第6話「人気投票で命を弄ぼう!」
「ふざけるな!!
さっきから絵が偉そうにペラペラと!」
ちょうど東大路の真横にいた髭面の男が、大声で吠え始める。
ある意味で彼の声は誰もが待ち望んでいたものだった。皆がこの非現実に放心している今。
この髭面の男の声は、その皆が疑問・不可解に思っていたしこりを言葉にしたものであり、
言えぬ雰囲気を見事に打ち破るものであった。
隣にいた東大路も感心した表情で、目線のみ横に向ける。
男はホワイトブラックを女王を指さし、さらに大変な剣幕で攻め立てる。
「何がホワイトブラックだ、人気投票だ、駒になれだ!!
おまえら、俺達人間の命を何だと思ってやがる!」
「ならば我々の命を何だと思う」
「!」
「血が出ることも無ければ、悲鳴も出せんと所詮は分からんか。
このように、すぐに中身が飛び出ることもあるまいしな」
東大路の顔に冷たい感覚が突き刺す。
ゆっくりと、その冷気を指で確かめる。そこには液体が付着していた、真っ赤な。
そして次に嗅覚が起きる。何か生臭い匂いが鼻の奥を刺激する。
はてどうしたものか。東大路はふと真横を、さきほどの髭面の男の方を向く。
そこに男の姿は無かった。いや、正確に言うならば、
さきほどまで生きていた男の姿は無かった。
今存在しているのは、臀部から口にかけて一本の巨大な槍に貫かれた死体。
ぴくぴくと、釣られたばかりの魚のように痙攣する、死体。
その死体の周りには、彼の臓器と見られる肉片がいくつにも飛び散っている。
ようやく事態を飲み込めた人間達一同は、悲鳴と恐怖に辿り着く。
そんな地獄絵図を後目に、ホワイトブラック女王は伯爵に手で合図を送る。
2、3度慌てて頭を頷き、伯爵は話し始める。
「これより女王に直接話しかける者は、
同様の罰を与えるものとする」
場はさらに混迷を極める。この奇怪空間、生きる2次元、ホワイトブラック女王、惨殺死体。
この事実の一つ、一つが人間の正常意識を蝕み、狂わせていく。
ここは夢なのか、現実なのか、はたまた空想か、幻覚か。
東大路はその魔力が逃れるため、目線を希望へと向ける。
視線の先には、自分が自分である証明。
自分を人間であると奮い立たせる勇気、百子の姿が確かにあった。
その姿に安堵し、そして決意を持って、百子を庇うようにして、自分の背後に移動させる。
「(口挟んだだけで殺されるのかよっ・・・!
こいつら、めちゃくちゃしやがるっ!)」
東大路は制御の効かなくなった筋肉を無理やり動かし、顔を前へ向ける。
すでに手の感覚は無い、今自分が立っているかも正直分からない。
錆びた機械のように、ぎこちなく、ゆっくり、ゆっくりと、顔を前へ、彼らのもとへ向ける。
相変わらず慌てた表情で、グリーングレイ伯爵が手元の資料を何枚も指で捲る。
そして一つ安堵のため息つき、話始める。
「君達には、3日に1度開かれる人気投票の対象となってもらう。
3日目の集計後に行われる結果で、最下位になった者は都度、脱落となる。
だが、君達は非常に幸運である。
女王の恩赦により、3回もの生還への機会が与えられるのである。
第1回人気投票、中間人気投票、そして最終人気投票の計3回、
これらで1位を獲得した者は生還が許される」
淡々と説明される『人気投票』の仕組み。
しかしあまりにも抽象的であり、何を目的として、何で人気を競うのかすら分からない。
だが、それを聞く権利は彼らには無かった。いや、誰も踏み入ることはできなかった。
あの串刺しにされた惨状を見た後では、口を挟める者などいなかった。
「それでは最後に。
これより名前と番号の呼ばれた者は中央の白線より右側に移動を。
以降、君達の存在は番号で管理されるものとなる」