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5話 誰がちいさいって?

あの狼、仲間を呼ぶコマンドなんて持ってる時点で薄々察してはいたが、どうやら最初の平原には居ない類らしく。

最初の時の苦戦とは裏腹に、可愛らしい感じ(弱めな感じ)のウサギやニワトリなんかを軽くあしらいつつ街へと向かう。

その過程には語るような出来事はないが、さりとて私達には語るべき事が存在する。


「へい相棒(アサギリ)。この街ってさ、どうやって入るのか分かる…?」


「…いえ。…まさか、マスターも分からないのですか?」


当たり前だが、方やチュートリアルを全スキップした馬鹿(わたし)。方や、ついさっきまで寝ていた人形(アサギリ)

そう、街への入り方が分からない。


前の方に列が見えるが、プレイヤーらしき装備の人はいないし、見かけるのは商人なんかの人達だけだ。

その辺の人に聞くにしても、街にどうやって入るの?と門の前で聞くのは流石に不審者まっしぐらだろう。

…なれど、聞くしかないのも事実。

ええい、仕方ないと声をかけようとしたその時、眼前にあった列が消える。


「ちょっ…!」


おそらく、ゲーム的に、NPCの列に並んで待たされることを望まないだろうという配慮だろうが、まさか、運営もそれで困る者が現れるとは思わなかっただろう。


意図せずして先頭に立たされた私は、狼に襲われた時以上に頭を回す。


「ようこそ、エインヘリアルへ。許可証は持ってるかい?」


…が、所詮私はゲーム脳。ここを解決する方法は浮かばなかった。

―――もういいや。もし入れなかったら、運営に苦情を入れた後、世捨て人ロールでもして遊ぼう。

おそらくこれも自分のせいな気はするがそれは一旦棚に上げるとして、開き直ることにする。


「門番さん、街ってどうやって入るの?」


…。


「どうしたんだい?許可証を無くしたのかな?」


にこにことしているが、門番の人の纏う雰囲気は、子供を叱る前のそれだ。端的に言えば、圧がすごい。


「…えっと、プレイヤー…なん、ですけど…。」


「…プレイヤー?あぁ、開拓者さんがたの事か。彼等なら、向こうの門から出入りしてるよ。列に並ばなくて済むってもんで、よく商人連中は使わせろ、ってごねてるがね?…それで、なにか開拓者さんに用事でもあったのかい?」


見やると、小さめの門が1つ。あちらは、プレイヤーらしき人達が数人ほど通っているくらいで、なんというか目立たない感じだ。

と、いうより、今気づいた。


「…あぁ!向こうの門か!私プレイヤーなんだ、あっちから入れば良いんだね?ありがと!」


言うが早いか駆けていこうとした私に、なれど門番さんから待ったの声。


「嬢ちゃん、嘘はダメだぞ?こんな小さいのに、開拓者なんて務まるとは思えんよ。どこの子だい?ほら、地図だよ。どの辺から来たか教えてごらん?」


…このゲーム、実は低評価めっちゃついてたりしない?なんというか、今のところ為すこと全てが噛み合わないんだけど。

キャラストーリーは記憶喪失で何すればいいのか分からないし、最初の敵にはいきなり詰みかけるし。

なお、どちらかと言えば小さいと言われたことに腹を立てつつ。

しかれど、解決方法が分からないのでどうすることも出来ない。

…まさか、プレイヤーかどうか疑われるとは思わなかった。


が、そこはゲームらしく、解決方法は向こうの方からやってきた。


「おい、いつまでやってる。そもそも、開拓者なのかどうかなら向こうの門から道具を借りて来ればいいだろうに。」


後ろから出てきたのは、片手に開いた地図を持った、なかなかの大男であった。体格も踏まえると、たぶん熊の同類だろう。


「列が詰まってるだろう。あまりに遅いから、作業をやめて出張って来たところだ。」


そんな事を考えているタイミングでこちらを向かれたものだから、割りと本当に焦った。


「悪いね。もうちょっとで済むからね。もうちょっとだけ待ってくれないかい?」


同じ言葉を繰り返すのは、幼子をあやす時。直接言われるより刺さる口調に追撃ダメージを貰いつつ、甘んじて待つこととする。ゲーム内の手続きの方が時間かかっている気がするのは、果たして気のせいなのだろうか。


「ほら、持ってきたよ。この水晶の上に手を置いてくれるかな?」


言われた通りに触れると、何やら文字が空中に浮かび上がってくる。

…とても幻想的ではあるが、またしてもゲーム的配慮なのか、浮かび上がる文字が日本語という光景が非常にシュールだ。


「…本当に開拓者だったのか。済まないな、時間を取らせた。今回は特別にこっちのを通っていいからね」


「こいつにもサラって名前の子供がいてな、あんたくらいの子だと構いたくて仕方なくなるんだよ。」


そんな謝罪と弁解を聞き流しつつ、漸く街へと入る。




「まさか、あの小さいほう、もしかして…」


―――歩む2人、その背中を見つめていた視線は、しかし気付かれることなく街の活気に溶け消えていった。

次からはようやく他のプレイヤーが出てくる…はずです。

ダメだ私には制御出来ない、なんだこやつらは。

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