俺にだけ遠慮なく我儘を言う女子なんかには魅入られない
誰もが待ち望んでいる授業終了の鐘が鳴りからクラスメイトが次々とドアから出ていった。帰りたい気持ちはあるのだが俺は本日の日直当番であり、先生から頼まれたプリントを机に入れるのと授業終了後の黒板を消さなければいなかった。
隣の席に座っている女子、奏多彩夢と2人で日直の仕事をする。奏多彩夢は細くて明るい茶色の髪をしており毛先は胸よりも上にあり、ぱっちりしたまつ毛は人を寄せ付けるような瞳が特徴づける。小柄なアイドルのような身体付きをしており、男子の魅惑させている。
学年付き合いたい女子ランキングのTOP3に入っており、毎週告白されている。男性陣は彼女には甘いところがあり、本人も男子には甘えているところがある。そのせいか男の俺と一緒に月1~2回ある日直の仕事をするときはいつもさぼり気味な為学校から帰宅するのは遅くなる。
初めのころは奏多が可愛いこともあって、多少さぼっていようが気にしていなかった。だが最近新しいオンラインゲームがはじまったので早く家に帰りたくなった。真面目にやれば10~15分程度で終わる作業が30分もかかってしまうとは由々しき事態だ。今日こそは彩夢に日直の仕事をやるように言ってやろうか。
「悪いけど、日直の仕事やってくれない?このままだと帰るのが遅くなるんだよ」
奏多は万遍な笑顔をこちらにむけた。何だろうかこの笑顔は……。まるで『私、今までちゃんとやってきたじゃないですか~。どうしてそんなことを言うんですか~』と目で訴えかけてくるように見えてくる。
いやいや惑わされるな。俺の記憶は正しいはずだ。いつも日直の仕事をしていたのは俺だ。ここで奏多に負けるな。
「えっ、日直の仕事ですか~?私、今までちゃんと仕事やってたじゃないですか?」
今聞き捨てならない言葉が聞こえてきたな。仕事をやってただって。おいおい、突然何をおかしなことを言いだすんだね。現にきみは何も掃除をしていないではないか。
「何を言っているんだ。何もやってないだろ。椅子の上にだるそうに座りながらこちらをずっと見つめていただけだろ」
つい、つっこんでしまった。だが、間違ったことに対して指摘するのは当然のことだ。机の上にぼーっと座って足をぷらんぷらん動かしているんだぞ。明らかに日直の仕事はしていないだろ。
「いえ、仕事してますよー。あなたがちゃんと仕事をするかどうかこうして見てるんですよ。私って偉いですよね~」
俺を見ているのが仕事!?。いつから主従関係になったんだ。俺はお前の召使じゃないんだ!
「何言ってんの、そんなの仕事のうちに入らねぇんだよ。とっとと手を動かせ」
「あんたがやればいいじゃない。何、私に言いたいことでもあんの?」
お、やんのか。いくら学園TOP3だからと言っても真面目に仕事に取り組まないやつには鉄槌をくださねぇとな。
「もちろんあるが、あいにく俺は忙しいんでな。もう帰るわ。後はやってけよ」
本当は壁に追いつめるか、一発ぶん殴ってやりたいところだったがそれをすると退学になるのでしぶしぶああ言うしかなかった。
奏多がばつの悪そうな表情をしている。案外強く言われることになれていないのだろうか。彼女は困ったようにこちらを見つめていた。
「ちょっと待ちなさいよ・・・・・・。私が悪かったからさ。一緒にやってよ」
謝るということは悪気があったのだろうか。まあ許してやらんこともないか。ここで断っておくとクラスで後々めんどくさい問題とか発生しそうだし。
「しょうがないやつだな。今回だけな。」
奏多はクスッと微笑む。そしてにやっと笑い、まるで勝ち誇ったかのような表情になった。えっ、あれは演技だったの?騙してたっていうのか!
