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CUNNON  作者: \(^0^)/EX
6/9

第五話

「じゃあ俺、戻るから。何かあったら連絡入れろ。」

殆ど吸わずに灰に変わったタバコで焼けた指先に軟膏を塗りながら

佐藤がソファから立ち上がる。

「ちょ、先輩本気で言ってんスか」

「いいじゃねぇか。こいつがいれば部屋は片付く、電話もメールも内蔵。

飯も作ってくれるし、携帯とパソコンと家政婦が同時に来たと思え。」

「そこまでポジティブになれません!」

胸を張ってめちゃくちゃなことを言う佐藤に、くわっと目を見開いて

男―名前は白木といったか―が反論する。

「うるせぇ知るか。俺ぁもう行くから。」

「え、ちょ、待ってくださいって!!」

面倒くさくなったのか、髪を掻き毟りながら部屋を後にした佐藤を

慌てて白木が追いすがる。

あの様子では佐藤を言い負かすのは無理そうだ。

そう思ってため息を吐くと、次いで周囲の状況に目が行った。

散らかるダンボールやビニル袋や発泡スチロールやらで床が見えない。

これでは生活できないだろう、仕方ないので片付けることにした。


「はぁ…先行き不安だ。」




***************




「あ〜〜くそ、先輩め…ってうぉおおお!!?」

部屋も大分片付いた頃、どうやら外にまで追いかけていたらしい。

汗だくになった白木が息も荒いままに帰ってきた。

(どうやら巻かれたようだ。口先も逃げ足もアイツのほうが上手か。)

