081
ダイニングテーブルの上には、下茹でされたニンジンやパプリカ、セロリなどの野菜と、ディップが入ったテラコッタ製の小鍋が人数分置かれている。今夜のメニューは、バーニャカウダなのである。
ニースは自分のを、ルナールはガッタの分も含めて、フォークに野菜を刺しては鍋でぐつぐつと煮えているディップにくぐらせている。
野菜の横にはビシソワーズが添えられてあり、時折フォークをスプーンに持ち替え、適宜ほてった喉を冷やしつつ、三人は会話を交わす。
「ルナールには話してあることだが、来週、旅行に出ることにした。馬車の手配はしてあり、サーヴァに留守も頼んである」
「どこいくの? うみ?」
「海に行くには、もっと水温が高くなってからでないと厳しい」
「じゃあ、かわ?」
「川でもない。湖畔だ」
「こはん?」
「湖のほとりのことよ、ガッタちゃん」
「みずうみなら、しってる。こいは、いるとおもう?」
「さぁ、どうかしら」
はやる気持ちを抑えきれない様子のガッタが興奮気味に口を開くたび、小鍋の下の蝋燭の炎が揺らめく。
ニースはビシソワーズで喉を潤してから、静かに旅行の目的を話し始めた。
「自然豊かな場所だから、遊びに行くにはもってこいだが、目的は他にある」
「なにしにいくの?」
「湖畔には、半世紀前の戦没者が眠る共同墓地があり、そこへ献花するために行く」
「けんかするの? だれと?」
「手を上げるわけじゃなくて、手を合わせに行くのよ。慰霊碑があるの」
「イレーヒ?」
「亡くなった人が心配してお化けにならないように、私たちは元気にしてるから安心してくださいって伝える場所のことよ」
「ふぅん」
いまいちピンと来ないのか、ガッタは眉根を寄せつつ、ルナールからフォークを受け取り、パプリカに齧り付いた。
「共同墓地は、馬鹿な争乱を起こした反省として、二度と戦禍に見舞われることのない社会を目指し、平和を祈念するための場所なんだ」
「キネン? おいわいするの?」
「アニバーサリーではない。メモリアルの方だ。祈りを捧げることを指す」
「あっ、おいのりするのね! はじめから、そういってよ。それなら、できるもん」
ようやく理解できたガッタは、パッと晴れやかな顔をした。
連絡事項を伝えたニースは、ホッと安堵の息をもらし、セロリにフォークを突き立てた。
ルナールは、ガッタについて知る手掛かりを探すためだというもう一つの目的があることを、ニースが伏せたままにしていることに気付きつつも、そのことについて何も触れることなく、ガッタの口元にナフキンを当てた。




