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ふたりで暮らせるかな  作者: 若松ユウ
Ⅲ アクアマリンの月
45/181

045

 それから、二週間が過ぎた頃のこと。 


「よし。苗の発育も順調だし、葉や茎に害虫も付いていないな」


 温室で水やりを終えたニースは、軍手をした手で伸びてきた枝葉を調べ、満足そうに頷いた。

 すると、じょうろを片付けに行っていたガッタが、シュシュで留めた前髪をヒョコヒョコと揺らしながら、ニースの方へと掛けてきた。


「ニース! ゆうびんやさん」

「分かったから、シャツを引っ張らないでくれるか」


 カフスを掴んで連れて行こうとするガッタに、ニースはやんわりと苦言を呈しながら、作業台からペンを手に取り、出入口へと移動した。

 二人が温室を出ると、そこへペリカン属のしゃくれ顎の青年が現れ、斜めに提げたペリカンマークの鞄から手紙の束を出し、ニースに手渡した。


「これが、今日の分です」

「ご苦労様」


 ニースは手紙を受け取ると、青年から伝票を受け取ってサインをした。青年はサインを確かめると、帽子に片手を添えて挨拶し、両腕の翼を広げて飛び去った。

 ガッタは、みるみる小さくなる青年の後ろ姿を見送りつつ、腕を横に伸ばし、肘や手首の向きを変えたり、庭を走ってジャンプしたりし始めた。どうやら、どうやったら飛べるのかと考えているようである。

 ニースは、しばらくしたら飽きるだろうと思い、自分は書斎に向かい、ガッタのことは、そのまま放って置くことにした。


 書斎に着くと、ニースは手紙の束を解き、それぞれの送り主を確かめてはデスクの端に置いていき、最後の一通で手を止めた。

 

「この前の返事かな……」


 ニースは、抽斗からペーパーナイフを取り出して封を切ると、中に入っている紙を広げ、目を左右に走らせながら、一字一句丁寧に黙読していった。

 そして、最後の紙の末尾まで読み終わると、手紙を持ったまま立ち上がり、出窓の方へと移動した。


「高評価を受けたのは嬉しいが、研究上で知り得たデータや培われた技術を、新兵器開発に転用されても困るからなぁ……」


 ニースは、そこで手紙をビリビリに破き、花弁ほどの大きさにまで細かくすると、出窓を開け、その紙片の山を両手で掬い、吐息で窓下へと吹き飛ばした。

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