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応接間では、一番大きな窓が全開になっていた。レースのカーテンが風に揺れ、窓枠の周囲には、根本の一部が黒い白羽が三枚ほど落ちている。
「フィーユ、リボンおいてっちゃった」
「飛行中に外れたら困るからだろう。まぁ、それ以前に、彼女には、窓が出入り口でないことを認識して欲しいものだがね」
窓辺に置き去りにされたリボンを拾い上げ、ガッタが落胆していると、ニースが声を掛けた。
ガッタは、ニースの声を聞いて振り返り、パッと電球が点いたかのように閃きを口にする。
「むすんであげよっか?」
「僕は結構だ」
「えんりょしなくていいよ?」
「そういう次元の話ではない。いいから、ちょっと貸しなさい」
ニースはガッタの手からリボンを取り、朝にルナールが結んでいたのと同じように結び直した。
「これで良いかい?」
「うん。バッチリ!」
ガッタは、そっと頭を押さえてリボンの位置を確かめると、ニースににっこりとほほ笑んだ。
窓の外は雲ひとつない快晴で、草花はのびのびと日差しを浴び、蝶もひらひらと優雅に舞っている。こんな良い天気の日に、家の中に篭っているのは、もったいない。
「ねぇ、ニース。おにわであそんできていい?」
「あぁ、行っておいで。くれぐれも、風見鶏が見える範囲から外れないように」
「ハーイ! いってきまーす」
新しい靴の効果もあってか、ガッタは足取りも軽やかに庭へと向かって駆け出した。ニースは、その後ろ姿を見て、元気があって何よりだと思いつつ、廊下へ出て書斎に向かった。
庭へ出たガッタは、シーツを丸めて入れた籐のバスケットを運んでくるルナールを発見した。
「あっ、ルナールだ! それ、どうするの?」
「あらあら、ガッタちゃん。今日は、お天気が良いでしょう? だから、綺麗にしようと思って、さっき洗ったのよ」
ルナールは、声で前に居るのがガッタだと気付くと、足元にバスケットを置き、太めの洗濯ロープを左右に渡しながら会話を交わす。
ガッタは、綺麗になったシーツの山に歩み寄り、おもむろに鼻を近付けた。
「あっ。せっけんのいいにおいがする~」
「そうでしょう? これをお日様に当てて干したら、もっと良い匂いになるわよ」
「わぁ。たのしみ~」
このあと、ガッタはルナールを手伝い、庭の一角は、夕方前まで真っ白なシーツがたなびくのであった。




