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ふたりで暮らせるかな  作者: 若松ユウ
Ⅳ ダイヤモンドの月
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052

 旧市街は、王政時代に宮殿から続く城下町として栄えた過去があり、今なお往時の面影を色濃く残した建物やパサージュが多く存在する。また、街の周囲を肥沃な大地に恵まれ、港まで続く街道も古くから整備されていたことから、交易の要所として各種市場が発達している。

 そんな物流の中心点では、物とともに人も、あらゆる方面から集まってくる。

 ひょいとマーケットを覗けば、見た目も特性も異なる人々が、買い手、あるいは売り手として往来していることが見てとれる。例えば、アラクネ属のブティックで、ライオン属の婦人がブラウスを選んでいたり、ドワーフ属の鍛冶屋が、ドラゴン属の料理人の包丁を打ち直したりといった具合である。

 このように、現在では様々な属性の生き物が、それぞれの多様性を認め合って暮らしている。だが、それは長い歴史の中で積み上げられた功績であり、過去には属性や住区等でせせこましく分断し、血で血を洗う凄惨な騒乱が幾度も繰り返されてきた。そのことを実体験として知るのは、エルフ属のように長命を誇る種であり、ニースにも、この街で苦い経験をした過去がある。


 さて。旧市街についての説明は、このくらいにしておいて、ニースたちの話に戻ろう。

 汽車を降りたニースは、ガッタの手を引いて駅を降り、坂の上に建つビーアンドビーへ移動することした。そこに面倒見としてルナールが付き添うのは自然だが、なぜかシュヴァルベまで付いて来ようとした。


「宿くらい、自分で探したまえ」

「そんな冷たいこと言わないでくれよ。荷物持ちでもなんでもするからさ。頼むよ~。神様王様ニース様ぁ」

「ニース。かわいそうだから、いっしょにおとまりしてあげようよ」

「まったく。図々しいこと極まりないが、致し方ないな」

「助かった! この恩は、きっと何らかの形で返すよ」


 どこまでも甘えようとする恥も外聞もないシュヴァルベの態度に呆れつつ、ニースは自分とガッタの荷物を預け、早くも見慣れない街並みに目移りしているガッタに前を向いて歩くよう言いつつ、宿へと足を踏み出した。

 

「あれが、おとまりするところ?」

「そうだ。ニワトコ亭というから、名前と看板の絵をよく覚えておきなさい」


 それから、しばらく石畳の坂道を上ると、赤い果実と緑の双葉が書かれた看板が見えてきた。両手にトランクを持っているシュヴァルベは、途中で春のぽかぽか陽気に負けて上着を脱いでしまっている。

 

「遅いわよ、シュヴァルベ」

「待ってくれよ、姉ちゃん。さっきから、ずーっと急勾配が続いてるし、このトランク、絶対、鉛が入ってる」

「そんなもの入れてないわよ。なんでもするって言ったのは、誰だったかしら?」

「ええい、わかったよ」


 歩くスピードが遅くなってきたシュヴァルベをルナールが煽ると、乗せられたシュヴァルベは、半ば自棄になって小走りになり、額に汗しながらもなんとか三人に追いついた。

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