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第3話「絶望へようこそ」


「起きて、起きて東大路君っ!」


緊張感の中にも、柔らかみのある声。

それに導かれるように、東大路はゆっくりと目を開ける。

まだ少し意識は朧。ぼやける視界を磨き上げるため、目を何度も手で擦る。

ようやく視界が鮮明になっていく。そして、いの一番に見えるはあの芒野百子。

その瞬間、視界に曇りは無くなり、体に内臓されたエンジンは急稼働する。

勢いよく起き上がり、百子の両手を取る。


「も、百子さんっ!

 大丈夫、この快男児・東大寺松司は無事だぜ」


「良かった。

 あんなことになったから、心配で」


「あんなこと?

 (そうだ、俺は百子さんに告白すると決めて、跨線橋で待ち伏せして。

 告白した、告白したんだ。

 そしてその直後に、百子さんと俺は)」


左手で頭を押さえ、必死に過去の出来事を呼び起こそうとする。

頭に断片的に集まる記憶。告白、待ち伏せ、百子、風、跨線橋、電車。

そしてそれがゆっくりと、繋がっていく。そう、東大路は告白を決行した。

その直後に、百子は跨線橋から飛び降りた。自身に課せられた莫大な借金の額を告げて。


「(思い出したぜ。

 俺は百子さんを追って線路に飛び降りて)」


「東大路君、体は大丈夫?」


「あ、あぁ。

 (電車が走っていた所に飛び込んだんだ。

 でも、俺の体には何の痛みも、変化も無いぞ。

 夢、なのか・・・?)」


不思議そうに自分の両手、両足、指から爪までじっくりと見つめる。

だが、やはり何処にも異常はない。常識的に考えれば、

電車に跳ねられればまず無傷では済まされない。

いや、むしろ死の可能性の方が圧倒的に高い。

だがこうして、今ここに、無事な百子が、変わらない自分の体がある。

東大路は目線を百子に移す。やはり彼女も外的な損傷は全く見られない。

まさに狐につままれる感覚。

だがどうにも、瞳に映る百子は左右を何度も見渡し、落ち着きが無い。


「百子さんこそ。

 本当に大丈夫か?」


「えぇ。

 でも、それよりね。

 東大路君、周りを見てみて」


「周り?

 なんだ、この人の集まりは。

 田植えの全日本選手権か?」


百子と同様に、東大路も左右を見渡す。そこには顔も名前も知らない、

男であったり、女であったり、年齢もバラバラな人間が集まっていた。

少し観察するだけでも推測はできた。周りの人間達も、自分と同じように挙動不審な態度を

示している。

どうやら自分達を含め、ここにいる人間は皆同じ状況下にいるのだと。


「(どいつもこいつも俺達と同様に戸惑っている。

 どうやら田植えの全日本選手権の会場じゃないみたいだな)

 百子さん、ここは一体」


「違うの」


「?」


「周りって、

 そこじゃないの」


「どういうことだ、百子さん」


「もうちょっと上。

 視線を、上げてみて」


その時、ようやく東大路は気づいた。百子の顔が引きつっていることが。

東大路はゆっくりと視線を上に向ける。自分達と同じく、動揺をしている群衆のその上。

目線を上げると、そこにはテーブルのようなものがあることに気づく。

それは自分達を囲うように設置されている。

もっと目線を上げてみる。そこに、人影が見えた。人がいる。

いや、何か違う。何が違うのか、東大路にもその答えが分からなかった。

影、いや、輪郭と言っていいのか。色というのか、濃さというのか、存在というか。

そして、東大路は息を呑んだ。


「な、なんだっ!!?

 あれは・・・あれは・・・絵だっ。

 絵が動いている、生きている!!」


机に居座るは、無数の人々。いや、絵として描かれた人間。

この場合、東大路のいう絵という表現だと誤解を招くかもしれない。

それはハッキリとした、存在する絵、動く絵であり、

東大路と百子と同じ空間に実在する2次元生物。


「・・・そうなの。

 さっきからずっと私達を上から見てるの」


「一体どういうことだっ。

 百子さん、ここは何処なんだ!?」


「ごめんなさい、私も分からないの。

 ただ・・・」


「ただ?」


「あの2次元の絵のこと、

 ちょっと知ってるの。

 あれは『めんこ!』の登場人物で、

 向こうには『よくある理科の超電化製品』の主人公がいて・・・」


「な、何を言っているんだ、

 百子さん」


「私の知っている限りだけど、アニメや漫画。

 そのキャラクター達がいるのよ」

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