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翌朝のこと。屋根に設けられた小さな天窓から、燦々と光のシャワーが降り注ぎ、ペンションの中を明るく照らしている。
一階のダブルベッドに寝ていたガッタは、夜が明けたことに敏感に反応してパチッと目を覚ますと、虹彩を左右に一往復させた。そして、ペンションに泊まっていることを思い出すと、タオルケットを跳ね除けてベッドを降りた。
スリッパを履いたガッタは、近くにある少し腰高の出窓によじ登り、膝立ちになってカーテンを開けた。
「わぁ、きれい。すてき~」
風が無く晴れ渡っていることもあり、窓の外には、緑が茂る丘に囲まれた湖が一望できる。水面は鏡のように穏やかで、丘の緑を上下逆さまに映している。
「ルナール、ルナール! おきて! すごいよ!」
「んんっ。どうしました?」
ガッタは、出窓からスタッと足を揃えて飛び降りると、ベッドサイドに駆け寄り、寝ているルナールの肩を揺すった。ルナールは、いったい何事かと思いつつ、眠い目をこじ開け、おもむろに上体を起こす。
「まどのむこう、すっごくきれいなの! みてみて!」
ルナールはスリッパを履き、ガッタに急かされるようにして窓辺に立つと、あまりの美しさにハッと息をのんだ。
「ねっ? すごいでしょ」
「これは、素晴らしい景色だわ」
「そうよね。あっ、そうだ! ニースもおこしてこようっと」
ガッタは、ニースニースと連呼しながらロフトを目指して梯子を上り、助走を付けてダブルベッドへとダイブした。
しかし、そこにニースの姿はなく、ガッタがおやっと首を傾げていると、ニースはガッタの背後から両脇の下に手を入れ、ベッドから降ろした。
「あっ、ニース! おきてたの?」
「ここは夏用に風通しを第一に考えて設計されているから、ドアも壁も最小限にしか備わっていない。そして、ベッドルームスペースとロフトスペースのあいだには、柵と梯子しかない。そこへきて、よく通る声の人物が賑やかにしていたら、否が応でも目が覚める」
「つまり、どういうこと?」
「下の音が丸聞こえだということだ。そんなに騒ぐほどのことがあったのか?」
「みずうみがきれいなの! みにきてよ」
ガッタがニースのシャツの袖を引っ張ろうとすると、ニースはガッタを抱っこして出窓の方へ連れて行き、カーテンを開けた。
「はわ~。こっちのほうが、もっときれい!」
「そうだろう。ここの初代オーナーは、この眺望に惚れ込んで、このペンションを建てたそうだ」
「ここなら、あっちのほうもみえるね。なんか、とんがってるやねのおうちがある」
「うむ。あれが共同墓地の慰霊塔で、すぐ下に慰霊碑がある」
「じゃあ、きょうは、あれをめざすのね?」
「あぁ、そういうことだ。――そろそろ降ろしても良いかい?」
「いいよ」
ニースはガッタを降ろすと、下に行って着替えるように言った。ガッタは元気よく返事をすると、上機嫌で下へ向かった。




