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ふたりで暮らせるかな  作者: 若松ユウ
Ⅳ ダイヤモンドの月
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069

 コンパートメントには、洗面台を挟んで二台の二段ベッドが備え付けられている。一台のベッドでは、上段にシュヴァルベ、下段にルナールが、もう一台のベッドでは、上段にニース、下段にガッタが横になっている。

 窓には薄手のカーテンが掛けられ、窓の向こうには満天の星空が広がっている。


「ニース、おきてる?」


 吐息を吹きかけるような声でガッタが囁くと、ニースは耳敏く聞き取り、テノールのウィスパーボイスで言葉を返す。


「……ん? どうした、ガッタ」

「うえにあがってもいい?」

「眠れないのかい? 下に降りるから、待ちなさい」


 わずかな星明りを頼りに、ニースは上段のベッドを降り、下段のベッドの端に腰掛けた。


「駅に着くのは早朝だから、なるべく身体を休めた方が良い」

「わかってる。でも、カタンカタンがきになって、うまくねむれないの」

「それは、汽車がレールの繋ぎ目を通過したときに鳴る音だ。何も怖がる必要は無い。ぬいぐるみも、一緒だろう?」

「うん。だけど、あんしんじゃないの。ねむれるまで、よこでトントンして?」

「仕方ないなぁ……」


 ニースは足をマットレスの上に乗せ、ガッタに寄り添うように横になり、大きな手を毛布の上から小さな胸の上に置き、軽くポンポンと叩いた。

 徐々に叩くペースを落とし、ガッタの静かな寝息が聞こえてきたところで、ニースは手を胸の上から外し、起こさないように慎重にベッドから降りた。

 

「良い夢を」


 そっと呟くと、ニースは梯子に足を掛け、上段のベッドに戻って行った。


 四人を乗せた汽車は、信号所に近付くと減速し、併設されている給水塔の前で一時停止した。完全に列車が止まったのを確認すると、菜っ葉服を着た信号所の職員が現れ、汽車に連結されている炭水車のタンクに水を補充し始めた。

 しばらくして、水がタンクに充分補給されると、職員は炭水車から離れ、信号所に戻り、信号の腕木を水平から斜め四十五度に跳ね上げた。機関士は、信号の変化を指さし確認してから、汽車を発進させた。電車、気動車が当たり前の現代からすると、無駄な時間を費やしているようにみえるが、蒸気機関が発展途上にあるこの世界では、これでも最新鋭の技術。声高に環境問題を訴えてはいけない。

 緩やかにスピードを上げた夜汽車は、夜空が紫になり、そこから陽が差して青みが強くなった頃、やっと麓の駅に到着した。

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