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CUNNON  作者: \(^0^)/EX
2/9

第一話

システムを起動します





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意識が急速に蘇る。



薄暗い室内で、多くの機械が動作音を上げる空間。

自分が初めて産み出されたラボの空気に似ている。



「うんうん。ちゃんと起動したみたいね。」


隣から聞こえてきた声に視線をやる。


まず目に入ったのは柔らかな黒髪。


クリンとした黒真珠の瞳を縁取る同色の睫毛は、長く量が多い。

日光には無縁そうな、透けるように白い肌。

細い身体に白衣を纏う姿は少しアンバランスだ。


「だ、れ」

出した声が掠れた。どうやら長いこと眠っていたらしい。少し違和感を感じる。

思わず眉を寄せる自分の顔を見ると、女性はクスリと微笑み、ずれてもいない眼鏡を押し上げた。


「あたし?あたしは技術者の黒沢雪乃。」


雪乃は、カチャカチャと何かの機具を机にぶちまける様に置いた。


「大変だったわね。データを確認してみて驚いたわ。貴方、充電が切れてから三年間眠ってたのよ。」


コーヒーメイカーの音が、薫りに混じって室内に満ちる。


「聞かないんだ。」

「何を?」

「俺があそこにいた理由。」

「聞いたら答えるの?」

はい、とコーヒーを渡されて思わず顔をしかめた。


「俺は飲食は出来ない。」

「知ってるわ。だからあなたも知っておきなさい。黒沢雪乃の辞書に、不可能と限界と断念の文字はないわ。」

充電をしてる間にちょっとだけ弄らせてもらったから、と言ってのける雪乃に開いた口が塞がらない。


「どうぞ。」

薦められて、仕方なくコーヒーを啜った。

どうやら知らぬ間に飲食が可能になっていたらしい。出会って五分も経っていないが、めちゃくちゃな女だ。


「どう?」

「…変な感じがする。」

口の中に、ひどく不快感を感じて眉を寄せた。これが苦いというものなのだろうか。


「慣れれば飲めるようになるわ。」


そういうものなのだろうか。分からない。少なくとも自分には無理そうだ。


「こっちと代えましょうか。」

そう言った雪乃のカップの中には、薄茶に濁った液体が満ちている。カフェオレだ。


「別に、いい。」


何だか悔しくなったので、絶対に飲めるようになってやると心に誓う。

そんな俺の様子に、クスリと笑みを浮かべると、雪乃は、あらそう?と言って再びカップに口をつけた。



「で、どこが悪いの。」

「は…?」

いきなり言われてポカンと間抜けな顔を曝す。

慌てて顔を戻すがバッチリ拝まれたらしい。プッと噴き出した雪乃に眉を寄せる。

「貴方の顔を見ていれば、どこかに欠陥持ちなのは分かるわよ。」

微笑む雪乃がひどく大人びて見える。


「それを聞いて、どうするの。」

「直してあげるに決まってるでしょ。」


あっさり。


開いた口が塞がらない、本日二回目。


「……無理だ。何度修理しても、再発した。」

「あら、貴方あたしの言葉を聞いてなかったの?」

俯いてそう言った俺に、雪乃は髪をさらりと払って、フッと笑う。

「黒沢雪乃の辞書に、手加減と容赦と良識の文字はないわ。」

「めちゃくちゃ鬼畜じゃないですか。しかもさっきと微妙に変わってるし。」


胸を張って言う雪乃の頭頂を、いつの間にいたのか、長身の男がバインダーでビシッと小突いた。

だらしなく上のボタンを二つ程外し、腕捲りしたシャツとスラックスというラフな格好にくわえ煙草。

くすんだ茶髪は乱雑に伸び、左耳の下で無造作にくくられている。

実際はもっと若いだろうに、無精髭のせいで、いくらか老けて見えた。

サングラスの下の瞳が、達観した色をしている。


「あら佐藤くん。」

「あら、じゃありません。さりげなくコイツに構うふりしてサボらないでください。レポートの〆切明日までですから、急いで完成させてもらいます。」


ちなみに完成させてくださいなどという、甘っちょろい言い方ではなく、断定系なのがミソである。

「あたしを誰だと思ってるの。その気になればレポートなんぞ二時間あれば終わるわよ。」

「アンタこそ学会を何だと思ってんだ。」

「うるさい。とにかくほらほら、喧しい小姑が来たから、さっさとどこが悪いのか言っちゃいなさい。」


目を合わせられると、何故か逸らせなくなった。言葉と裏腹に、その表情がひどく真剣なものだったからかもしれない。


そう思うと、この女に任せてみてもいいような気がしてきた。



それはかなり頼りない直感だったけど。







今日一番掠れた、情けないくらい小さな声で呟く。







「記憶が…消えていくんだ…」


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