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6話 まだ師匠と呼んでくれるんだね

ブックマーク登録ありがとうございます!

初ブクマが嬉しかったので、本日は2話投稿となります!

「これがチェックポイント?今作は色々変わってるなあ」


そう呟くは私である。しかし、チェックポイントにあったのが噴水や石像のようなものでは無く、何も乗っていない台座となると、流石にこのような感想も漏れでるというものだろう。


「まぁ、取り敢えずいいか。登録っと」


前回の水晶と同じで、触るだけで反応してくれる便利仕様。工程はほぼ同じだが、間に人が挟まらないと、とてもスムーズに進むものだ。ほら、きっかり5秒で開放完了。


「これは、教会の偶像ですね。確か、最初は、初代教皇の像を建てる予定が、教皇が辞退したことでそのまま台座だけが残ったといった、変わったルーツのものだったかと」


「…記憶ないんじゃなかったっけ?」


「記憶とデータは別物ですよ?マスター。そもそも人も、物事に関する記憶が抜け落ちたりするではありませんか。私の場合はそれがより明瞭なだけです。」


相方はちょっと不貞腐れているが、こちらとしては寧ろ、情報が得られるのは頼りになる。

が、まだ頼りにならない点がひとつある。そう、彼女の耐久値は未だ30のまま。

用事は済んだ、そろそろ修理といこう。



…と、思ったのだが。


「…どうしようねー?修理出来る腕がある人が見つからないとは思わなかったよ。」


「…ご迷惑をお掛けします、マスター。」


先の拗ねた顔から一転、心苦しそうな顔をするアサギリ。


…仕方がない。さっきから視界にチラつく釣り針に乗ってみようか。


「さっきからついてきてる人、いい加減出てきたらどうかな?」


恐らくわざとだろう、露骨に足音なんかを響かせながらついてきていた、物陰に潜む誰かに声をかける。


「すみません。話しかけ方が分からなかったものでして」


物陰から出て来ながら此方に質問をひとつ。


「―――ミクジ、という名前に聞き覚えはありますか?」


全身の毛が逆立つ錯覚を覚える。知り合いと考える事も出来るかもしれない。だが、前作で使っていたキャラは()()()()()()()()()()、特定できる要素なんてそうそう無い!何からバレた!?


「…ありゃ、やっぱりミクジちゃんっぽい?構え方がいつぞとそっくりだったし、もしやとは思ってたけど、やっぱりそっか。お久しぶり、元気そうかな?」


前言撤回、全然知ってる顔だった。いや、やっぱ顔は知らないけれどね。速攻で口調を崩して迫る彼女は、間違いなく師匠だ。


「…というか、いい加減離れろし!」


「ごふっ!?」


もみくちゃにされていた所を蹴り飛ばしつつ、先程とは違う意味で警戒する。何事だというのだこの人、前はこんなキャラじゃなかったのに。


「いやー、こんな神秘系アルビノ美少女が知り合いだったら間違いなく触るよねー。知り合いが故になんか許されそうだし」


駄目だこの人、運営(GM)呼ばなきゃ。いや、そうではなく。


「というか、理由はそれですか?師匠。あと、うちのアサギリがあまりの展開にフリーズ気味なんで慰謝料貰います。」


「それはごめんなさい。あと要件は触りたかったのもあるけど、どっちかと言えばその、アサギリちゃん?のほうかな。」


先程は大人しく解決策を待ったが、ことこの人の持ってくる案は大概信用したくはないところではある。あるが…。


「仕方ないですね。アサギリのことで手詰まりだったのは事実ですし」


彼女は満面の笑みでひとつ頷くと、身振りで着いてこいと示して歩き出す。




「しっかしー、世界の頂点に君臨して、まだ師匠と呼んでくれるんだね?私がやった事なんて、せいぜい操作方法を教えたくらいなのに。」


歩く間の暇を持て余し、彼女が声をかけてくる。


「ぜんぶ運勝ちですけどね?…それでも、あの時は色々助かりましたし。私、基本的にはUIに慣れるまでだいたいポンコツですからね。」


「あはは。そうだね、確かに最初見た時は酷かったよね。まさか、最初のキャラ選択で詰みかける人なんて初めてだったよ。まぁ、1番怪しかったのはどっちかと言えば寧ろ言葉遣いの方だけどねー。」


私の、割りと黒歴史を思い出し、大笑いする師匠に、予想外の方向から爆弾投下。


「…マスターは、私と出会った時もスキルの使い方が分からないと大慌てでしたよ?」


相棒(アサギリ)、この人に餌を与えないでくれ。被害に会うのは私だというのに。


「そっかぁー。やっぱり、あのポンコツっぷりは月日が経っただけで直るとは思わなかったけど、全く変わらないとは流石だね。」


そしてアサギリの方を見やると、優しげに声をかける。


「よろしくね。その子、色々とやらかす所はあるけど、根はいい子だからさ。…きっと、ここでは君が一番の仲間になるだろうからね。」




「にしても、もっと長く一緒に遊べてたらよかったんだけどねー。そしたら、私も師匠って呼ばれてもむず痒くなかったかも。」


その言葉を最後に、歩んでいた足が止まる。日も暮れかけ、夕暮れの中に、文化圏が明らかに異なるランタンや提灯なんかで乱雑にライトアップされた建物が現れる。


「残念ながら、今回も解決をもたらすのは私じゃあない。…ようこそ、変態生産系プレイヤーの溜まり場、通称、誘饗塔(ゆうきょうとう)へ。」


そんなふうにおどけて話す、彼女のその笑顔は、私の目にはどこか寂しそうに映った。

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