君と俺とは同居美少女~元の身体に戻りたい~
17歳の可波元優作は
学校へ行く途中、スクールバスの事故に巻き込まれる。
目が覚めると
自分の身体は全く別人になっていた。
それは学校で有名な美少女、時田優魚の身体だった。
驚愕する優作。
揺れる優魚のおっぱい。
優作の身体は眠ったままだ。
恋人ではと思っていた幼馴染はSNSで陶酔優作追悼ポエムを呟き、恋人ができた宣言をする。
衝撃の展開に打ちのめされる優作(優魚)の手を握ってくれたのは
優魚の従姉妹の美少女・時田泉だ。
そして優魚は幽霊になって優作の前に現れる!
2人きりで同居し支え合って生きてきた優魚と泉。
そこに入り込んだ優作。
優作と泉の同居生活は、身体は女の子同士なのに
なんだかドキドキ。
優作は、優魚は身体に戻れるのか?
優作と、泉の恋の行方は?
不思議魂転移ラブストーリー!
「おはよう~優作」
「はよ」
寒い秋空。高校のスクールバスの停留所。
前の方に並んでいる俺に、幼馴染の未唯がツインテールを揺らして声をかけてくる。
「ちゃんと後ろに並べよ」
「えぇ~いいじゃん~……」
「早く来ないから悪い、並べ」
「はーい」
保育園から一緒の未唯は、甘え癖というか俺にすぐ頼ってくる。
同級生なのに妹のような存在だ。
仕方なく俺は座ってから、混み合っている車内に入ってきた未唯に席を譲った。
「わ~い! 優作だぁい好き!」
「あ、あぁ……」
急な『大好き』攻撃に、俺はつい赤面してしまう。
高校生になったら距離が離れるかな、と思っていたら一層距離が縮まった感じだ。
お互いにハッキリと告白や交際宣言してはいないけど、これって恋人同士なんだろうか。
「いたい」
「あ、すみません」
結構ガタイはいい俺が立ち上がったせいで
スペースが狭くなり、後ろの女の子が不愉快そうに声をあげる。
背が高く長い綺麗な髪。
切れ長だが長いまつ毛がピンと上を向き、瞳は輝く。
謝った俺に、何も言わない形の整った唇。
時田優魚だ。
同じ学校なら誰でも知っている有名美少女。
俺と同じ2年生だが、話した事はない。
雰囲気がクールなんだよな。
「こ、こっちこそ、ごめんなさい」
時田さんの後ろで謝る小さな声が聞こえた。
でも、完全に時田さんの影に隠れて姿は見えなかった。
俺は袖を引っ張られ、未唯を見る。
「ねぇ優作、今日の課題でさ~
4組同じの出てるんでしょ? お願い教えてよ~」
「仕方ないなぁ……」
「やったー!」
えへへと笑う未唯を見つめていたら
大きな衝撃とともに俺の身体は飛び上がった。
座っていた未唯の身体も浮かぶ。
回る、回る世界。
悲鳴、悲鳴。
俺は必死で未唯を抱きしめ守った。
頭をぶつけて痛かった。
……真っ暗で、何もわからない……。
◇◇◇
夢だったのか……。
うっすらと目を開けた俺には天井が見える。
言わないぞ、あのセリフは……。
頭が痛い。
ベッドの脇にピッピッピッと機械がある……。
あぁ……病院か。
夢ではないんだ。
スクールバスが事故にあったんだろう。
未唯……!!
俺は大切な幼馴染を思い出し、一気に起き上がった!
ぶるん!
と、感じた事のない感覚と重みが俺の胸元にある。
え?
そして、ぷらんと下がる三編みのお下げ。
「うわぁ!?」
俺は自分の胸元を見ると、確かにおっぱいがそこにあった。
「うわぁ!? 何だこの声!?」
そして、声も可愛らしい、女の声だ。
「え!? なに!? 俺、どうした……!?」
「ゆうなちゃん!!」
身体に衝撃が!
パニックになっている俺を誰かが抱きしめた。
ふわっと柔らかい身体。
女の子!?
女の子に抱きしめられた事は初めてだった。
や、柔らかい!
おっぱいが!!
「ゆうなちゃん、ゆうな……よかった……よかった……」
女の子は、泣いている。
肩を震わせて、俺を抱きしめて泣いている。
でも、俺は……。
「俺は、ゆうなじゃないよ」
「……え?」
「俺は、優作。可波元優作だよ」
「優魚ちゃん……?」
女の子がそっと、俺から離れて俺の顔を覗き込む。
うわ、可愛い女の子。
肩までの茶色い髪は、ふわふわとカールしている。
泣いた瞳は、ぱっちりとまつ毛も長い。
唇はさくらんぼみたいでお人形さんみたいだ。
あれ……この子は。
「……時田泉さん……?」
時田優魚と並ぶ美少女だ。
2人はイトコだと聞いた事がある。
「……優魚ちゃん……お医者様呼ぶね」
「待って!! 鏡はある? 俺は一体どうなってるんだ……」
見渡すと、個室の病室だ。
「か、鏡……」
泉さんは、慌てて自分のバッグから可愛らしい小さな鏡を取り出して
俺に渡してくれた。
「ありがとう」
あぁ……まさか、この声。
……この長い髪。
まさか……。
鏡の中にいたのは、時田優魚だった。
一瞬で血の気が引いて、俺はベッドにまたひっくり返った。
心臓が激しく動く。
「……なんだこれは、どういう事だ……」
「優魚ちゃん、しっかり! お医者様呼ぶから」
ベッド脇のナースコールが押され、看護師とのやりとりが耳に入ってくる。
「俺は!
