表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたりで暮らせるかな  作者: 若松ユウ
Ⅴ エメラルドの月
76/181

072

 温室内は冬場と違い、朝から換気用の窓が開かれ、新緑の息吹を感じる爽やかな高原の風が通り抜けている。

 畝に並ぶ薔薇たちも、葉を茂らせ、茎を伸ばし、青紫の蕾を見せている。

 ニースは、じょうろで水をやりつつ、一ヶ所に蕾が集中しすぎていないか確かめて回っている。すると、別の畝で水やりをしていたガッタが、手を振りながらニースに知らせる。


「あっ! ここ、咲いてるよ」

「どれどれ。あぁ、本当だ」


 この雪原の紫薔薇は、一般的な草原の赤薔薇より茎が長く、葉や花は、ひと回り小さいという特徴がある。

 ガッタが見つけた蕾も、ようやく花弁が開きかけたばかりで、満開までには、あと三日前後の時間が必要であろうと予想される。


「ちっちゃくて、かわいいおはなね。いいかおりがする~」

「雪に埋もれないように、そして貴重な水分が蒸発しないようにするため、全体的に小振りに出来ている。また、花を蒸留して採取できるオイルは濃度が高く、芳醇な香りがするのが特徴だ」


 ニースが説明するのもお構いなしで、ガッタは瞳をハートにして薔薇に見入っている。

 すると、そこへルナールがやってきて、ニースに声を掛ける。


「ニース様。手紙と小包が届いてますよ」

「あぁ、わかった。すぐに向かう」


 ニースは、空になったじょうろを作業台の上に置き、ペンを取り上げてインクに浸し、二つ三つノートに数字を書いてから温室を出た。

 温室を出たニースは、ルナールに質問する。


「小包は、どこからだい?」

「マーケットの靴屋から。店主からのメッセージカードも一緒です」

「もう出来上がったのか。どこに置いてある?」

「ひとまず、応接間に。書斎へお持ちしましょうか?」

「いや、その必要は無い。ガッタを呼んでくるから、先に行って、自分の靴を履き替えると良い」

「承知いたしました。では、お先に」


 ルナールは、いつもと変わらぬ調子で恭しく一礼して立ち去った。だが、その後ろ姿を見れば、尻尾の揺れ具合で、出来上がった靴に期待感を持っていることが分かる。

 ニースは、温室へ戻り、ガッタに声を掛けようとした。しかし、さっきまで興味津々で眺めていた薔薇の前に、ガッタの姿は無かった。ニースが首を傾げると、肥料の袋の陰に隠れていたガッタが飛び出し、ニースの背中に抱きつく。


「バァッ!」

「オオッと。そこに隠れていたのか」

「ふふっ。びっくりした?」

「あぁ、驚いたよ。だけど心臓に悪いから、突飛な行動は慎んでくれ」

「とっぴなって、どんな?」

「いきなり、だしぬけに、予想が出来ないといった様のことだ」

「ニースは、サプライズが嬉しくないの?」

「ここ何年も誰かに驚かされることが無かったから、どうにも慣れなくてね。それより、この前に注文した靴が届いたようだ」

「えっ、ホント? わ~い!」

「待ちなさい。靴があるのは、応接間だ」


 ニースは、勢いよく靴を脱いで走り出したガッタを、散らかした小さな靴を拾いつつ、追い駆けて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