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「ルナール。来週の件だが、……おや?」
サンドイッチとマッシュポテトのランチを終えた昼下がりのこと。ニースは、ルナールがソファーに座っているのを発見して声を掛けたが、途中で話を止めた。それというのも、ルナールに膝枕されて、ガッタが昼寝をしているのに気付いたからである。
「朝から張り切り過ぎてたようで、さっきまで眠たそうにウトウトしていたものですから」
「無理もないな。遊び回って体力を消耗したところに、この陽気だ」
ルナールとニースは、ガッタを起こさぬように小声で会話を交わす。
ニースは、なるべく揺らさないように慎重にソファーへ座り、ガッタの顔にかかった黒髪を、片手でそっと払いのけ、スウスウと眠りこけている天使のような表情を見て、フッと安堵の溜め息をついた。
「ガッタは、すっかり君のことを信用しているようだな」
「寝心地が良いのでしょう。程よい弾力がありますから。――ところで、何か急ぎの用事でしたか?」
「紅茶かコーヒーでも飲みながら、今度のことを話そうと思ったんだが、ガッタが起きてからで構わない」
「そういうことなら、すぐに淹れてきましょう」
「いや、今は動けないだろう?」
「あら。そんなことありませんよ。ちょっと失礼して……」
ルナールは、ガッタの首の後ろと両膝の裏に腕を回すと、そのままガッタの身体をわずかに持ち上げながら立ち上がり、クルッと半回転させてニースの膝にガッタの頭が載るように寝かせ直した。
「うふふ。では、お紅茶を淹れてきます」
「待ちたまえ。これでは身動きが取れない」
「声が大きいですよ、ニース様。淹れ終えたら、速やかに戻りますから」
「……ガッタが起きる前に持って来てくれ」
「善処しますわ」
困惑するニースと熟睡するガッタを部屋に残し、ルナールは紅茶の準備のためにキッチンへ急いだ。
ニースは、枕が替わったのに気付かないまま、すやすやと眠り続けているガッタの寝顔を見て、いつもなら決して口にしないであろう率直な気持ちを言葉にした。
「君が迷い込んできてから、イレギュラーなことばかりだよ、ガッタ。しかし、長いこと忘れていた何かを思い出したような感覚がして、それが存外に悪くないものだから、不思議なものだ。ありがとう」
声が聞こえたのか、それとも吐息に反応しただけなのか、ニースが話し終えた瞬間、ガッタはフフッと笑い声をもらした。
それから、しばらくして、紅茶とクッキーを持ってきたルナールは、あれやこれやとガッタに質問されているニースの姿を目撃したのであった。




