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モブofモブのミサキくん、仮想世界で進化する!

自称モブのミサキは、教室の隅の方で目立たず騒がず、モブらしく日々を過ごしていました。

そう、時々声を掛けてくれる天使……天羽かぐやちゃんを眺めているだけでも、神に感謝するほどに充実した毎日で、モブとしての日々は素晴らしい日々でした。


しかし、そんな日々は唐突に終わりを迎えたのです。

天使が脳筋肉ダルマのゴリマッチョくんとイチャイチャしながら、路地裏に消えていくのを眺めたあの日に。


モブらしいモブとしての屈辱を覚えたミサキは、脱モブ目指して男らしさを手に入れようとVR対戦格闘ゲームをやることに!

……しかし、その身は女の子になってしまうのだった! なぜだ!?


ゲーム内で出会った銀髪エルフ耳美少女に街を案内され、なんやかんやでトーナメント上位を目指すことになってしまい、やめるにやめられない状況が押し寄せる!

モブらしく流されるミサキ!


目指せ、脱モブ! ……あと、できればリア充に!

 まるで格闘ゲームのように繰り広げられる技の数々。

 響く音は甲高く、伝う振動(おと)は重鈍く、瞬きの間に移り変わる優勢劣勢。

 永遠にも思えたその剣戟は、たった一歩の差が勝敗を分けた。


「――じゃあな、()()()()()


 言葉と共に振り下ろされる光に、僕は


□□□


 美咲雄太(みさきゆうた)17歳、ごくごく普通の高校に通う男子高校生。

 見てくれはお世辞にも良いとは言えずモブ顔、運動神経は下から数えた方が早いくらいで、勉強も出来るとは言い難いくらいのド平凡。

 友達がいない訳ではないけれど、薄く浅い付き合いしかなく、「あ、お前いたの?」ってレベルの存在。

 まさにモブofモブという感じの僕だけど、別にそれでも良いと思っていた。


 ――なぜなら、こんな僕にも優しくしてくれる女の子、天羽(あまはね)かぐやちゃんがいたから!


 かぐやちゃんは天使だ。

 10人すれ違えば、20人が振り返る可愛らしい容姿!

 テストの成績は、学年でもトップクラスの高レベル!!

 そして、こんなモブだろうと分け隔てなく接してくれる性格!!!


 推さない理由があるだろうか!?

 いや、無い!

 たとえアイドルでもない同じ学校に通う同い年の女の子であろうとも……天使は天使なのだ!


 つい脳内で熱くなってしまったが、そういう訳で僕はモブであろうともそれなりに幸せな日々を送っていたのだ……。


 そう、送っていたのだ……つい先程までは!


「ねぇ~精児くん~。かぐや、つかれちゃったぁ~」

「おいおい、しょうがねぇなぁ。そう言って、どうせウチに来たいだけだろ?」

「そういうわけじゃないけど、精児くんがそう言うならぁ~」


 僕は見てしまったのだ!

 あの天使、かぐやちゃんが……頭まで筋肉と性欲でまみれてそうな男とイチャイチャしてるところを!

 ちくしょう、僕にその役目変われぇ!


 目が腐りそうなイチャイチャシーンを、情念で目が砕けそうなほどガン見していた僕の前で、かぐやちゃんはゆっくりと路地へと連れ込まれていった……。

 最後に耳に残った音は、「男らしい人って素敵」という、天使……否、天使だった女の子の言葉だけ。


 決して、かぐやちゃんが裏切ったわけじゃない。

 僕が勝手に期待して、勝手に信じて……勝手に失望しているだけ。

 でも怒ってないって言ったら嘘になる。

 だって、あの頭まで筋肉と性欲が詰まってそうな男より下って扱いは……なんかイラッとするから、そこだけは見返してやりたい!


「お、男らしくなってやらぁ! でも、とりあえず、明日から!」


 そんな訳で、僕の新しい日々が始まるのだった。

 明日から。


□□□


 さて、勢いで男らしくなると誓ったものの、そんな簡単には行動を起こせない。

 なぜなら僕は誇り高きモブだから……ではなく、見た目ダメ運動ダメ勉強ダメのトリプルデバフ状態だからだ。

 こんな状態でリアル下克上を企てたところで、ただのモブから脱ヲタ系モブになるだけだ。


 そこで僕は、今巷で噂のVRゲーム『Soulblader』、略して『ソルブレ』をプレイすることに決めた!

 このゲームは従来のVRゲームとは違い、一対一のPvPに特化したゲームシステムとなっていて、昔のゲーム風に言うなれば、対戦格闘ゲームというやつらしい。

 ただ違うのは、キャラをコントローラーで動かすのではなく、実際に自分が戦うのだ。

 あ、もちろん戦うのは仮想世界で、だけども。


「このゲームなら、リアルのモブ臭漂う僕も、男らしさを身に纏うダンディズムイケメンになれる……はず!」


 そうと決まればさっそく開始開始。

 VR機器を被って、ベッドにダイブだ!


