第八話
「何だこの状況は」
はっきり言おう。俺は今猛烈に機嫌が悪い。
それもこれも元はと言えば、俺の隣でニヤケてるバンドメンバーのせいだ。
「現在19歳になられた陽宥くんがいつまで経っても童貞捨てられないことに
頭を悩ましていた我ら『hameln』が企画しました、合同コンパですが?」
「ちなみにタイトルは『びっくり!ドキドキ?白木陽宥筆おろし計画』だ。」
「こら詠美!女の子が筆おろしとか言うんじゃありません!」
「つーか余計なお世話だ!!」
もう分かってるとは思うが、一応上から潤一、詠美、希の言葉だ。
なんつーしょうもないことに頭悩ませてんだこいつら。
アホだろ。お前ら絶対アホだろ。
「アホとは何だ。わざわざお前のために綺麗所揃えてきたんだぞ。」
「そうよぉ。ほら、右から2番目の子なんかどう?可愛いじゃない。」
「え〜?陽宥はどっちかというとキツめの美人が好みじゃない?Mだから。」
「お前らなぁ!!」
誰がMだ誰が!という万冠の意を込めて潤一の頭頂にチョップを落とす。
完全に面白がってやがる。お前ら絶対善意でやってるとか嘘だろ。
「まぁいいじゃんか。これを機に彼女でも作っちゃいなよ。」
「お前それはモテ男だから言える発言だぞ。」
ニコニコと一見可愛らしい笑顔で俺の肩をぽんと叩く潤一を睨みつける。
どうせ俺は彼女いない暦19年だよこの歳で未だに経験なしだよ悪ぃか!!
そんな俺の魂の叫びを声に出すわけにもいかず、笑顔で流される。
「じゃあ目当ての子が決まったら言って。二人きりにしてあげるから。」
「目指せお持ち帰りだ陽宥。お前なら出来ると信じてるぞ。」
相変わらずの人畜無害そうな笑顔の潤一と、無表情に棒読み全開の詠美の、
というか主に詠美の言葉に動揺してしまう。
「ちょっとぉ。駄目よ詠美、そんな露骨な言葉でプレッシャーかけちゃ。
チキンだから、もっとオブラートに言わなきゃビビッて逃げちゃうわよ。」
「そうだね、じゃあ目標二人で手をつないでラブホに行く。」
「そしてあわよくば中に入る。色んな意味で。」
「お前らいい加減にしろォォォ!!」
そして詠美はそういうこと言うのやめなさい!女の子なんだから!!
その手もやめろ握り拳の人差し指と中指の間から親指出すな下品でしょ!
と、至って常識的なツッコミを入れるも、このバンドのヒエラキー最下層の
俺の声など、腹黒、元ヤン、オカマのアウトロー三人の心には届かない。
「もう帰っていいか」
「いいわけないでしょ、ほらほら行くわよ皆待ってるんだからぁ!」
そう言われてふと視線を女性陣に向ける。目が合うと同時、ほんの一瞬だが
彼女たちの瞳に怪しい光が宿ったのを俺は見逃さなかった。
「帰らせてください切実に。」
「諦めなって。大人の階段昇る日が来たんだよ陽宥。」
「嫌だあああああああ!何かあの人たち目が怖ぇよ完全に狩人の目だよ!」
「丁度いいじゃねぇか。3人でも4人でも相手して来い」
「シャラアーーーーーーーーーーーーーーップ!!!!!」
必死に抵抗するが、2対1、しかも相手は元々タフなドラム少年と元ヤンだ。
ひょろい俺が敵うはずもなく、結果宇宙人よろしく連行されていった。
「イヤアアアアアアアアアア!!!誰か助けてええええええ!!!!!!」
******************
「ん?」
無人のはずの家の中で、誰かに呼ばれた気がしてレノンは振り返った。
気のせいだろうか。今、白木の断末魔の叫びが聞こえた気がしたのだが。
「まさか、な」
何故離れたところにいる白木の声が聞こえるというのだ。馬鹿らしい。
そう思って軽く頭を振ると、再び問題の部屋に向き直った。
後はここだけ…か。
今日の朝、白木が言っていた『何ちゃって死体遺棄事件現場』の部屋。
一人では特にやることもなく、仕方なく家中の家事という家事をこなしたが
どうにもこの部屋には入りにくい。
そんなわけで後回しにしていたら結局この様だ。
仕方ない。
覚悟を決めてドアノブを引いた。
ドアを開くと同時、ドドドと音を立てて、ダンボールやら発泡スチロールやらが
昔の漫画よろしく倒れこんできた。ていうか崩れ落ちてきた。
悲鳴すら上げる暇もなく雪崩に巻き込まれる。
慌てて踏ん張ろうとするも、あれよあれよと言う間に壁に叩きつけられる。
これはあれか。これが巷で有名な伝説のビッグウェーブか。
不要物の波に溺れながら必死に掻き分け、やっとこさ電気の下に顔を出した。
「はぁ…驚いた。」
アンドロイドにだって痛覚くらいはある。少し痛む後頭部を庇いながら立つ。
正確には立とうとした。
しかし先も言ったとおり周りはゴミの海。
バランスなぞ取れるはずもなく、再びガラクタの中に逆戻りする羽目になった。
明らかに物置の体積にそぐわない量。どうやって仕舞ったんだ。
一瞬白木は天才なんじゃないかと本気で思った。
「よ…っと」
なんとかアンドロイドの馬力とバランス感覚を使い、起き上がる。
ふと、自分が手に何か持っていることに気づいた。
雪崩に抗おうとしたとき、夢中で何か掴んだのだろう。
ヒョイと手に持っていたそれを眼前に掲げる。
どうやら掴んだのは人形の生首らしい。人の頭にしては重すぎる。
うむ、見覚えのある顔立ちだな。確かこれは三号機だったか。
件のアンドロイドの頭を片手に、レノンはゴミ山に向き直った。
文の途中で中途半端に終わってたのを修正しました。
色々とミスだらけでサーセン