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ニースがブレックファーストを済ませ、ルナールがキッチンで洗い物をしている頃、ガッタは鏡の前に立ち、二本のリボンを左右に持ちながら、片方ずつ襟元に添えていた。
ゲストルームの窓は換気のために開けてあり、レースのカーテンがひらひらとそよ風と踊っている。
「うーん。ピンクのほうがかわいいけど、ライムのほうがおしゃれかなぁ」
「いっそ、二本とも結んだらどうだい?」
「それ、いいかも。――わっ!」
ガッタが声のした方へ振り向くと、そこには、燃えるように真っ赤な髪をした女性が、エメラルドグリーンの瞳を輝かせながら、窓枠に片腕をもたれかけて立っていた。窓辺をよく見ると、鶴の羽根のようなものが二枚ほど落ちている。
女性は色白で細面かつ痩せ型だが、体格に似合わず声が人一倍大きいので、ガッタは驚いてリボンを手放してしまった。
「だっ、だれ?」
「悪い悪い。そんなに驚くとは思わなかった。あたしの名は、フィーユさ。ちょいと、ここの旦那に用があって来たんだ」
「そうなんだ。おねえさん、ほっそりしてるのに、こえがおおきいね」
「アハハ。よく言われるよ」
ニースの客人だと分かり、ガッタはホッと胸を撫で下ろしつつ、足元のリボンを拾い、窓辺へ近付いた。
そこへ、後片付けを終えたルナールが様子を見にやってきた。ルナールは、ドアを開けてすぐ、窓の向こうからフィーユが半分、こちら側へ身を乗り出しているのに気付き、つかつかと窓辺に向かい、フィーユに注意した。
「フィーユ様。毎度申し上げていることですが、来られる際は、正面エントランスにお回りください」
「わかってるって。でも、カーテンの隙間から、可愛い子が見えたものだからさ。気になっちゃって。この子、どうしたの?」
「そのあたりの事情は、ニース様にお伺いください」
「答えてくれないのね。しょうがないから、本人に聞こう。――嬢ちゃんは、どこから来たの?」
「とおいとおいところ。なんていうところかは、しらない」
「なるほど。それは、大変だったね。――誘拐した訳じゃないよな?」
これ以上ガッタに聞いても分からないと悟ったフィーユは、ルナールに話を振った。だが、ルナールは質問に答えず、窓から家に入る法は無いからエントランスに回るようにと繰り返すだけだったので、フィーユは窓辺から離れ、屋敷の正面へと歩き出した。
「なんか、かわってるおねえさんね」
「そうね、ガッタちゃん。それより、リボンをどうするつもり?」
「あっ、そうそう。リボンを、ふたつでむすびたいの。おしえて?」
「二つとも襟元で結ぶつもりなの、ガッタちゃん?」
「そうだよ。へんかな?」
「変ではないけど、一つを髪に結んだ方が、より可愛くなるわ」
「あっ、それがいい! それやって、ルナール」
ガッタは、最終的にルナールのアイデアを採用した。ルナールは、ガッタの手からリボンを預かると、ライムグリーンのリボンを襟元で、サーモンピンクのリボンを頭の右上で結んだ。
鏡を見たガッタは仕上がりに満足し、ルナールと一緒に応接間へと移動した。