□■□


『Soulbladerへようこそ。まずあなたのプレイヤーネームを設定してください』


 ザ・無機質!

 って、思わずつっこんでしまうほどに無機質な機械音声が響き、直後にウィンドウが表示された。

 ご丁寧に“名前を入力してください”って書いてあるのが、その無機質っぷりに拍車をかけてる感じ。


「えーっと、雄太……って、これじゃなんか“ザ・名前”って感じすぎて普通過ぎるよな? んー、ここはダンディズムな感じでマスターとか、ボスとか。いやいや、あえての外人っぽく、ジェームズとかスミスとか」


 いろいろな候補が頭をよぎっては、どれもしっくり来ず……次第にアイデアも貧困に。

 そうして結局、名字をカタカナにしたミサキで登録したのだった。

 名前よりはモブっぽくない、はず。


『では次に、メイン武器の選択を行ってください。汎用武器の他に、一番左に個人武器が表示されます』


 おお、きたきた。

 ソルブレは装備らしい装備がなく、各キャラクターの装備は武器のみ。

 もちろん服や防具はつけられるけど、あくまでも見た目だけであり、その性能に違いは無い……らしい。


 そして武器は、各プレイヤーにつき1つだけ持てて、交換は可能だけど、戦闘中の交換は不可。

 しかし、プレイヤーはスキルと呼ばれる特殊技を5個までセットできるため、同じ武器でも全然違う戦闘スタイルになるとかなんとか。

 スキルは戦闘に勝利したときの勝利ボーナスの他に、サブコンテンツであるオープンワールドPvE……つまりエネミーバトルのレアドロップとしても獲得可能!

 あと、クエスト報酬? ってのもあるらしい。


 そしてこれが大事!

 個人武器、そう個人武器!

 プレイヤーひとりひとりの脳波とかなんかそんな感じのものを分析して作られる、オリジナルの武器ってやつで、同じ形のやつは一つもないらしい。

 ブレードだから刀剣とかのイメージがあるけど、鉄球とか棍棒とかが選ばれることもあるってさ。


「僕の個人武器は……刀? いや……小刀?」


 えっと、系統は小刀で、名前が小烏(こがらす)

 これが、僕の個人武器?


「いやいや無理でしょ。普通の短剣より短いし」


 これだったら汎用武器の方が使いやすそうだけど、個人武器はキャラクリのタイミングでしかゲット出来ないらしいしなぁ……。


「仕方ない……ひとまず個人武器にして、お金が貯まったら汎用武器に変えよう」

『メイン武器は個人武器でよろしいですか?』

「はい、それで」

『かしこまりました。では良い旅を』


 言葉が先か、パカッと地面が無くなったような感覚がはしり……僕は奈落へと落ちていった!

 あれ、外見設定とかしてないよねえええええええええ!?


□■□


 ズシャァァァと滑り落ちるような勢いのまま、僕は"ぽーん"と虚空に放られ、直後べしっと地面に叩きつけられた。

 人の扱いが悪いにもほどがある。

 いくら僕がモブofモブだからって、ダストシュートにダストをシュートするみたいな扱いは酷い、酷すぎる。


「あ、あの……大丈夫ですか?」


 おずおずと差し出された手。

 その手に繋がる腕を追い、視点を這わせていけば……そこには女の子がいた。


 否、美少女がいた!


「銀髪エルフ美少女……」

「え、あ、えっと……? あの、大丈夫ですか?」

「え、あ、はい! 大丈夫です! 問題ないです!!」


 ズビシッと立ち上がり、できうる限り最高の笑顔を顔に貼り付ける。

 大丈夫、モブだから大丈夫!

 インパクトの強い笑顔は出来ない、なぜならモブだから!


「良かった。女の子がいきなり地面に放り出されたから心配しちゃった。酷いよねー、ここのログインっていつもあんな感じだから」

「へ、へーそうなんですねー。女の子だからしんぱ……ん? 女の子?」

「え、う、うん。同性のプレイヤーって珍しいから」


 慌ててステータスをチェックすれば……煌々と輝く初心者マーク!

 そして、その下にあるのは――――ミサキ(女)!


 女になってるー!?


-------------


 名前:ミサキ

 武器:小刀『小烏』

 スキル:なし

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表紙絵
― 新着の感想 ―
[良い点] 本物のモブはそんなにモブモブ言わないぞ!(笑) ノリが軽くてテンポも良く、すらーっと流れるように読めました。さすがモブ主人公! ところどころクスクス笑えて、ノリにノってる作者様の姿が見…
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