007
タータンチェックのクロスが敷かれたダイニングテーブルを、ニース、ガッタ、それからルナールが囲んでいる。
本来なら、ルナールは使用人であるからして、主人やゲストと席を同じくすることはない。だが、ルナールが準備だけ整えて端に控えているのを不思議に思ったガッタが、ニースの説明に納得せず、三人で食べたい、一緒でなければ食べないと言い出したので、このように珍しい光景が実現したのである。
「しばらくは、ナイフを使わない料理の方が良さそうだな」
「そうですね。ガッタちゃんがお怪我をされてもいけませんから」
「スプーンとフォークは知っていたから、野生児という訳ではなかろうが、ずいぶん食文化が違う場所からやってきたらしい。一応、明日にでも麓の駐在で届出が無いか確認するつもりだから、そのあいだの面倒は任せる」
「はい、承知しました」
切り分けたパイをフォークで一口ずつ食べ進めつつ、ニースとガッタは今後のメニューについて話し合っていた。しかし、一足早く食べ終わったガッタには、話が退屈を極めたようで、一口水を飲んでは、グラスの縁を指で弾くということを繰り返して遊んでいた。
「そのうち割れるから、グラスを鳴らすんじゃない」
「ごめん。いいおとするから」
音色がラからレに変わったところで、ニースはガッタの手遊びにストップをかけた。
ルナールは、最後の一切れを口に運ぶと、この後の別の段取りについて確かめた。
「物置から、ガッタちゃんが着られそうなパジャマを出して、バスルームの方へ移動させておきましたから。その他、仕立て直せば良さそうなものは、明日にでもサイズを調整しておきます」
「あぁ、すまない。そうしておいてくれ」
「私は、食事の片付けが終わったら帰りますけど、ニース様お一人で大丈夫でしょうか?」
「何がだ?」
ルナールが懸念する点にニースが気付かないでいると、ルナールはガッタに話を振った。
「ガッタちゃんは、一人でシャワーを使えるのかしら?」
「シャワー?」
「この調子ですので、一から教えてあげなければならないかと」
ニースは、パイを平らげ、グラスの水で喉を潤してからルナールに相談を持ち掛けた。
「ルナール。今日から住み込みという訳にはいかないか?」
「そう仰ると思いました。でも、夕方には弟が帰ってきますから。家の外で待たせる訳にもいきませんし、それに……」
「分かった。皆まで言わなくて良い」
結局、ルナールが帰ったあと、ニースはバスルームでガッタに振り回されることになるのだが、その話は、この次に。