第三話
ピンポーン
ソファの上で微睡んでいると、来客を知らせるインターフォンの音。
来た。
背筋と腹筋をフル活用してソファの上から少林寺立ちの要領で起き上がる。
判子を片手に玄関まで猛ダッシュ。
「白木陽宥様宛です。」
「はいはーい。ご苦労さま〜。」
宅急便の制服を着た兄ちゃんから荷物を受け取る。
閉まる扉を背に、居間に向かう足取りは軽い。
「来た来た。1名様限定品『アンドロイド:レノン(女性型)』。」
家事を行い、見た目も美しく観賞にも良い。
さらに感情を学ぶことができるので、話友達にもなる。
しかも検索機能付きなので、機械の扱いが壊滅的な俺には救世主のような存在だ。
お値段何と驚きの50万。
それが葉書三枚で手に入ってしまった。
「流石俺だね。」
やはり自分には懸賞の神が憑いているのだ。これまでも数々の商品を懸賞で手に入れてきた。
我が家の生活用品は全て懸賞で手に入れたと言っても過言ではない。
リビングの床に、人一人入れそうな大きさの段ボールを置く。
というか実際人もどき物体が入っているのだが。
「オ〜プン〜♪」
ビリビリとテープを剥がせば、そこにはとびっきりの美少女
の
生首
「ほぉじゃけれえええホラーぜよおおおお!!!」
思わず方言になったのはスルーしてほしい。
「あぁビックリした…組み立てるタイプなんだ。」
機械音痴の俺でもこれなら出来るだろう。ガ○プラみたいなもんか。
「何々…まずは首の部品と頭の部品を…」
「いや、なんつーか…スゲーなお前。」
行きつけの居酒屋で突っ伏した俺の肩を佐藤先輩が慰めるように叩いた。
「ま、携帯を購入して二分で壊すような男だしな」
「もういい。俺二度と機械には触らないと誓う。」
「しかし組み立てる段階で、あそこまで破壊するってどうなんだ。」
先輩の言う通り。
時価50万円のレノンは、現在見るも無惨な姿になって俺の部屋に詰め込まれている。
なんちゃって死体遺棄犯になった瞬間だった。
「あれはもう使い物にならんな。」
「うう…そんな〜…」
こんなことなら先輩に頼んで組み立てて貰えば良かった。
さよなら俺のレノンちゃん(女性型)。起動する間もなくスクラップにしちゃってゴメンよ…。どうか夢枕には立たないでくれ。
「先輩〜俺の為にアンドロイド作ってください〜」
「無茶言うな。」
即答される。
「う゛ぅう〜〜…」
「そもそも何でレノンを当てようとしたんだよ。お前アンドロイドに興味あんのか?」
煙草を口先でくわえながら先輩が聞いてきた。
「俺仲間内でアマチュアバンドしてるんス。俺、ボーカルだけじゃなくて作詞もやってるんスけど…」
カチッカチッというライターの音がしたかと思うと、次いで煙草の煙が鼻先をくすぐった。
「俺、機械の次に国語が駄目で。ハロ…パソコンがないと小学生の作文になるから…。」
ちなみに作文云々はウチのドラムの言葉だ。
「パソコン買ったところですぐ壊すだろうと思って。最近のアンドロイドはパソコンの機能付きって聞いたから…」
後悔から深いため息。隣で先輩が煙を吐き出す気配がした。
大分酒も回ってきた頃。
「女性型じゃないと駄目か?」
「はい?」
「アンドロイド。」
煙草を燻らせながら先輩がそんなことを呟く。
「いや別にそういう訳じゃ」
「たとえ男性型でも、レノンが欲しいか?」
「そうっスね〜。もうこの際、パソコンの代わりになるなら欠陥持ちでもいいっスよ。」
「それ本当か?」
俺の言葉に先輩が身を乗り出してきた。
「実は最近アンドロイドを拾ってな。」
先輩は熱燗をちびりちびりと舐める。
「そいつ昔捨てられたとかで人嫌いなんだ。」
「へぇ…」
「言うことも聞いてはくれんだけど、警戒心全開でピリピリしててよ…。」
その言葉に興味を刺激され、話に耳を傾けると、聞けば聞くほど野良猫みたいな奴だと思った。
「なぁ、そいつを暫く預かってくれねぇか?」
そう言って先輩がこちらに目を向けた。
酔ってたんだと思う。
だから先輩の言葉もその時はさして深刻に受け止めずに、安請け合いしてしまった。
「性能は確かなんスか」
「優秀過ぎるくらいだ」
「ふぅん…いいっスよ」
「本当か!?」
安堵の色が濃い声で叫んで先輩が俺を見る。その視線に答えるように頷くと、今日は俺の奢りだと笑った。
酒は飲んでも呑まれるなって言葉を身をもって実感するのは、先輩がお愛想通した数時間後。