「なんだ」

「え、え?俺部屋間違えたか?」

帰って早々いきなり何を言っているのか。そう思ってる間に玄関へと

その背が消える。忙しい男だ。

「おっかしいな、やっぱ俺んちで合ってるよな。」

表札を見に行ったのだろうか。首をかしげながら戻ってくる。

何をそんなに動揺しているのか。考えて、思いつく。

「勝手に掃除しちゃまずかったか?」

「へ、あ、や」

「何を言ってるか分からないぞ。」

十四ヶ国語くらいなら理解できるが、流石に人外語は無理だ。

そう意味合いで白木の丸くなってる目を見つめ返す。

目が合う。途端目を逸らされる。え、何故。


「…いらなくなったか?」

勝手なことをして怒らせてしまったのだろうか。

不安になって訊ねてみると、白木が頭を押さえた。

「いや、あのね」

サーモグラフィを通して、頭部に熱が集中しているのが分かる。

心拍数上昇。通称"上ずった"と形容される音程の声。

瞳に移る情報が相手の動揺を伝えてくる。

その反応に、通ってもいない筈の血の気が引いた気がした。

その反応を、見たことが、ある。そ、の反応、は


――…図星を指されたとき、動揺しているとき…――


俺の勘違いで無ければ前後の文から考えれば白木の"図星"の内容は


『…いらなくなったか?』


再生される音声。抹消してしまいたい冷たい響き。









『もういいよ。お前、要らない』















「――――ッッ!!」


気付けばその場から逃げ出していた。



「お、おい!?」


慌てたような声が追ってくる気がしたけど分からない。

頭の中で警鐘が鳴り響いている。


嫌だ





『要らない』



嫌だ嫌だ


『嫌です、嫌、嫌ぁ…!お願いです、お願い、捨てないで…』



嫌だ嫌だ嫌だ




『うるせぇな。涙なんか流すなよ気持ち悪い』



お願い


『作り物のクセに』










飛び込んだ部屋。暗い室内。視線を回す。あった。

少しだけ差し込む光を反射した、銀色のそれ。

手に取る。逆手に持つ。振りかざす。


「おいッ!!」


切羽詰った声と同時、背中と腕、それから肩に衝撃。

羽交い絞めされたと理解したときには、手にあった果物ナイフは

既に奪われていた。


「あ…痛ぅッ!」

呆然とそれを目で追いかけていると、肩にあった指に力を籠められる。

アンドロイドにだって痛覚はある。かなりの力でシンクに叩きつけられた。

「何考えてんだ!!」

目の前の顔が酷く怖い。やっぱり怒っている。あぁまただ。

「…………ぅ」

また、捨てられるのか。

そう思った瞬間、言葉に出来ない何かが、崩壊した。


「何、泣いてんだ…」

大きく見開かれた白木の目に、ただ涙を流す自分の顔が映る。


『涙なんか流すなよ気持ち悪い』


リフレインする記憶。蔑む瞳。冷たい声。

駄目だちゃんと止めないと。泣いちゃ、駄目…なのに。


「ごめ、ごめんなさいすてないでちゃんということききます

かってなことしませんないたりしないからだからすてないでおねがい」





今は止まらないこの涙だって、ちゃんと止めるから、お願い捨てないで。






壊れたようにそれを繰り返すと、俺の上に覆いかぶさる白木が腕を開放し、

突然何事か、あーとか、うーとか言ったかと思おうと


「あの、さ。俺お前のこと捨てるとか言ったっけ。」

そう言って俺の髪を撫でた。


「え…だ、だってさっきいらないって」

「言ってないって。そりゃ、ね?最初は先輩に押し付けられたような形で

やっぱ理不尽とか思ってたけどさ。」

まだ止まりそうも無い雫を拭う指が、温かくて、目を伏せる。


「でもさ、ほら帰ってきたら部屋なんか完璧に片付いてんじゃん。

こりゃ助かるわってんで、そしたら急に、何かさっきまで理不尽だとか

ぶつぶつ言ってたの馬鹿らしくなってきて…俺恥ずかしい〜みたいな…」

意外な言葉にぱちくりと瞬きする。

じゃあ、さっきの自分は。

パニックになって自身を壊してしまおうとした俺は。

とんでもなく情けない勘違いに顔が熱い。あぁくそ馬鹿か。

おそらく真っ赤であろう顔を、腕をクロスさせて隠す。

そんな俺の様子を見てあー、と微妙な声を出して頬をかくと、続ける。


「ま、その…誤解させるような態度とって悪かったよ。」

無神経だった。そう言ってバツが悪そうに髪を撫でる白木の顔を見て。


「本当に、そう思うか?」

気付けば口をついた言葉。言って、後悔する。

何をこんな乙女みたいなことをあぁもうさっきから狂いっぱなしだ。

そんな俺の心情など総スルーでにかっと笑う白木。

「おぉ。むしろずっといて貰いたいくらいだ。あーもう、一人暮らしも

侭ならないやつが何をほざいてたんだろうね偉そうにまったく。」

途中から自虐に入った白木の言葉に、顔がますます熱くなった。

「そ、か」

「うん。大マジ。だからもうあんなことすんなよ。」


心臓止まるかと思った。


安堵のため息と共にそんなこと言われると、ますます小さくなってしまう。

「わ、わか、ったから」

「ん?なんだ随分素直だな。先輩の話よりずっと素直というか…」

笑顔で俺を見下ろす白木。身長は俺のほうが高いのに見下ろされてるのは

いったところが押し倒されているからだ。絵面的にも肩身が狭い。

もういい、もう分かったから


「結構可愛いとこあるじゃヌグボォ!!」

「うるさい馬鹿!!」

言われたら軽く死にたくなるような台詞を吐こうとした口を、

渾身のエルボーで黙らせる。

顎を押さえて床を転がりまわる白木をほったらかしてリビングに逃げた。





あぁもう恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!


ふかふかのソファに飛び込んで顔を埋める。

無人の状態だったからか、俺の顔が熱いからかひんやりして気持ちいい。

目を閉じて熱を冷ますことに専念していると、人の気配。


「痛てて…顎は止めろ、死ぬから。」

うるさいうるさい今猛烈に顔が熱いんだ向こう行けばか。

腕を組んで何もありはしない壁を睨んでいると、視界の端に何かが映る。


「ま、これからよろしくな。」

視線だけ動かせば、差し出された手。

ほんの少しだけ首を戻してみれば陽だまりみたいな笑顔。

それを見た途端何もかも馬鹿らしくなってその手をとった。



「明日から俺にうまい味噌汁を作ってくれ。」

「勘弁してください」

「普通ごめんなさいだろ!やめて敬語、逆に傷つくから!」








こうして俺と白木の共同生活が始まった。

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