2話 在るべきままを受け入れよ
GD社長︰コンセプトとしては、「ロールプレイなのにキャラクター被ってると萎えない?」という、ゲーム上どうしても今までは解決出来なかったことに当たりますね。
記者︰あー、確かに、ロールプレイ勢の友人も面白いけどロールプレイが崩れやすいって嘆いてましたね。そこが今作の売りになる訳ですか?
GD社長︰そうですね。前作はそれを数と質を高めて擬似的に再現しようとした訳です。まぁ、実際の所は、所謂妥協の結果ですけれどもね。
記者︰と、言いますと?
GD社長︰単純な話です。ロールプレイがそれほどウケるとは思えなかったんですね。
記者︰まぁ、少数派なのはそうかもしれませんね。オンラインゲームの主流も当時はストーリーこそあったものの、リアル仲間と遊ぶ爽快感重視っ、といった形のものばかりでしたし。
でも、とすると、何故今回はロールプレイ主軸のゲームにしたので?
GD社長︰これまた単純な話です。その「ロールプレイ勢」に魅せられたからですよ。
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ログインの間にある、接続確認の時間中、これで3回目となるこのゲームのインタビュー記事を流しみる。
会社名はGD社となかなかに捻りのない名前だが、ゲームそのものは今作も例に漏れず、捻くれていると評価される。
今作の特徴、インタビューでは勿体ぶって居たが簡単に纏めると、要は『自分専用のストーリーのついたオンラインゲーム、なお選択次第で分岐する』となる。逸る気持ちを抑えられずに覗いてしまった掲示板によれば、報酬まで逐一違うらしい。
つまり、このゲームにおけるロールプレイ要素とは、各々のストーリー分岐に関わる重大な要素である。…By掲示板。
プレイヤーが気にするべき事は、最初にランダムで与えられたストーリーをどう捌くか、言葉にすれば単純である。
意気揚々とログインした私を迎えるのは、当然ではあるが、キャラメイクだ。
リアルの顔をそのままスキャンし、ちょっと弄ってそのまま使用する。
基本そんなに顔をいじれなくなったのは、ネットゲーム内の顔が違うことを利用した詐欺が横行した黎明期からの戒めらしい。まぁ、私みたいな引きこもりにはあんまり関係ないけど、楽しみは少し減ったのかもしれない。
「まぁ、リアル過ぎるが故の弊害ってやつだよね」
キャラメイク部屋特有、静か過ぎる部屋に耐えきれず、独り言を零しながら作業を続ける。
身長…。ここは弄れるけど、なかなかに慣れるまでに時間がかかる。常に椅子の上に立っているような気分?そんな感じの違和感に苛まれる。在るべきままを受け入れよ、これが私の辿り着いたVRゲームの基本だ。
『得意武器を決めてください』
来た。何の気なしに適当に選びそうになるこの武器選択だが、実際の所は最も重要な選択項目だ。ストーリーは得意武器によっても派生することがある。が、オンラインゲーム特有のバランス調整なのか、発生する数は一定らしい。つまり、後から武器を変えると、その分今までのストーリー報酬が腐りかねない危険性があるのだ。
ただ、今回の武器は決定済みである。
『糸』。名前だけなら貧弱な感じもするが、結構ざっくりした武器設定によりロープなんかでも行けるらしい。羽は後半のストーリーで生やせた人もいるらしいが、それに辿り着く乱数は今のメンタルと過去の実績双方により信じきれないので、高低差の移動を考えてこれが最善……だと、思う。
『名前を決めてください』
名前…名前かぁ。
前作では「ミクジ」だったっけ、と過去を想起する。色々あった過去の記憶がキャラネームと共に去来するが、今を生きる私は取り敢えずスルーすることにしよう。
「まぁ、過去は過去、また不運にも見舞われそうだし、今度はこっちで行こう」
ツクモ。
それが、このゲームの世界を駆ける、今回の相棒の名前だった。
宜しくね、と心の中で挨拶しつつ、メイキングを終了。ゲームのチュートリアルがこの後に続くが、スキップする。
前作の一位だからね。必要ないでしょ。
…なお、本当の理由は、チュートリアルのドロップ品集めで詰んだことがあるからである。例の99%とはこれのことだ。
最後に流れる、魔物が世界に蔓延り始めた、的なよくある感じの導入ムービーを、そわそわしながら眺めつつ始まりを待つ。
流石に己の逸りを自覚するが、ゲームのキャラは、生き急いでこそのロールプレイ(自論)。
準備は終えた。長かったがここから私の冒険が始まる―――!
次から、本格的にゲームに入ります。
他の人も出てくる予定ですが、もう少々お待ちあれ。