表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたりで暮らせるかな  作者: 若松ユウ
Ⅰ ガーネットの月
9/181

009

 パジャマを着せたガッタをゲストルームのベッドに寝かせたあと、ニースは自分の入浴を済ませ、ベッドルームへ移動した。ちなみにベッドルームは、ゲストルームの真上に位置する。

 燭台で薄明るく灯された部屋を見渡せば、ベッド以外の大型家具はチェストが一台あるくらいで、あとはカーテンが閉ざされた窓や重厚なドア、マントルピース付きの暖炉くらいしか目に入らない。マントルピースには、伏せた写真立てが一つある。

 手にしていた燭台をサイドテーブルに置いたニースは、ベッドに腰を下ろし、テーブルの抽斗から二本の色違いのリボンを取り出す。それから、ストレートの長髪を頭頂部から左右に分けると、それぞれを三束に分け、ゆるく編みはじめる。口先には、抽斗から出したつややかなシルクのリボンを咥えている。

 これはオシャレのためではなく、あくまで就寝中に髪が邪魔にならないようにするためである。そのため、結び目の大きさが不揃いであることなど気にもせず、ニースは手慣れた様子でスルスルと毛先まで編み、適当にリボンで留めてしまう。

 同じ動作を繰り返すと、ニースは燭台の火を消し、スリッパを脱いでベッドに入ろうとした。

 そのときである。


『ニース! ニース!』

「何の騒ぎだ?」


 体当たりでもしているのかというくらいの勢いで、ドアを激しくドンドンと打ち鳴らす音がしたので、ニースは燭台を片手に取り、急いでドアを開けた。

 ドアが開くやいなや、ガッタは涙目になりながら、ニースの腰に両手を回して抱きつき、嗚咽まじりの声で必死に訴えた。


「くらい、こわい、さみしい」

「何があったんだい?」

「くらいの、こわいの、さみしいの。ひとりは、ねむれないの」


 主語が無いと、意味が分からない。そうニースは思ったが、ガッタがブルブルと震えていることから、何か怖い夢でも見たのかもしれないと推測し、ひとまずガッタを部屋の中へ入れ、ドアを閉めた。

 それから、ニースは燭台をサイドテーブルの上に置き、ベッドの端にガッタを座らせ、自分も横に腰を下ろし、抽斗からハンカチを出してガッタの目頭に押し当てつつ、務めて声を抑えて問い掛けた。


「何か、よからぬものを見たり聞いたりしたのかい?」

「ちがう。あのね。おへやがまっくらで、ひとりぼっちでしょう? だから、こわくなっちゃったの」

「暗い部屋で一人で寝るのは、初めてだったのか。誰が一緒にいたか、覚えてるかい?」


 ニースは、ハンカチをサイドテーブルの上に畳んで置いた。ガッタは、ようやく興奮状態から冷め、う~んと小さく唸りながら落ち着いて思い出そうとした。


「かおは、わかんない。でも、おててがおおきくて、やさしくて、ニースみたいなこえだった」


 きっと、それは父か兄か、あるいは、それに近い存在の保護者がいたということなのだろう。ニースは、新たな手掛かりが見つかったことを内心で喜びつつ、ベッドサイドから立ち上がり、毛布の端をめくってその下のシーツをポンポンと軽く叩いて示しながら、ガッタに言う。


「もう遅いから、今夜は、ここでお休み」

「ニースもいっしょにねてくれる?」

「あぁ。特別に、添い寝してあげるよ」

「ふふっ。ありがとう」


 ガッタはスリッパを脱ぐと、いそいそとベッドの上に乗り、期待に表情を輝かせながら横になった。そのあと、ニースもスリッパを脱ぎ、燭台の火を吹き消してからベッドへ上がった。

 このあと二人とも、朝日が昇るまで一度も目を覚まさなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