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ふたりで暮らせるかな  作者: 若松ユウ
Ⅴ エメラルドの月
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073

 応接間では、ニースはコーヒーを飲みながら手紙を読み、ルナールはガッタの足をタオルで拭いている。


「小石とか木屑とかで足を切るといけないから、勝手に裸足になっちゃ駄目よ、ガッタちゃん」

「ハーイ。こんどから、きをつけるね」


 ガッタがしおらしく反省の色を見せると、ニースはルナールがタオルを置いたタイミングでソファーから立ち上がり、手紙とカップをローテーブルの端に寄せ、小包を開けた。

 クラフト紙に包まれた中身は靴箱で、それぞれの箱には名前が書いてある。ニースは、ガッタと書かれた箱を持ち、名前の人物の前に置く。ガッタは、靴下を履き直しながら、ニースに訊ねる。


「あけていい?」

「あぁ、もちろん。それは、君の靴だ」


 ニースのお許しが出るやいなや、ガッタは蓋に手を掛け、期待に胸を躍らせながらも、そーっと開封した。

 箱の中には、緩衝材としてのクローバーと一緒に、落ち着いたボルドーのローヒールが入っていた。


「わ~、すごい! かっこいい!」

「履いてごらん、ガッタ。歩いてみて、足に合うかどうか聞かせてくれ」

 

 ガッタは、新しい靴に足を入れると、ソファーの周りをチョロチョロと走り回ったり、暖炉の前でピョンピョン跳んだりして、靴が足にフィットしているかどうかと確かめた。


「あっ、やわらかい! なんにもはいてないみたいよ、ニース」

「それは良かった。こっちへおいで」


 ニースはガッタを呼び寄せると、爪先にどこまで足が入っているか、踵が余っていないかなどを入念に確かめ、これなら歩き疲れることもなく、すぐに窮屈になることも無いだろうと納得した。

 ひとしきり喜んだガッタは、古い方の靴を箱に入れて片付けているルナールの足元に注目し、何かに気付いた。

 

「あっ! ルナールのくつも、いつもとちがう」

「うふふ。私の靴も、一緒に届いたのよ。似合うかしら?」


 ルナールは作業の手を止め、スカートの裾を少し持ち上げ、シックなグリーンのパンプスがよく見えるようにした。


「にあうよ、ルナール。おしゃれで、おとなっぽい」

「ありがとう、ガッタちゃん」


 ガッタがルナールに気を取られているうちに、ニースは自分の靴を履き替えた。

 ニースの靴は、それまでと全く同じデザインで、履き古していない分、日焼けや傷みも無く綺麗なものではあるが、いささか変化に乏しい。

 ガッタは、目を離した隙にニースの箱が空になっているのを見て、ローテーブルの左右を見渡したり、下を覗き込んだりした。


「ニースのくつは?」

「これだよ」

「えっ、どれ?」

「だから、これだ。今、履いている」


 ニースが足元を指さすと、ガッタはガッカリした様子で言った。


「ウーン。あんまり、おしゃれじゃないね」

「いつもと違う格好だと落ち着かないんだ。研究に支障をきたさないためにも、普段から服と靴は、同じような物をいくつも用意している」

「あっ、そういえば、ニースがおしゃれしてるの、みたことない」

「ファッションに気を遣う時間が惜しいし、流行を追い駆ける必要も無いから」

「もったいないよ、ニース。せっかく、カッコイイのに。――ねぇ、ルナール?」

「そうねぇ」


 これでオシャレをして社交場へ顔を出せば、貴婦人たちが放って置かないだろうに。ガッタから同意を求められたルナールは、心の中で賛同しながらも、ニースの言い分も理解できるため、ハッキリとしたことは言えなかった。

 ルナールは明言を避けたまま箱を持ち、片付けとブレックファーストの準備を急いだ。ガッタはルナールのあとに続き、今朝のメニューは何かということを考え始めた。

 ニースは、二人が去ってからコーヒーの残りを飲み干し、特に意味もなく窓辺に佇んだ。窓の外では、草木が風に吹かれ、さわさわと靡いている。

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