り敢えず耐久の回復っすけど、…はい、終わったっすよ。」
彼が何やらアイテムを翳すと、なんともあっさりとアサギリの耐久が戻ってゆく。
「ありがとうございます。ドルオタさん。」
「どういたしまして。…戦闘の度にいちいちここに来るのは明らかに効率悪いっすからね。耐久値の回復については昔、合同でそれ用のアイテムを作っといたんすよ。」
何やら橙色の燐光を放つ宝石のようなアイテムだが、これが耐久値回復用のアイテムらしい。
1度使っても時間経過で再び使えるようになる。優れもの。ポーションの互換品といった塩梅だ。
「これは取り敢えず、試す人がいなかったんで試作品として10個ほど渡しておくっすね。で、次に装備っすけど…」
そうして取り出したのは、明らかに豪奢な、ゲーム的に言うのならレアリティが高そうな装備だった。
「取り敢えずこれを貸しとくんで。次にうちに来て、それでもまだ君が人形使いなら、買ってくれるとありがたいっす」
なんというか期待が重いが、さりとて、続けるのは簡単だろう。ゲームで同じジョブを続けるコツは惰性でだらだらとやることである。
そもそもお金も無いので有難く善意にあやかるとした。
…これが借金のプレッシャーってやつかな?
益体もないことを考えつつ、幸いにして、最高の形で用が済んだので誘饗塔を後にしようとする。
…が、出店のエリアで私は足を止めることとなる。
「毛糸玉?お客さん、マフラーでもつくるの?」
「いやー、私、糸スキル持ちだからさ。安かったから取り敢えず買ってみようと思ってね」
「…毛糸じゃ、多分ダメージにはならないと思うよ?」
「一応お試しってことで。取り敢えず1個と、あと他に糸ってある?」
「毎度ありっと。…裁縫用の糸ならあるけど、多分その目的なら、うちの3つ隣の出店で細いワイヤー売ってたと思うから、そっちを買った方がいいと思うよ?」
「おぉ、ありがとう!今度、服が欲しくなったらあなたの所に行くね。」
「どういたしまして。その時はよろしくね?」
縁も含めていい買い物だったなあ。
忘れに忘れていたフレンド機能の、その栄えある第1番として先程の服飾の人、六花さんを登録し、今度こそ塔を抜ける。
「私にも、あんな感じのノリでいいんだよ?」
師匠が話しかけてくる。
「いや、でも師匠は師匠ですからね。」
即断即決で逃げを打った私に、アサギリが冷たい視線を向ける。
いや、だって、流石に心の準備が…。
「…聞いたか?今日、NPCが行方不明になったらしい。1人、女の子が攫われたって、馴染みの冒険者が言ってたぜ?」
「クエストフラグか?それ」
「さぁな。まだ、せいぜいが周辺に『神は居る』って書いてあるだけで、情報が足りないらしいから、プレイヤー側に回ってくるのはもうちょい先だろうよ。」
前から通りかかった2人組のプレイヤーの話が聞こえてくる。何事だろうか?
確かにゲーム的に言えばクエストフラグかもね、と師匠への話題にしようと振り向いた私が見たのは。
「…ようやく来たのか『教団』共。待ちくたびれたよ。…今度こそ、絶対に、完膚なきまでに。全員つぶしてやる。」
今まで1度も見たことがない、壮絶な怒りに顔を歪ませる師匠の顔だった。