可波元優作は!? どうなってる!?」
「か、可波元君は……」
まさか俺の身体は死んだのか!!
「可波元君は、優魚ちゃんと同じように眠ったまま……目を覚まさないの……」
「ほかは!? 未唯は! 山崎未唯は!」
「優魚ちゃんと、可波元君だけ……他は誰も怪我もなくて」
「あの大事故で!?」
「あの時の浮遊感とか事故に合ったような衝撃はみんなが体験した事だけど
バスは何にもぶつかってもいなくて……調査中なの」
「なんだって……」
「直後に意識がなくなった優魚ちゃんと可波元君が運ばれて……3日目なんだよ……」
「可波元優作の部屋はどこだ!!」
「む、向かい側の……」
すぐに俺はベッドから飛び降りた。
わ! 細い足だ。
寝込んでいたからか、うまく歩けない……!
「優魚ちゃん! 安静にしなきゃ!」
「俺の身体を確認しないと……!」
ぶるん、ぶるん、と胸が動く感触がわかる。
でも今はそんな事より、俺の身体……!!
俺の身体には、まさか時田優魚の意識が……!?
廊下に飛び出し、向かいの個室のドアを勢いよく開ける!
「ひゃっ!!」
驚いて俺を見たのは、俺の母さんだ。
「な、君は」
驚いて立ち上がったのは、俺の兄貴だ。
構わず俺は、部屋に入りカーテンを勢いよく開ける。
「優魚ちゃん!!」
泉さんも俺の後ろから追ってきた。
「……寝てる……」
俺は、俺の身体はベッドの上でキレイな顔で寝ていた。
寝たままだ!
俺の身体には、優魚の心は入っていない……!?
「君は、優作と一緒に意識不明になった……」
「す、すみません。今、目が覚めて混乱してるんです
優魚ちゃん、優魚ちゃん! 失礼だから」
「そうだったの……意識が戻ってよかった……優作も戻ってくれないかしら……」
そう言うと、母さんがハンカチで涙を拭う。
「母さん……」
たった3日で、随分痩せたように見える。
混乱する頭の中でも、俺は大変な心配をかけている事がわかった。
目が熱くなって涙が込み上げてくる。
母さん、俺、何が起きたかわかんないんだよ。
「母さん……俺……」
「時田さーん! はい、戻りましょう!」
看護師さん達が一気に入ってきて、俺はあっという間に両腕をがっちり掴まれる。
「あ、また、優作に会いに来てやって! 声かけてあげてください
あなたもお大事にね」
「かあさ……」
「すみませんでした、また伺います。さぁ優魚ちゃん」
車椅子にそのまま乗せられ、俺は部屋に戻された。
ふらりとした母さんを兄貴が支えたのが見えた。
うちには父さんがいない。
母さん、兄貴、ごめん……。
部屋に戻され医者が来て、色々な検査をされる事になる。
看護師のいない合間に、俺の傍にずっといてくれる泉さんに訴えなければ。
ずっと、信じてもらえずに優魚だと思われていたら元に戻る方法を考えてもらえない!
「泉さん、俺は可波元優作なんだよ」
「……優魚ちゃん」
「信じてくれ」
「優魚ちゃんは混乱してるんだよ」
ダメだ。ぬかに釘。豆腐にかすがい。のれんに腕押しだ!
「じゃあ、俺が可波元優作って事を証明するよ
まず俺の誕生日は12月24日、クリスマス・イブだ」
「う、うん……」
「血液型はA型」
「うん……」
「好きな食べ物は、ナポリタン」
「うん……知ってる……」
「これは、俺のSNSを見れば……え? 知ってる?」
「優魚ちゃんは、混乱してるんだよ……
私が、いつも可波元君の話ばっかりしちゃってたから……」
「え? 俺の……話?」
泉さんの頬がピンクに染まっていく。
「だ、だから、私が可波元君の事ずっと好きで話を聞かせてたから……」
「え? お、俺の事が……? 好き……?」
「可波元優作君が……うん……」
可愛い子猫のような、泉さんがコクリと頷く。
えぇ!?
泉さんが、俺を!?
俺の心臓は、時田優魚の心臓は、ドクリと音を立て高鳴った。
【おい、このバカ男。泉に手を出すなよ】
不思議な声がした。
脳内に直接響く……?
可愛い泉さんの、ちょうど頭の上を……ぷかぷかと女の子が浮かんでる!?
【聞こえるでしょ? 可波元優作……!】
「……時田優魚……!」
それは紛れもなく、この身体の持ち主の時田優魚だった。