「あんたって、ちょろいわね。謝るとすぐ許してくれるんだ~」
奏多は意地悪そうに俺を見ながらそう呟く。今の言動でこいつの性格の悪さが分かったわ。皆さん、これが周りからチヤホヤされている女の子の本性です。
「俺はちょろくねぇからな。やっぱり、一人でやれ」
「でも、さっき2人でやってあげると言ってくれたよね。あれ嘘だったんだ~。私だけにやらせようとしてるんだ。」
なんだこの性悪な発言は。むかつくけど一緒にやらないと何か後でやってきそうだな。しょうがないやるか。
「うるせえな。一緒にやるから変な事すんなよ」
その後二人でもくもくと日直の仕事をやった。途中彩夢が慣れてないせいか手際が悪かったので手伝うことにした。一人でやらせたら帰るのが遅くなるし、学校で俺の悪い噂が立つかもしれないからだ。
「そういえば、あんたって名前は何ていうの?」
同じクラスだったのに名前すら憶えてもらえてなかったのかよ。そんなに俺モブキャラだったのかよおぉ。隣の席に名前を覚えてもらえないこの悲しみ。今夜の枕は涙で濡れることになるな。
「俺は園原 和明だ。隣の席なんだからちゃんと覚えておけよ。」
「私イケメンとかにしか興味ないんでー。ぶっちゃけ隣のどこにでもいるようなフツメンの男とか覚えられません。まあ、いつまでもあんた呼ばわりするのも気が引けるんで名前覚えますね」
「変な風に呼ぶなよ」
「わかってますって。えーモブ原さんでしたっけ。モブっぽい見た目してるから覚えられません」
楽しそうに覚えられませんとか言ってくるんだが。人の名前を覚える気はあるのだろうか。
「俺はモブ原じゃねぇ。園原だ。覚えておけ」
奏多にとってこのやり取りは面白いんだろうか。笑いながらこちらに何度か話しかけてきた。やれ何部だとか、どこに住んでいるんだとか。帰宅部で、学校に比較的近いところに住んでいるぞと答えた。
そしたら『そんな返答じゃ女の子にモテないぞ』とか言い出してきた。「やかましいわ」と突っ込んだらつぼにはまったのか『そんなんじゃ一生独身かもね~』って言い返された。
今まで付き合ったことがないだけに、本当に一生付き合えないんじゃないかと思えてくるんだが。そうなるのだけは本当に勘弁を。
奏多はしばらくうーんと考えていた。次は一体を何を言い出すのやら。何を言われてもいいようにこちらも頭の中で次の回答を用意せねば。
「ねぇ。園原。私、クレープが食べたいの。だからね」
突然クレープの話をし始めてきた。一体何だろうか。俺は必死に脳内でやつの企みを探ろうと考えたけど答えがみつからない。一応返事をしておくか。
「だから?」
「だからね。今度の土曜日あんたの金で私にクレープ奢りなさいよ」
何を突然言い出すんだ。俺は奏多の財布じゃねぇんだ。この間出たばかりのオンラインゲームに課金をしたばかりで残金が心もとない。1000円札が1枚と小銭数枚しかないからここは丁重に断っておきたい。
「奏多。それは無理だ。俺は金がない。なぜなら課金したからな」
「えっ、そんなにないの?早く財布見せなさいよ」
人の財布見せろってか。見せられるわけないだろ。今月は後これだけでやっていく必要あるんだぞ。やっていくってそりゃ、漫画とか、ジュースとか。ゲームにはこれ以上課金できねぇしな。
「残念ながら本当にないんだ。残金は1000円札が1枚に小銭が数枚しかないからな。これだけしかないのに人にどう奢るというのかね」
あっ、しまった。ついつい財布の残り金額言ってしまった。まずい・・・・・・。あの奏多なら逃がさないはずなのに。
「1000円もあったらクレープ買えるよね?決定だね。クレープ以外にも何か奢ってもらおうかな~」
こいつ、どんだけ人の金をたかる気なんだ。ここらで抑えておかないとどんどんエスカレートになる気がする。
「わかった。わかった。週末クレープ屋いくからそれ以上はなしだ」
「ラッキー!。じゃあ駅前11時集合ね」
あー、俺のお金が・・・・・・。空になるまで使われそう。後、週末はオンラインゲームを1日中やりたかったんだけどな~。どうして俺が一緒に行かねばならんのだ。
もしかしてこれってデートだったりするのか?いやそんなことはない。あいつは俺の財布を目当てにしてるはず。そう俺ではなく財布をな。
クレープを奢ると決めてからだろうか嬉しそうに喜ぶ奏多がいた。彼女の目は期待に満ち溢れるようにキラキラと輝いてた。
それにしてもあいつの笑顔はなんかずるいと思う。さっきまでぜんぜん気にしていなかったのに、急にずっと見ていたいなと思えてきた。さすが学年TOP3には入るだけあって可愛いよなぁ。
もし、付き合えたらどんだけ楽しい日常が遅れるのだろうか。可愛い彼女と一緒に毎日過ごせたりするのか。そう考えると、週末一緒に出掛けるのも悪くないかなと思えてきた。