047
お茶と軽食を応接間に運んだあと、ルナールは使用人部屋に下がり、ほどいた毛糸を玉にしていた。ルナールの隣には、輪状になっている毛糸の束を両手に構えたガッタの姿もある。
「おだんごにしたけいとは、どうするの?」
「また寒くなってきたら使えるように、大事にしまっておくのよ」
「ふーん」
分かったような口ぶりをしたあと、ガッタは、朝にニースから聞かされたことについてルナールに問いかけた。
「ねぇ、ルナール。おきゃくさまって、どんなひとなの?」
「そうねぇ。謙虚な優しい方で、少々お年を召してらっしゃるわ」
「けんきょ?」
「控えめで、そばにいる人の気持ちを考えられるってことよ」
「あっ、しってる。それって、きくばりでしょ?」
「そうそう。気配り上手と言ったらよかったわね」
そんな話をしているうちに、ガッタの手に通していた毛糸は、すべてルナールの手元へと移った。毛糸から解放されたガッタは、上げっぱなしだった腕を下ろし、滞りを取るようにブランブランと振った。
最後まで巻き終えて出来上がった毛糸の玉をバスケットに入れ、それをテーブルの上に置くと、ルナールはガッタの頭を撫でながら言った。
「ガッタちゃんのおかげで、仕事がはかどったわ。ありがとう」
「えへへ。どういたしまして」
ガッタは腕を振るのをやめ、照れ臭そうに微笑んだ。ルナールは、素直な反応を示すガッタに心を癒されつつ、弟であるシュヴァルベよりずっと役に立つではないかと、内心で比較していた。
ひとしきり撫でて満足したルナールが手を離すと、ガッタは好奇心を隠し切れない様子で瞳を輝かせながら言う。
「あのね、ルナール。いとをまいてるあいだ、ずっときになってたんだけど」
「なぁに、ガッタちゃん」
「ルナールのおみみとしっぽ、ちいさくなった?」
あぁ、そうか。この子は、夏毛に替わることを知らないのか。
自分にとっては当たり前のことで、まさかガッタが知らないとは思わなかったルナールは、一瞬、虚を突かれたような表情をしたが、すぐに元の表情に戻って説明をはじめた。
「お耳と尻尾は、いつもお洋服の外に出てるでしょう? だから、寒くないようにフカフカになったり、暑くないようにスベスベになったりするのよ」
「へぇ~、すごい。おもしろい! ねぇねぇ、さわってみてもいい?」
「えぇ、いいわよ」
「わぁい! あっ、やわらかいね」
ルナールが前傾姿勢になって差し出した耳と尻尾を、ガッタは毛並みに添うように撫でたり、親指と四指で挟むようにしたりしつつ、その触り心地の良さから、うっとりとした表情になった。
ルナールは、好奇心が満たされていくガッタを見て和みつつも、そろそろティーセットを回収に行かねばならないかしらと考え始めた。




